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常盤は、そのページにしばらく視線を落としていた。
それほど深く読み込むような内容じゃないので、横から神崎が 「どうしたん?」 ときいた。
常盤は今気づいたような顔をあげた。 「ん、なに?」 いきなり腰を浮かせて、部屋の中を見回し始めた。
「いや、えらいじっくり見てんなぁと思って」 神崎もつられて、その視線を追った。
「あぁ、うん」
一度、目が合い、思わせぶりに視線を外して、首をひねってみせる。
「薫子さんが言っていたことも、あながち冗談とも思えなくなってきたかなって」
「あいつが、なんだよ?」
「ほら、さぐっちゃんが狙われているって話」
待て待て、お前もか。 何を言い出すのかと思えば、ヒデまで薫子に乗っかるつもりか……。
「さぐっちゃん、マイナスドライバーある?」
え、あぁ。 神崎が邪魔くさそうに、玄関わきの靴収納スペースへ行く。 靴は二足しか持っていないので、備え付けの靴棚はスカスカだ。 一番下の空きスぺースに、工具箱を横向けに入れてある。
言われた通りドライバーを手にして戻ってくると、常盤はテレビ台の後ろをのぞきこんでいた。
「なにやってんだ? ほい、これでいいんか?」
「あくまで仮説だけどね」 受け取ったドライバーを、顔の前でふってみせた。
「ぼくが……ぼくがね、もしあの殺人犯の彼女だったりしたら、その広報に載っている奴は誰だ? 余計なことしやがって……って思うんじゃないかな」 小声だ。
常盤は、先ほど外をのぞいていたカーテンの端で、あぐらをかいた。
「ヒデが女……ヒデが女……ダメだ。 まるでイメージが湧いてこないけど」
「いや、そこはこだわらなくていいよ。 べつに彼女じゃなくても、犯人に昔から世話になっていた人とか、友人とかさ」
常盤は、コンセントのカバーを外し、上下に二つあるネジを回していく。
「またまた……ヒデはそういうの好きだよな。 陰謀論とか大好物じゃん」
おどけながら神崎も、常盤が何をしているのかを理解して小声になっていた。
ズルッと引っ張り出したコンセントの裏をのぞいて、常盤がゆっくりとのけ反っていった。 神崎も常盤の手元を上からのぞいた。 二人は、上下で驚愕の視線を交わした。 まさか本当に……常盤もそんな表情だ。
コンセント数を増やしてもらおうと思って、電気屋に来てもらったことがある。 そのときに見たコンセント裏は、けっこう単純な仕組みだった。 間違っても、今みているような部品は付いていなかったはずだ。
神崎は目を真ん丸にしたまま、なぜかそうっと足音を忍ばせて、テーブルのスマホを手に取った。 常盤はそれを押さえて、首を左右へ振った。 代わりに自分のスマホを操作する。
常盤のスマホ画面には (外で話そう) とある。
「探っちゃんとこの冷蔵庫は、あいかわらず、スカスカだよねえ」
「え、おう。 ……あっ、か、買い出しに行くか?」
「そうしようかぁ。 ちょっと面倒くさいけどね~」
常盤は一度うなずいてから、玄関に向かった。 サンダルなので、ちょいと引っ掛けて先に外へ出た。
神崎は小物入れから、一番上の名刺を抜いてポケットへ入れた。 部屋の灯りを消したさいに、もう一度駐車場の様子をうかがった。
駐車場の出入り口付近で立ち止まると、常盤は道路の左右に目を向け、タバコを取り出して火をつけた。 彼は吸わない神崎に遠慮して、部屋では我慢しているのだ。
「どうする?」 と常盤。
神崎は持ち出してきた名刺をみせた。 数時間前にもらった浜田刑事の名刺だ。 常盤がウンウンとうなずいた。
話が早いだろうと思って直接連絡を取りたかった。 が、名刺には携帯番号が記載されていなかった。 しかたなく代表番号に電話をかけた。
神崎は名前と住所を名乗り、浜田刑事がまだ居るようなら繋いでほしい、と告げた。 日付がもうすぐ変わろうとしている。 迷惑だろうか、居ないだろうな、と保留音を聞きながら、神崎は隣で煙を吹き上げる常盤を見たり、周囲を見たりして待った。
「もしもしぃ、お待たせしました」
先ほどの声と同じだったので、やっぱりもう帰ったよな、と思う。 ところが、携帯からすぐにかけ直すので、一旦切る、との返事だった。




