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なにぶんにも深夜なので、ご近所に配慮して警察は静かにやって来た。
鑑識二名と刑事二名だけだった。 その鑑識の人も盗聴電波を調べただけで、指紋採取などは行わずに、盗聴器を取り外して持ち帰っていった。 先日の空き巣事件の際、いろいろやったので省いたのだろうか。
けっきょく、盗聴器は二つ仕掛けられていた。 ひと部屋に一つずつといったところだ。
盗聴器が空き巣被害のときに設置されたとするなら、盗聴バカはそうとう忍耐強かったと思う。 その間に薫子とはイチャついてないし、普段から独り言をいう癖もないからだ。
神崎と面識のある浜田刑事と、須賀という刑事が部屋に残った。 盗聴器の存在を疑ったのも、発見したのも常盤なので、そのへんの経緯をさっそく尋ねている。
常盤の言う、広報に載った記事からの発想に、刑事二人は驚いていた。 テーブルに広げた広報をじっくりと見て、はぁなるほどといったうなずきを繰り返した。 それなら、今日、正確には昨日だが、当て逃げされたことも、無関係ではない可能性が出てきたのではないか。
浜田刑事は常盤をチラチラと見ながら、額に深いシワを刻んだ。 神崎が淹れたコーヒーに口をつけて一呼吸おいてから、
「こちらからも報告があるんですよ」
神崎はどの事件についての報告か、と頭を巡らせる。 「殺人事件、裸の女、空き巣、当て逃げ……」 つぶやくように並べた。
「裸の女? 何ですか、それは」
あっいえいえ、と顔の前で手を振る。 「それで報告というのは?」
「ええ。 神崎さんとご友人の証言にあった、当て逃げの車のナンバーについてですが」
「あぁ、はい」
薫子とどちらが正しかったのか。 さぁ正解発表だ。 あとで薫子にはメールで報せてやろう。 彼女の悔しがる顔が目に浮かぶようだ。
「あれ、天ぷらナンバーでした」
「天ぷーら?」
常盤が横から教えてくれる前に、須賀刑事が説明する。
「登録はあるのですが、まったく別の車両のものでした。 ナンバーだけを付け替えてあったわけです」
神崎は天ぷーらを咀嚼しているうちに、背筋が寒くなってきてツバを飲み込んだ。 常盤に救いを求めて視線を送った。
「お、俺、誰かに狙われてんですか?」
刑事二人は視線を交わした。 子供相手ではないし、言ってもいいだろう、と判断したか。
「盗聴によって、きみの行先が知られていたとすれば、当て逃げもまったくの偶然とは言い切れなくなってしまいますね」
今度は神崎が苦りきった顔で、唇をへの字に結んだ。
続けて 「誰かから恨まれているような、心当たりはありますか?」 と尋ねられ、いよいよ恨まれていることが、決定事項になったような気がした。
「いやあ、俺、普通に静かに暮らしいるだけですけどね~」 と神崎は弱弱しくはにかんだ。
ふ~む。 刑事が二人して胸の前で腕を組んだ。
「あっ、先ほどチラッとおっしゃっていた、裸の女というのは何ですか?」
あぁそれは……。 同県内で起こった事件でも、すべての刑事が情報を共有しているわけはない、と。
神崎は本棚へ立っていった。 (謎の女保護記録) のレポートを手に戻ってくる。
「これなんですけど」
浜田刑事は以前に (怪しい男の尾行記録) を読んでいる。 そのときは、最初ポカンとした顔をしていたが、今回は、おぉまたそれですか、と目を輝かせた。
神崎は、常盤の言った殺人事件絡みの発想とは別に、裸女絡みでも考えてみた。
女を車に乗せたとき、じつはすぐ近くに誘拐犯がいて、一部始終を見ていたんじゃないだろうか……。 当然、自分は顔をおぼられていて……その後は常盤の考えと同じだ。
「これ……」
へ? と浜田刑事をみる。
「このレポート、またいただいていってよろしいんですか?」
「ええ、どうぞどうぞ。 べつに返してもらわなくて結構です」
「そうですか、ありがとうございます。 しかし、これは……」 浜田刑事が呆れたような顔をする。 「担当した者に直接きいてみることにします。 この内容とこちら側のとらえ方を照合してみます」
浜田刑事も、裸女の線を視野に入れたようだ。
神崎はペコッと頭を下げた。
「あの、できればでいいんですが、その後、あの女性がどうなったかを知りたいんですが。 あっ、誘拐か何かわかりませんけど、そのぉ犯人が捕まったのかとか、そもそも何だったのかって。 そうそう、俺があの女性に指を差された理由なんてのも……」
浜田刑事は腰を浮かせて、そのレポートを須賀へ渡した。 フム、と首をひねってから 「私らからは、たぶんお伝えできないでしょうね」 と言った。 「この女性が直接、神崎さんに礼を言いにくるような日が来れば、ですね」
二分後――須賀刑事が 「これって本当ですか?」 と驚いていた。 ウソを書くなよ、といった意味で発言したわけではなさそうだ。
「この地区の巡回に申し送りして、パトロールを強化するよう言っておきます。 それでは今日のところはこのへんで」
神崎たちも立ち上がった。




