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「今晩、泊っていくんだろ?」
「うん、そのつもりで来た」
神崎の部屋のカウチソファは、変形させるとベッドになる。 常盤は何度か泊っていったことがあるので、そこは慣れたものだ。 タオルケットをクローゼットから出してきて、二人の間に置いた。 敷き用と掛け用の二枚だ。
今はまだソファ形状のまま、二人はスマホをいじっていた。 二人ともに無職なので、二十三時半なんて時間はまだまだ宵の口だ。
「あぁこれ、無事だったんだ」 と常盤が言った。
神崎がスマホから顔を上げると、テレビで、行方不明になっていた少年が、無事保護されたというニュースをやっていた。
スマホでも検索して、二人して 「ふ~ん」 と漏らした。 ネットにも詳しい内容が出ていない。 あきらかに抑えた発表、事後報告。
二人は裏取引の話で盛り上がり、ふと神崎は 「そうだ」 と立ち上がって、本棚へ向かった。
持ってきたのはあれ…… (謎の女保護記録)だ。
空き巣と当て逃げのダブルショックで、すっかり失念していたが、この事件を話題にしない手はない。
殺人事件の記録は、常盤にも見てもらっていた。 空き巣事件と、今日の当て逃げ事件は、新しいPCを買ってから作成するつもりでいる。
常盤が手に取り、さっそく読み始めた。 その表情から察するに、一ページ目から上々の反応だ。
「すごいね、これ。 また表彰されちゃうじゃん」
「そうかなぁ。 あっでも、さっきのニュースみたいな感じで、その女の子のプライバシーとか何とか言って、おおやけにしないかも」
「あぁ……あるかもね」
そのうちに常盤がトイレに立ち、出てきたときに玄関脇に束ねてある冊子を見て、尋ねた。
「さぐっちゃん、これ何?」
ソファから首を伸ばして、常盤の言うコレに目をやった。
「あぁそれ、市の広報。 俺って一応ほら、管理人ってことになってるから、別紙があったら折り込みして各部屋に配んのよ」
先日、絵梨子さんが置いていったものだ。 月に一回だけなので、それくらいはするようにしていた。
「へぇ、ちゃんと管理人してんじゃん」
本物の管理人は、もっと多忙だろうけどね。
それに本来ならば、一週間前に配らなければならないものだった。 二階建て八戸。 たいした手間じゃないのに、どうせ誰も見ていないので、と放ってあったのだ。
神崎は、内容にもよるか、と思い直した。
「悪いヒデ、それこっち持ってきて」
折り込みのほうに、通行止めやイベントの情報が載っている場合がある。 それとてここの住人にはさほど重要だと思えない。 が、誰が何に興味があるのか、ということまで把握していないし、神崎自身がフリマやら新規開店の情報を欲している。
神崎は床にあぐらをかき、さっそく折り込みを始めた。
常盤が、この部屋の分の広報を手に取った。 同市内の住民なので、常盤の家にも同じものが配布されているはずだが、彼は初めて見るような目で、パラパラとめくった。 これ何、とか言っていたくらいなので、本当に初見なのかもしれない。
今回の折り込みは三種。 そっこうで作業終了だ。 あとは配るだけ。 遅い時間なので、明日の仕事とする。
神崎が、広報誌の束をそろえて立ち上がったとき、常盤が 「あっ」 と声をあげた。 神崎はチラッと彼のほうを見たが、そのまま玄関の脇へいって、広報誌を置いた。
「これって、さぐっちゃん……」
流しで手を洗っていたので、よく聞こえなかった。
なになに? と戻ってきて、ソファに腰を下ろすと、
「ほらこれ、さぐっちゃんだよね」 と広報のいち記事を指さして、常盤はツバを飛ばした。
写真には、男性三人の立ち姿。 三人とも同じくらいの身長だが、体重と頭身が違う。
真ん中で表彰状を掲げている神崎の顔は、緊張と照れにより、困っているような顔で写っていた。
「……あの男が殺人事件の犯人だと知ったときは、お手柄とかそういうのじゃなくて、僕自身も危なかったんじゃないかと、後から震えが止まりませんでした……」
そんなこと、言ってねぇし――。




