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常盤が一発目で当たり?を引いたのは、コンセントカバーのちょっとした段差に、ホコリが積もっていなかったかららしい。 得意気な表情ではなかった。 まさか本当に盗聴器が見つかるとは思っていなかっただろうから、常盤のそんな表情にもうなずける。
それよりも当事者である神崎のほうが、滅入っている。 未だ、心臓が膨れて周辺を圧迫しているような感覚が続いていて、どうにも不安を払拭できないでいた。
盗聴器の類はないと証明されたばかりの部屋で、二人はボソボソとしゃべった。 話題はアニメ関連グッズのことで、そっち方面に明るい常盤から、後々有益な情報を得ていた。 謎の女、保護記録の最初のほうに記載されている、プラモデルを自配した話から、そっちへ飛んだのだ。 盗聴器の話題を避けたいがための、と言ってもいい。 話の盛りあがりに、わざとらしい感じがあることは否めなかった。
夜が明けるまで、このまま起きていなければならないような雰囲気が、室内に立ち込めた。
それでも、やがて睡魔というのはやって来るもので、二人ともに口数が減っていき、ソファの縁に頬杖をついて、うつらうつらと揺れた。
頭がガクンッと落ちて、神崎が目を覚ました。
常盤は、ソファからズリ落ちている途中のような恰好で寝ていた。 手にはスマホを持ったままだ。
ふいに背後から視線を感じて、嫌な感情がぶり返した。 寝返りを打つように見せかけて、片腕を背もたれに這わせていく。 細目でカーテンの隙間へ視線を集中したまま、三分。 弱気のせいだったと知り、立っていってカーテンを開いた。
朝の陽がドバッと差し込んできた。 数時間後には、気温もぐんぐんと上がってくるのだろう。
神崎は、固まった体を解しながら、駐車場の様子を見た。 アパート住人のあの車があるということは、まだ八時前なのだな、と思う。 呻き声がしたので振りかえった。
常盤はなかなか上体を起こせず、一旦床まで落ちてから、ソファへ座り直した。 腹部の筋繊維がやせ細っているのは、お互いさまだ。
「起きた? 飯でも食いに行こうか」
常盤から返事はなかった。 が、彼は顔を洗いに立っていった。 普段は神崎もこんな時間には起きていないので、今の常盤の状態が理解できる。 頭が回っていないのだ。
神崎は寝落ちするまでに作っておいた競取りの求品リストを、プリンターに送信して吐き出させた。 もう一度、スマホで、すでに解決している物品がないかを確認しておく。 全国の同業者たちと客の取り合いになっているのが現状だが、神崎の狙うジャンルに限っては国内だけの時差なし案件なので、この時間ではまだ動いていなかった。
常盤と交代で出かける準備をした。
まだ古本屋もガラクタ市も開いていないが、外に出た。 しっかり施錠して、鍵ヨーシ! なんて指差し呼称をやると、常盤に軽くウケた。
神崎は母屋のほうへ行って、およそスポーティーとは呼べない自転車を引っ張り出した。 チェーンロックは、末尾の番号を一つズラすだけで外れた。 絵里子さんから使っていいと言われている。 前後にカゴのついたママチャリだ。 常盤は駐輪場にとめているはずなので、そっちへ迎えに行った。
すると、常盤はプロパンガスの小屋の前で、しゃがんでいた。
「何やってんの?」
常盤はビクッとしたあとに振り向いて、シッ! と指を口にあてた。 続けて手のひらを下に向ける。 自分と同じように屈め、という合図だ。
何のおふざけかと思いつつも、自転車から降りて頭を低くした。
「あの人、変だ」
常盤の言うあの人は、自販機の前に自転車を止めて、スマホか何かを見ていた。
「変?」 神崎には、その男の何が変なのか、わからなかった。
「さっき自転車置き場に行ったときに、あの男はスッとペダルを漕ぎ出したんだよ」
ふんふん、と相槌を打つ。 それが?と聞くまえに、常盤は続ける。
「向こうへ走っていったのに、今見たら、また戻ってきてる。 場所はちょっと違うけど」
神崎の鼓動が早まって、下腹に嫌な感じがズクンッと脈打った。 なぜだか、それで度胸が据わったような気がした。
「俺、今から小学校のほうへ行くよ。 ヒデ、アイツがどう動くか、ここから見ていてくれよ」
一瞬、常盤はキョトンとした顔をした。
「わかった。 ……そうだ。 電話を繋いだままにしようか」
「いいね、それ。 ヒデ、ヘッドセット持ってきてる?」
「うん」
神崎はヘッドセットを取りに戻った。 常盤に電話をかけて、調子を確かめ合った。 それから、母屋の自転車置き場へ行った。 自然な感じを装い、ここからスタートだ。
時刻は、八時十七分――




