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 遠藤記者が 「それだけ?」 と首をひねる仕草をしても、神崎は田中議員のことについては話さなかった。 彼女がどこかから真相を嗅ぎつけても、その後のことは神崎の知ったことではない。 そうして記事にしたところで、どこかからストップがかかる。 今後のことを考えれば、誰も警察とは対立したくないだろう。


「しばらく、俺と薫子に護衛してくれる人が付くんだってさ」

 遠藤の目つきが一瞬(けわ)しくなった。 記者なんてやっていると、それだけでいろいろわかってしまうのかもしれない。 警察は神崎が狙われる理由を知っている、と彼女は勘付いたか。

「……そう。 私もしばらく貼りつくからね」

 うえ~、と神崎が露骨にイヤそうな顔をすると、冗談だと受け取ったのか、遠藤はニュッと笑った。


 会話の切れ目に神崎は掃き出し窓へ立っていって、そろそろ外の様子はどうなったか、とのぞいた。

「まだ、何人かいるなぁ」

 遠藤も隣へやって来る。 ちょっと近い。 「あれは……違うかなぁ」

 違う? 神崎もピンと来た。 記者もどきのニートたち。 SNS上の話題捜しに重い腰を上げ、スマホをかまえてこのアパートを撮影している。

「まったく迷惑な奴らだなぁ」 自分とさして変わらないような気がしたので、それ以上は口をつぐんだ。

 遠藤もこのタイミングで神崎を見た。 そして、あっと思い出し腰を伸ばして、言った。

「昼にお礼にみえたご夫婦。 神崎くんが保護したって女性の件だけど、ちょっと調べてみたわ」

 神崎、クンか……。


 車にモバイルPCが載っているらしく、彼女は 「取りに行ってくる」 と言って、部屋から出ていった。

 駐車場のほうへ回り込んでいって、自分の車へ小走りに行く彼女を、神崎はカーテンの隙間から見ていた。 遠藤は長身で、胴がニュッと長くて、尻が大きい。 後ろ姿で今気づいたことだ。 記者もどきたちが、パッと隠れる様子にプスッとふいた。


 神崎は、彼女が戻ってくる前に延長コードを準備しておいた。 遠藤は 「ありがと」 と礼を言って、とりあえずは電源に繋がずにPCを起ち上げた。 彼女が持ってきたのはⅰPaⅾだった。 昨年モデルの新しい機種だ。 一応、ルーターのパスを教えた。

「えっと、菅原 初美さんの件ね。 年齢は二十一、大学生よ」

 あの裸女はそんな名前だったのか。 二十一って? もっと老けて見えたけど……。

「交際していた男性に、お別れを切り出したのが始まり。 で、その二日後に車で拉致されたらしいわ」

 神崎の脳裏に、五時間ほど前のことが鮮明によみがえった。

「ワゴン車には三人の男が乗っていて、別荘みたいなところに連れていかれたって。 そこにもう一人が待っていて監禁された、と」

「ということは」

「えぇ、犯人のうち、ひとりは元カレで確定。 他の三人は、その彼の悪いお友達ってところかしらね。 そのうちのひとりが、人知れず監禁するにはちょうどいい別荘を所有していた」

「やっぱり、ほぼ終わってたんだな」

「まだ、ひとりも捕まってないけどね。 あっとこれは……」

 遠藤が言い淀んだ。  「三日間にわたって、その四人から代わる代わる暴行を受けたらしいわ」

「ひでぇな……そっか。 んで、その情報って遠藤さんの会社の同僚から?」

「うん。 事件の概要は、記者クラブには発表されているの。 でも、公表できるのは警察からGOサインが出てから。 まぁ犯人が捕まっていないんだし、これは仕方ないか……」

「俺を指さして、叫んだ理由は?」

「う~ん」 遠藤は画面上で指を動かす。 「そのことには、ひと言も触れられていないわね」

「え~、朝まで監禁された俺のことは、なかったことにされてんの?」

「そういうことね。 ――その後、初美さんは自力で脱出……裸だから、どうせ逃げられないとでも思って、油断したのかしら……偶然、車で通りかかった男性(32)に保護された。 神崎くんって、32歳なの?」

「そうだよ」

 へえ……。  何だよ?

「べつに。 ……あと、場所と時刻は、神崎くんのレポートにあった通りね」

 神崎の気になっていたのは、彼女が自分を指さして、金切り声をあげた理由だけだ。 肝心のそこが聞けないなら、もうあの事件にも、その元カレの性格にも興味はない。


「ところで、腹減ってねぇ?」

 ⅰPaDから顔をあげた遠藤が、ニュッと笑んだ。 その唇をニュッとゆがませるのは、彼女の癖か。

「出かけにくいでしょう。 何か買ってきてあげようか?」

「あっ頼める? 弁当でも食材でもどっちでもいいよ」

「神崎くんって料理もするの?」

「そりゃ、簡単なものなら……」

 そのとき、神崎のスマホが鳴った。 画面には常盤の表示。 ちょっと待って、と遠藤に言い、電話に出た。

「ちょうどいいタイミングだな、ヒデ。 頼みたいことがあるんだけど」

「なに? あっと、それよりネットニュース観てる? さぐっちゃんのアパートが出てるけど」

「え?」

 早速かと思うと同時に、盗聴器が見つかったとき、常盤もここに居たことを思い出した。





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