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 神崎は自転車をこぎ出し、母屋の植え込みを回って表へ出ていった。

 左右の安全を確認する要領で、男の顔を流し見てみると、昨夜のジャージの男と、どことなく似ているように思えてきた。

 その他にも通行人がいる。 時折、車も通る。 まんべんなく状況を把握することで、こちらは無警戒だと、その男へアピールしておく。 小学校の方へと向かった。


 常盤は変わらず、プロパンガスの小屋の陰から顔をのぞかせている。 神崎を追うか、留守になった部屋に侵入を(こころ)みるか……。 男がこちらの考えているとおりなら、その二パターンだと思っていた。

 男は神崎のほうへ顔を向けたが、動かなかった。 悠長にジュース缶を傾ける仕草は、いかにも自然な振る舞いに見えた。 缶を捨て自転車にまたがり、アパートへ一瞥をくれてから発進した。

 追っていく? いや、これでは判断がつかない。

 常盤は男が見えなくなってから道路へ出ていった。


「さぐっちゃん、男が後ろについてる。 けど、あからさまに、さぐっちゃんを追って出発したような感じはしなかった。 僕も出発したよ」

「う~ん……。 とりあえず予定通りに校門前を通って、ファミレスまで行ってみる」

「そだね」

 神崎は (男が、さぐっちゃんの部屋のカギをいじり出した!) って感じの大当たりを期待していた。 行き先が同じ方向なだけともとれる現状では、次にどう動くかを考えなければならない。

 追うのは面白いと感じていたが、つけられていると思うと途端に気持ち悪くなった。 腹痛になる予兆がある。 早々に決着をつけなければ堪らない。

 完全な成り行きまかせになっていることを常盤に伝えて、意見をきく。 常盤も返事に困っているのか 「そのまま小学校へ」 と言った。


 幹線道路が近づいてきた。

 小学校へは、その道路を横断しなければならない。 しかし、青信号を待って横断歩道を渡らなくても、歩道橋が架かっていた。

 ハッと思いついて 「ヒデ」 と呼びかけた。

「歩道橋の上で、挟み撃ちにしてやろうか」

 ただ、その歩道橋は、通学する小学生の安全のためだけに架けられた、と言っても過言ではないほど狭い。 なので、神崎が自転車を押して、そこを登っていくのは不自然だ。 常盤も地元民なので、その不自然さには、すでに気づいてる。 自転車に乗った大人は、普通は登らないのだ。


「挟んでどうするのさ。 尾行していただろうって問い詰めたりしたって、しらばっくれられて終わりじゃん。 ついて行かないで、下から見ているかもしれないし。 いやちょっと待って……やっぱそれでいいかも。 歩道橋の真ん中くらいでさ、下の道路を撮影している振りなんてしてみたら、どぉ?  本当に尾行しているなら、さぐっちゃんを一旦やり過ごして、どっかから見張るんじゃないかな。 僕も今から隠れるから」

「ヨシ、やろう。 勘違いなら、それはそれでいいんだし」

「そうそう。 それで離れていくようなら、今度はアイツが、どこの誰だか尾行してやろうよ」


 常盤が大急ぎで離脱して、交差点の角にある店の駐車場内の、離れた地点にたどりついた。 神崎のイヤホンに、常盤の荒い呼吸が届いている。

「今から歩道橋」

「ほ、ほーけい。 フゥ、まひょこから見てる」

 OKと言ったつもりだろう。 常盤が仮性包茎だと知っているだけに、笑みがせり上がってきた。 真横から見えているのは、玉金じゃないよな?

 神崎は自転車を押す声に紛らわせて、笑い声をごまかした。 運動不足だ、何だと指摘するのは、面倒事に付き合ってくれている常盤に悪い。 そう思って無理やり真顔をつくっても、ツボに入ってしまったのでしかたない。 そのせめぎ合いの結果が、苦しそうな顔になって現れていた。 他所から見れば、そうとう重い自転車を押していると思われそうだ。


 神崎は歩道橋の真ん中付近で、走ってくる車へスマホを向け、通りすぎていく車を撮影しているフリをした。 れいの男が今、どこら辺にいて、どうしてるかは、常盤情報がなければわからない。 視線を一切向けないよう(つと)めているからだ。

「さぐっちゃん、男は信号待ち。 上がっていきそうにない。 さぐっちゃんを見上げてる」

 歩道橋の上でバタバタしていたら、誰でも気にするか……。

「あっと信号が変わった。 渡ってる。 僕はここで、もう少し様子を見てから動くよ」

「俺はこのまま上に居たほうがいいかな? ……ヒデ?」

「……。 ゴメン。 こっちの正面に来た。 ちょっと移動する」


 大げさな動きは、よけい芝居くさいなと思い直し、神崎は金網に貼りつくようにして、スマホをかまえた。 目だけで、常盤と男の位置を確認した。

 そして、二人はほぼ同時に声をあげた。

 男は自販機でジュースを買っていた。 さっき飲んでから、十分と経っていないのに。

「か、確定でいいんじゃね?」  神崎は思わずブルッと震えた。

「そっちからも見てんの? 次の青信号で渡るから、合わせて降りてきてよ。 一緒に行動しよう」

「いや、俺は歩道橋を戻る。 せっかく渡ったのに、男がまた戻ってきたら、今度こそ確定だろ。 それを見届けて」

「……わかった」

 神崎は緩慢な動作で、すぐに動いた。





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