表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/44

 3


 神崎にしてはだが、今夜はよく歩いた。

 せっかく買ってきたカップ麺よりも、ベタつく肌が気になった。 このままベッドへは入りたくない。

 面倒だと思いながらもサッとシャワーを浴びて、ぞんざいに髪を拭きながら、ノートPCの前に座った。

 つまらないことをしたものだ、というのがこの時点での感想だった。 脚に疲労が出ている。 けして心地いい疲労感ではなかった。 だが、やろうと思ったことは最後までやろう、と思う自分もいる。 男を尾行した記録をまとめるのだ。 もちろん、やめたところで誰からも怒られない。 損をした気分はするかもしれない……。 いや、やっぱり今夜のところはここまでにするか。

 考えを二転、三転させて、けっきょく神崎はベッドへ移動した。


 日頃の神崎は目覚まし時計要らずで、だいたい十時頃に目が覚める。

 昨夜の疲れが出て深く眠り、この季節の室温のせいで寝ていられなくなり……結局は+-0で十時ちょうどに目が覚めた。 なにか夢を見ていたような気がするが思い出せなかった。

 洗顔ついでに、水道水で腹を満たした。

 ノートPCと扇風機を同時に起動させ、昨夜の尾行記録の作成開始だ。

 書式にこだわる必要はなかったが、あとで見てわかりやすいのは、やはり報告書のような形態だと思う。 神崎の指が、寝起きとは思えないしなやかさで、キーボードの上を滑り始めた。


 インスタントコーヒーを淹れて、戻ってくるときに見たPC画面は、なんとなく華やかさがたりない感じがした。

「あいつが出てきたアパートと、帰宅したマンションの画像はあったほうがいいな」

 コーヒーを一口飲んでテーブルに置くと、さっそく地図を検索する。 ストリートビューにして、画像をいただこうとしたのだが、気に入った構図に調整できなかった。 不動産屋の物件情報で検索して、その点を解決した。

 さて、そこまですると、男が帰宅したマンション横の、プランター周辺の画像が欲しくなってきた。 途中経路風景、電柱のプレート……。 いくらでも欲は膨らむのだ。


 神崎には、こういうのを見て、一緒に笑ってくれる友人がいる。

 その彼女からツッコまれそうなことを想像すると、たりないものが見えてくるようだった。

 今しか書けない、昨夜の心情などを盛り込み出せば、際限がなくなってしまうだろう。 どんどん凝った仕上がりになっていって、結果、不細工な報告書ができあがってしまうのだろう。

 神崎はコーヒーを飲みほして、マグカップを流しへ運んだ。

 ハーフパンツに脚を通し、デニムのシャツを羽織って、肩掛けのポーチを巻いた。 デジカメをそこへ落とし込む。 洗面台の鏡をのぞくと、髪型が面白いことになっていた。


 自転車のカギを取って部屋から出ると、ちょうど継母が庭木に水をやっていた。 色白の肌を紫外線から守るための完全防備だ。

「探さん、お出かけ? 帽子は? 熱中症になるわよ」

 神崎は 「お早う」 とだけ言って、肩越しに片手を振った。 彼女は何か言ったようだったが、神崎の耳までは届かなかった。

 階段下のスペースが自転車置き場になっていて、そこから引っ張り出したママチャリで出発した。

 コンビニまで行く必要はない。 逆ルートでもいいし、男が飛び出してきたアパートからでいい。 小便の田中、もとい、べつに田中さんが小便をしたわけではないが、田中邸の塀の画像は押さえておきたかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ