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 パトカーの到着で、暇を持て余したジジババが、神崎のアパートをのぞいていく。 管理会社には世話になっていないので、大家がすべての対応にあたらなければならない。

 少々出遅れ気味で、町内会長がやってきた。 その立場を利用して、さっそく絵梨子さんから根ぇ掘り葉ぁ掘り状態だった。

 当事者の神崎も、銀行やらカード会社へ連絡、その合間に警察からいろいろ質問されるので忙しくしていた。 あの殺人事件で大活躍して表彰された神崎様、という話は一切なかった。


 現金やカード類、スマホは持ち歩いていた。 ノートPC、USBメモリー、通帳、印鑑。 物的被害はそれだけだが、それは神崎のすべてだった。

 対応が早かったのか、お金関係は無事だという報せがあった。 一円たりとも引き出されていなかったし、ネットショッピングも利用されている様子はないそうだ。 書きかけの小説……クラウドにも保存してあるので、こちらもおそらく大丈夫だろう。

 ホッとしたのも束の間、面倒くさい再登録の手続きのことを思うと、やはり気が滅入る。


 警察は、日暮れ前には撤収していった。

 続々と帰宅してくるアパート住人に、知られることはないと思っていた。 ところが、よりにもよって、小うるさい住人の一人が在宅中だったので、いろいろと見ていたらしい。 それで、その日の内に、防犯のためにカギを取り替えてほしい、とわざわざ101号室にやってきて訴えた。

 刑事が帰り際に、ピッキングの痕跡アリと言っていたのを、どこかで聞いていたんじゃないか? もしかして、うちのノートPC、お宅にお邪魔していないよね? と疑ったほどに的確な提案だ。

 神崎の一存では決められないので、絵梨子さんに伝えた。


 話し合った結果、全部屋のカギを、ピッキングしにくいディンプルキーにすることに。 親父にも相談することなく、あっさりと決まったのは意外だった。

 交換費用は必要経費として計上するとはいえ、個人事業主にはあまりに手痛い出費。 絵梨子さんは気風(きっぷ)がいい。

 試しに自分の部屋をやってみて、簡単にできそうなら全部屋を自分で交換しようと思いついた。 経費節減……いや、浮いたぶんの工賃を、自分の小遣いにするためだ。


 夜になって、他の部屋へそのことを伝えてまわった。

 カギを失くしたわけでもないのに交換する? もれなく勘ぐられて 「何があったの?」 と尋ねられた。 神崎が正直に言うと、みな自分の部屋は無事だろうか、と慌てて室内を振りかえって、確認し始めるのだった。



 時計の針が二十時を回った頃、めずらしく神崎のほうから、薫子に電話をした。 第一声は 「なぁ、パソコン余ってたら、くれ」 だ。

 当然 「壊れたの?」 と彼女は尋ねてくる。 そこで 「いや、盗まれた」 と言うと、会話は今日あった個人的大事件の詳細を、説明する流れになる。 例によって、薫子の興味が津々だ。


「うわぁ大変だったんだぁ。 でもなんで、男の単身住まいなんて狙うかなぁ。 盗みに入るんなら、誰がどう見たって母屋のほうだと思うけど」

「ほんとそれ。 俺んとこは勘弁してくれっての。 ちゃんと下調べしてりゃわかるはずだよな」

「そうよねぇ。 で、どうなったの?」

「まだ何も。 うちの前をパトロールのルートに加えるとかって……。 たぶんノートPCは戻らないよ、みたいなことを遠回しに言われた。 まぁ俺もそう思っているけどね。 あぁそれでさぁ、薫子んちに、ノートPC余ってない? メーカー問わずで、デスクトップでもいいからさ」

「私が今、使ってるやつならいいかな。 まぁ三年後くらいになるけど」

「今、欲しいんだけど。 明日新しいやつを買って、俺に今使っているやつをさげてくれよ」

「なに勝手なこと言ってんのよ。 スマホで充分じゃない」

「う~ん、スマホなぁ」


 長文を書くので、やはりキーボードと大きいモニターが欲しいところだ。 薫子に限らず、小説を書いていることは、誰にも言ったことがない。 そして、最初からパソコンを貰えるとは、本気で思っているわけではない。 このあと連絡しようと考えている友人は、若干二名。 中でも一番金持ちの薫子がダメなら、たぶん全滅の気配が濃厚だ。





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