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事はもっと楽しく、スムーズに運ぶと思っていた。
まずは高速道路で事故渋滞にはまり、国道から脇に入ったところ、一旦停止無視で切符を切られた。
やたらと道が暗くて、目的の家を通りすぎた。 やっと到達して手渡しすると、いきなり来られても金がない、と。 これはこちらの連絡不足。 ということで、けっきょく明日中に振り込んでもらうことになった。
先に商品を渡す行為は危険がともなう。 一抹の不安を感じながらも、用事を終えてスッキリとした感もある。 気持ちを切り替えるしかない。
さて、どこで車中泊するか……。
まずは、どこか近場で横になろう。
景色のいい所で朝を迎えたいなんて希望は、一旦眠ってから考えればいい。 体のあちこちから疲労の声があがっているからだ。 とくには腰からの訴えが声高だった。 神崎にとってはロングドライブ、しかも軽バンのサスペンションと安っぽいシートでは、しかたないことだ。
住宅街にポッカリと開いた穴のような場所に、児童公園をみつけてフェンス脇に駐車した。
来るときに仕入れたエアマットを膨らまそうとして、空気入れがないことに気づいた。 隣の陳列棚のプラス五百円のやつなら、付属していたのかもしれない。 しかたないので、口でいく。 枕部分と体部分の二か所から……本気でいくと、すぐにほっぺたが痛くなってきた。 そして、頭がクラクラしてくる。 酸欠か……。
やっとのことで横になることができた。 が、ものの数分で窓を叩く音。
カーテンを開いて、警察の人とみつめ合った。
近所から通報があった。 あぁそうですか。 移動してくれ。 はいはい。 ついでに車内を調べさせてくれ。 嫌だベンベン。 お前、死刑――。
警察官の、人を小バカにしたような目から、想像したやり取りだ。 実際は、優しく諭されたが、なにせこちらは眠かった。 なので腹が立つ。
ふてくされながら、のっそりと運転席へ向かった。 エンジンをかけた。 一度寝る体勢が整ってからの行動だ。 睡魔が一匹、睡魔が二匹……。 数えてはいけないものが、脳裏を駆け抜けていく。
高速のサービスエリアなら、邪魔されずに眠れそうだが……どうにも考えがまとまらない。
居眠り運転で事故でも起こそうものなら、そこに人がいようものなら、平和な生活が一変してしまうのだ。 そんな想像をすることで、何とか目を覚ました。
しばらく走ると、ライトアップされた看板発見。 24H700――何だ?
なるほど、コインパーキングか。 二十四時間も利用するつもりはないが、七百円で眠れるなら安いと今は思った。
――ふと目を覚ますと、神崎は半透明のカプセルに閉じ込められていた。
横たわっている。 背中は土だ。 拘束されているわけではないようなので、腕を持ち上げた。 手に触れるのは、ゴワゴワとしていた。 ビニールのようだった。 ぐっと力を入れて持ち上げてみると、根元から外気が流れ込んできた。
その隙間から転がり出て四つん這いになった。 見回すと周りは畑だった。 そこのビニールトンネルの中に居たのだ。
背中が濡れているような気がして、おそるおそる手をやった。 これは血か? そして全裸だった。
この状態でも、夢だと思わなかった。
背中で踏みつぶしてしまったイチゴを手に取ったとき、懐中電灯で照らされた。
「泥棒!」 の声に慌てた。 立ち上がって逃走した。
走れど走れど、男は追ってきた。 トラクターで――。
車の音で目を覚まして、車内カーテンをチラッとまくった。
隣に駐車していた車が、ガコンッと鉄板を乗り越えて、出ていくところだった。
神崎は自分の恰好を見直した。 手を見て、背中に触れてみた。
「車中泊って、楽しくないよな……」
そう呟いて、シートを起こし、運転席に座った。 コンビニで弁当を買って帰ろうと思った。
そこから一番近いコンビニには、広い駐車場があった。
弁当は一つも残っていなかったので、パンと飲み物を買った。 車中でバクバク食べ、物足りなかったので、追加でまたパンを買った。
ダッシュボードの時計に目をやると、一時十一分。 一が並んだからといって、とくに何も……嫌な予感がした。
神崎は車を発進させた。
行きの高速料金が思いのほか高かったので、帰りは一般道で帰ろうと思った。 道は空いている。 ときおり、カップホルダーからペットボトルを取り、順調に走っていた。 大型トラックが、神崎を抜いて、ぶっ飛ばしていった。
山道にさしかかり、辺りは本当の闇に包まれた。
月の明るい夜にもかかわらず、生い茂る葉が道路に蓋をしていた。 ハイビームじゃなければ、とても安全には走行できなかった。
神崎は眼鏡をかけ直し、前のめりになって前方に目を凝らしていた。
そのタイミングで、ヘッドのライトの光の中に、女が飛び出てきた。 神崎は急ブレーキを踏んだ。 峠が上り坂だったことが良かったのだろう。
保険金目当ての飛び込み自殺か、自分に恨みでもあるのか、車なんかには負けない丈夫な体を誇っているのか……そんなことより、彼女は全裸だった。




