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 みっちゃんの口添えがあって、伊東の旦那さんが車で、神崎たちをアパートまで送ってくれた。

「それじゃ、組み上がったら電話しますね」

 旦那さんの顔は神崎に向いているが、彼はあまり視線を合わせようとしない。

「はい、お願いします」

 神崎は運転席に向かって、ペコリと頭を下げた。

 薫子は反対側から、助手席のみっちゃんとしゃべっている。

「みっちゃん、今度ごはん行こう」

「うん、近いうちにね」

 車はとろとろと発進して、伊東さん夫婦は帰っていった。

 長く息をついたのは、二人同時だった。 伊東夫妻について、同じ印象を持ったのかもしれない。


「私も、もう帰るね」

「うちに寄っていかねぇの?」

 薫子は少し考えてから、バッグから車のキーを取り出して、顔の前で振ってみせた。  「明日は仕事だしね」 このまま帰ると言う。

 神崎はごくごく軽い感じで、パソコンを安く買えたことの礼を言った。

 薫子の車が駐車場から出ていくまで見送って、部屋へ戻った。 時刻は二十二時を少し過ぎていた。


 シャワーを浴び、バスタオルを敷いた上にフルチン姿で呆けた。 一人暮らしの解放感を味わいながらも、まぶたの裏に浮かぶのは、迫りくる車のヘッドライトだ。

 腹は減っているが、何もかもが邪魔くさい。 エアコンで少し体が冷えてきたので下着をつけた。 おもむろに、スマホで小説を書き始める。

 何度か打ち損じているうちに、やっぱりダメだと鼻息をついた。 ぜんぜん乗ってこない、とスマホをソファに放ったら、それが鳴り出した。 雑に扱ったので怒ったのかと一瞬思って、画面を見た。 常盤 英人(ときわ ひでと)と表示されていた。


 彼は小、中学校時代の友達だ。 高校が別だったので、だんだん遊ばなくなり、三十を過ぎてから無就労仲間として、また月二くらいで会うようになった。 同じ学区内なので、むろん実家同士は近い。 パソコンを盗まれたときに、相談したうちの一人だった。

「よぉ今どこ? さっきアパートの前を通ったんで、ちょっと寄っていこうと思ったんだけどさ。 部屋の灯りが消えていたから、チャイムも鳴らさないで、もう家に帰ってきたよ」

 タッチの差で入れ違いになったらしい。

「俺も今帰ってきたところ」

「そっか。 あっ、パソコンの件なんだけど。 ほら、余ってないかって言ってたじゃん。 あれ……」

「あぁ、それな。 それを今さっき買ってきた。 っていうか、パソコン工房で、作ってくれるよう頼んできたとこだって」

「なぁんだ、そうか」

「ヒデ、もしかして探してくれてた? ほんと悪いな」

「いや、解決したんならいいよ。 それより、犯人って捕まった?」

「なぁにも、警察からなんにも連絡がない。 ちゃんと探してくれてんのかも怪しい」

 ちょっと間をおいてから、ヒデも 「たぶん戻ってこないだろうな」 と言う。


「それより、さっき車に轢かれてさぁ」

「え、誰が? さぐっちゃんが?」

「薫子と自転車に乗ってたら……」

 一年ほど前、神崎の家でヒデと薫子は初遭遇して、顔見知りになった。 彼は、神崎と二人きりのときにはよくしゃべるが、他にもう一人いると、途端にしゃべらなくなる。

「おとなしい人だね」

 そこだけ見れば、薫子がそういうのもうなずける。 それとなく神崎がフォローしても、余計に誤解を生む形になってしまう。

「常盤くんって、私のこと嫌いだよね。 私もあぁいう人苦手だから、どうでもいいんだけど」――

 後々、そんな二人が付き合うようになったとしても、神崎としては全然かまわない。


「その当て逃げのほうは、すぐに捕まると思うけど……」

「そっちはね、期待してる。 俺も、自転車を弁償してくれないと困るし。 で、話は変わるけど、腹減ってない?」

 常盤くんはコンビニ弁当を買って、今からこっちへ来てくれるらしい。





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