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カマチ電気で新しいPCを物色している。 どれでもいいのだけれど、やはりどれも高価だ。 この店では中古品を扱っていない。 薫子の言うように、オーダーメイドでパソコンを組んでもらうほうが安くつくかも、だ。
神崎は絵梨子さんから頼まれていた、蛍光灯と点灯管と電池を買った。
軽バンに乗り込んでシートベルトをしたところで、助手席に置いたスマホが震えた。 追加注文なら、出発する前でよかったと思いながら、スマホの画面を見ると、薫子からだった。
「まだ?」
省きすぎだろう。 意味がわからない。 今日、彼女と会う約束はなかったはずだが。
「どこにいんの?」
「絵梨子さんところ。 ちょっとの差で、探と入れ違いになったみたい」
薫子は、神崎の継母を絵梨子さんと呼ぶ。 神崎がそう呼んでいるからか、二人の間でそういうことになったのか、帰ったら聞いてみようと思う。
「今から帰るところ。 ここからだと十五分くらい」
「そ、わかった」
「あっそれと、薫子が言ってたパソコン屋ってどこにあるんだっけ?」
……返事がない。 スマホの画面を見ると、もう通話は切れていた。 十五分で帰ると言ったので、帰りにその店へ寄っていこうとは思っていない。 それにしてもだ。 何かしっくりとこない感じが、神崎の頭に浮かんで居座る。
車を発進させた。 交通量の多い国道沿いの店なので、なかなか出にくいのがこの店の不便なところだ。 そして、スッと出られたとしても一方通行なものだから、一旦、家から遠ざかっていって、戻ってくるルートをたどらなければならなかった。 ――ん~じつに面倒くさい。
神崎は母屋の裏口から声をかけて、パタパタとスリッパを鳴らしてやってきた絵梨子さんに、蛍光灯などを手渡した。
居間から顔を出した薫子が 「早かったね」 と言う。 その光景に、神崎はなぜかほっこりとした。 それから薫子をつれて帰る。 物々交換のようだと思いながら、彼女が玄関のほうから回ってくるのを待った。 その間に絵梨子さんが尋ねてきた。
「探さん、警察から何か連絡は?」
顔と手を同時に振りつつ 「まだ三日しか経ってないし、それに、たぶんもうダメだと思うけど」
刑事さん曰く、流しの空き巣狙いという輩がいるらしい。 アパートの101号室などは、責任者が住まうことが多いことから、在宅率が高くて狙われることは少ないのだとか。 でも、やられたのは神崎の部屋だけだ……。
絵梨子さんは、あごに手をそえて困惑顔を向けてくる。 「カギは?」
「あぁ、それも来週中には何とかするつもり」
「そう、お願いね」
薫子がやっと来た。 時間がかかったのは、その足首に巻きつくようなデザインの靴のせいだったか。
「今日って何か約束してたっけ?」
「ううん、暇だから。 それじゃ絵梨子さん、また」
「はい、薫子ちゃん、またね」
神崎は、薫子と肩を並べてアパートへ向かった。
薫子は周りの友人がどんどん結婚していって、休日に遊ぶ人が居なくなっているのだ。 さっさと彼氏をつくれよ、と心の中で言ってみる。 大丈夫だ。 チクッともドキッともしなかった。
部屋に戻って、薫子はまず部屋の隅々までチェックした。 それは、まぁ……神崎も同じことをしたものだ。
荒らされていた本棚などはとっくに片してあるし、新しい発見は何もないはず。 観察眼の精度は薫子よりも高いと思っている。 これを機に、本棚とタンスは以前よりも整理整頓がなされていた。 その際、懐かしい写真が出てきてので、それを薫子にも見せた。
少しだけ思い出話をした。 没収されたのは、薫子がヨダレを垂れて眠っているショット一枚だけだった。
「ここに写っている人の中に、犯人が居たりするのよね」
「なに言ってんだか……。 そりゃドラマの話だろう」
「わからないわよぉ。 知り合いなら、ここの住所だって知っているわけだしさ。 案外、恨まれてたりすんじゃないの、探」
彼女は高校の卒アルを開いて、指をさしていく。
「コイツとかコイツとか、なんか怪しくない?」
寝癖が付いたままの神崎と同じページに、目をつぶっている薫子が写っていた。
「そうだ、薫子の言ってたパソコンショップって」
あぁ、と彼女は卒アルのページをめくった。 他のクラスの集合写真を指でたどり 「この子の旦那が経営してんのよ」 と言った。
説明下手によくある情報過多、話がそれる傾向。 神崎が知りたいのは、その店の住所やら評判だけだ。 いや……。
「そこってさ、薫子が一緒なら、安くしてくれたりすんの?」
ふふふ~ 「彼女とは大親友だったわよ。 今から一緒に行ってあげようか?」
だった、というところに引っ掛かりつつも、神崎は薫子にお願いした。




