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 神崎は後片付けをして、二人分のコーヒーを淹れた。 ビールはもうそのくらいにしておけ、という意味がこもっていた。 薫子はテーブルを拭くくらいはした。 食事中にだいたいのことは話したので、やっと二人きりになったといっても追加報告はなかった。 時刻は二十二時をすぎたところだ。


「ああやって遠藤さんは張り切ってっけど、もうしばらくはないと思うけどなあ」

「私も、さすがに今夜はないと思うけどね」

 星のない闇夜に、薫子はカーテンを少しだけ開いて、遠藤の車をのぞいた。 ここからは無人に見えるが……。 後部座席で伏せているのだろうか。 それとも周辺パトロールでもしに行ったか。

「誰か来るまで続ける気かしらね」

「あの勢いだと、二、三日は張り込むんじゃねぇの」

「ふ~ん、まるで他人事じゃない」

「調べるのは警察。 記事にしたいのは遠藤さん。 俺がすることなんてないだろ」

「それでも、こっちも何かしらの対策は、していたっていう体を見せておきたいじゃない」

「……誰にだよ」

「そうだ、武器を作ろうよ」

「だから誰に……」 神崎は言いかけて諦めた。


 薫子は隣の寝室へ行った。

 こんな雰囲気なら、今夜に薫子とイチャイチャはない。 遠藤がトイレを借りに来ることも予想できるし、その場合、居留守はしづらいし。

 寝室のクローゼットの端に、カラーボックスを寝かせて四段重ねにしてあった。 服が少ない神崎ならではの隙間有効活用だ。 物入れとして使っていて、おもちゃから殺虫スプレーから、現在はごちゃごちゃと、まとまりのない隠し空間になっている。

 この部屋のことを熟知している薫子は、その前に座してあさり出した。

「ホコリが出てくるから、あんま掻き回すなよ」

「うーん」

 わかっているのか、彼女の返事は何とも曖昧だ。

 

 やがて彼女は、手に拳銃タイプで緑色半透明の水鉄砲を、二丁持って戻ってきた。

 ソファで神崎が嫌そうな顔をした。 薫子と行った何年か前の夏祭りで、ノリで購入してしまった単なるおもちゃだ。 たしか……二人とも、十分くらいで飽きたはず。 武器だというなら、その近辺に十徳ナイフとかもあっただろうに。

 薫子の魂胆が読めたので、神崎はキッチンへ立っていって、調味料ラックから一味唐辛子の小瓶をとった。 隣に立った彼女は、水鉄砲についたホコリを洗い流し始めた。

 一味唐辛子は、お湯で溶かれて目潰し液になった。

 さっそく装填した。 これで準備OK、というより、彼女の中でひとつ満たされたようだった。


 あらためて、二人ともリビングの定位置についた。 何が切っ掛けだったか、薫子の仕事関係の愚痴が始まり、それをありがたく拝聴する。

 やがて、彼女がうつらうつらとしてきて、神崎は解放されることになる。 まだ二十二時台だというのに、今朝のことがあったせいか、神崎もまぶたが重くなっていた。

「おい薫子、寝るんならベッドへ行けって。 ……っていうかお前、歯ぁ磨けよ」

「うーん」

 以前に、これと同じようなシチュエーションで放置した結果、薫の首がおかしなことになって、しばらくなじり倒されたことがある。

 神崎は彼女をお姫様抱っこして、寝室へ運んでいった。 彼女が完全には眠っておらず、この状況にほくそ笑んでいることは承知の上だ。 壊れ物注意で運んだが、リビングでスマホが鳴り出したので、最後だけ雑に落とした。


 薫子の苦情を背に浴びながらリビングへ行き、スマホを取り上げた。 画面には知らない携帯の番号が出ている。 通話をタップした。

 向こうは元気よく手塚と名乗った。 警察だった。 時間的いっぺん通りの断りがあって、それに大丈夫だと答えた。

 浜田刑事からこちらの情報を得て、それなら午前中より、遅い時間のほうがいいとアドバイスされたそうだ。 じつに的確な意見だと思う。


「……というわけで、是非とも直接会ってお礼が言いたい、とのことでした。 そちらの連絡先を、お教えしてもよろしいでしょうか」

 裸女の両親か……。

 ここでやっと思い出した。 この刑事は取り調べのときにいた、めちゃめちゃ印象の悪かった奴だ。 今は丁寧な感じだが、こちらはパッと割り切れる性格でもない。

 しかし、あれは神崎としても気になる事件だった。 けっきょく、未だに何も報されていないのだ。 テレビニュースでもやってないので、想像はつく。 が、ききたいし知りたい欲求は膨らんだままだ。





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