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「週刊○○の遠藤と申します」
女性はそう名乗って、淀みない仕草でハンドバッグから名刺を取り出した。
名刺を受けとったのは、リビングからワープしてきた薫子だ。
いつの間に……。
呆然とする神崎をさし置いて、薫子が応対する。
「どういったご用件でしょうか?」
「アパートメントガルシアで起こった殺人事件について、お尋ねしたいことがありまして。 神崎さんが犯人逮捕に、多大な貢献をされたとか」
薫子は振り返って、神崎を見た。 が、何かを求めるでもなく 「とりあえず、上がってください」 といった。
「取材に応じてくださって、ありがとうございます。 では、お邪魔しますね」
薫子は神崎の脇を抜けてリビングへ戻っていき、遠藤記者はサッと靴を脱ぐと、しゃがんで靴をそろえた。 そして、流しにもたれて立つ神崎の前を、女性記者が体を斜めにしてすり抜けていった。
神崎は、それを目で追っていた。 薫子から声がかかった。
「探、コーヒー」
「どうぞぉ、お構いなくぅ」 と遠藤記者。 薫子に促されてソファに座った。
「……おいっ」
遠藤が、神崎の住所を知った方法を正直に話した。
それによると、交通安全課に用があって訪れていたときに、たまたま署長がバタバタとしているのを見て興味が湧いたそうだ。
「あぁあれね。 これから感謝状の授与式が一件あんだよ。 ちょっと早めに見えられたみたいだから、もう始めちゃうんじゃないかな」
「へえ、何の事件ですか?」
「ほら、うちの管轄内で起こった殺人事件。 全国ニュースにもなった例のやつだよ」
遠藤は、授与式を終えて帰っていく神崎にインタビューしようとして、後をつけたそうだ。 歩きながら、携帯で会社の上司と連絡を取り、専属で担当者がいるのか、何かしらの規制がかかっていないかを確認した。 その事件について、遠藤本人の予備知識が乏しく、ひと通り調べてからでなければインタビューできないと思ったので、昨日はそのまま帰ったらしい。
「電話番号がわからなかったので、直接アポを取りに伺いました。 急に来たにもかかわらず、このままインタビューに応じてくださって、ありがとうございます。 私としても大変助かります」
名刺を事前に手にしておらず、ハンドバッグから取りだしたのだから、今日は本当にアポだけつもりだったのかもしれない。 神崎本人は、応じるとは一言も言っていないが、彼女はもうリビングに座っているし、コーヒーも飲んでいた。
「それでさっそくですが、どういった形で、警察に協力されたのでしょうか?」
「えっと、偶然見かけた男が怪しい感じだったので、後をつけたんです」
「と、いうことは神崎さんが目撃者ってことですか?」
「えぇまぁ……」
薫子が、すでに本棚を漁っていた。
「探、あれは?」
「あれ? あぁ。 刑事さんが持って帰ったんで、もうない。 あげるって言ったから、たぶん返ってこないかな」
戻ってくる薫子と、遠藤が視線を交わした。 どういう意味があるのか、互いに軽く会釈した。
「そう、だなぁ……。 もう事件は解決したんだから、隠すもんでもないか。 んじゃ、ちょっとすんません」
神崎はそう断って、遠藤と座席を替わってもらった。 ノートPCを起ち上げた。
「残ってんの?」
「うん。 消しては、ないっと」 ファイルを呼び出して、ちょんちょんとキーボードを叩く。 「薫子、B5の紙、六枚セットして」
遠藤はキョトンとしていたが、口は挟まなかった。
やがて、レーザープリンターから吐き出された用紙を、薫子がトンッとそろえて、ちゃんと順番通りになっているか確認する。
プリンターの下の棚に置いてあるホッチキスで、左上一か所を止めて、遠藤へ手渡した。
「これは何ですか」 と言いながら、彼女は表紙を見ただけで分かったようだ。 一枚目をめくった瞬間から、目を大きく見開いた。
刑事と同じ反応だ。
なぜか薫子が自分の手柄のように、遠藤の反応を楽しんでいた。




