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 ドアノブの交換作業を無事に終えたので、神崎は母屋へ寄った。

 絵梨子さんへ合い鍵を渡して、諸々を報告する。 お古のドアノブセットは、破砕ゴミの箱へガラガラと放った。 まだ使える物だが、使い道を思いつかなかった。


 これがあと五部屋分か、と芝居がかったような渋い顔をした。 照りつける太陽を見上げ、労働の汗を手の甲で拭う。 もちろん、遠藤記者のことは忘れていない。

 部屋に戻ると、遠藤が 「お疲れさま」 と出迎えた。

 変な感じだが悪い気はしない。 道具はすぐに定位置へ片す派だ。 手と顔を洗い、自分の分のコーヒーを淹れる。

 私はこの席でいいのかしら? そこでいいよ、みたいなやり取りを、目と手ぶりだけでした。

 ゆっくりとマグカップを傾ける仕草を、横から遠藤に見守られている。 その視線が暑苦しい。 彼女は、神崎が一服するのを待っていた。 そろえたヒザに置かれた雑誌に、親指をはさんでいる。 例のページを開くタイミングを、計っているようだ。


 神崎は、自分と違って彼女は忙しいんだろうと思い、

「どんな感じになったの?」 ときいた。 根負けした気分だ。

 食い気味に、そのページは開かれた。

 見開きで二ページ。 パッと目に飛び込んでくる写真は三枚。 雑誌を受け取って、神崎はじっくりと目を通している途中で、感嘆の声を漏らす。 脚を組み替えた。

 プロが書くと、こういうふうになるのか……。

 もちろん、小説と事件記事とでは書き方はまったく違うが、参考になる部分も多い。 比べるとするなら、神崎が渡したレポートのほう。 それでも、ただの記録と、読ませる文章の差はあきらかだ。 続きを読みたいと思うような文章構成? 自分のレポートに必要か? ふと薫子や常盤の顔が浮かぶ。 ……どうでもいいかな。


 この人なら、他のレポートをどう処理するのか知りたくなった。 未解決事件なので、言おうか言うまいか……。 悩むところではある。 ノートPCをパクられてから、何もまとめられていないので、パッと見せることできないが。

 雑誌はくれるというので、とりあえず、そのページを開いたままテーブルへ置いた。 神崎は、ひと通り読んで、率直な感想を述べて、労をねぎらってから 「じつはですね」 と切り出した。

 そう言ってから、神崎はもう一度躊躇(ちゅうしょ)した。 それが遠藤の好奇心を煽る形になって、座り直した彼女から 「とりあえず話してみて。 話の内容によっては、私の中だけでとどめるって約束するから」 という言葉を引き出した。


 神崎は一つうなずいてから、空き巣の話から始めて、今日の出来事までを話してきかせた。 薫子と彼女は会っているので説明を省き、常盤のことをかいつまんで話した。 盗聴のくだりで、だ。 浜田刑事は、話の最初から登場させたが、自分がペラペラと事件のことをしゃべっている、とバラさないでほしいと伝えた。

 彼女は 「わかってるわ」 そんなこと、わざわざ言わなくても、といった感じで幾度もうなずいた。

 遠藤の目つきが変わっていく様は、傍から見ていて面白い。 神崎自身、自分で話していて関連性があるとしか思えなくなってきた。


 聞き終えた遠藤は、指で下唇をつまんで、揉んだり引っ張ったりした。 考えるときの癖なのだろうか。 誰かが、その癖直したほうがいいよ、と教えてやればいいのに……。

「関係があるという確証はないわけね」 と遠藤は思案顔になった。

 考えとは裏腹に、といった感じが、彼女の目つきからうかがえる。 記者がこんなネタを、ただの被害妄想だと切り捨てるわけがないのだ。

 コーヒーで唇を湿らせてから、

「そこなんだよなぁ」 と神崎も、いつしか前のめりだった体を背もたれにあずけて、ため息を噴き上げた。

 そのとき、あっと思い出した。


 盗聴ストーカーは謎の裸女の関連かもしれない、ということを言い忘れていた。 市の広報と関連づけた常盤の意見に傾倒しすぎだ。

「そっちじゃなければ、こっちかもしれない」

 言いながら神崎は本棚へ行って、常盤にも見せた例の……あれ?

 遠藤の期待する視線を背中に感じる。 浜田刑事にあげてしまったことを思い出した。


 神崎はソファに戻ってきて、そのことを言った。

「まだ恨みを買うような事件があるの?」

 恨み? 恨みか。 ……だな。 悪い奴にとっては、そうなるか。

 ノートPCもレポートもなければ、日時が曖昧だ。 それでも聞いてもらう価値があるような気がした。





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