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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第13章 楽しい食事会
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「なぁ、この人はどうするんだ?」


 仕切り始めたフルにフッカが問いかける。その視線の先には失神した状態で転がっている老婆の姿があった。フルは一度ハナを見たが、彼女は目を瞑って小さく頷くのみだ。


「銀河警察に通報しておきましょう。まぁ、ここまで来るのは大変でしょうが、そんなことは我々には関係ありません」


 そう言うと、しゃがみ込んで地面に生えている苔を撫でた。


「コラダ、これが何かわかりますか?」

「うーん、見たところ普通の苔にしか見えないんだけどなぁ……。持って帰って調べてみようよ」

「そうですね」


 フルは荷物の中から小さなナイフと革袋を取り出す。ナイフで苔をこそげ取り、その中に入れた。


「まぁ、おそらく、ただの苔ではないのでしょうね」

 ため息交じりにそう言いながら立ち上がった。



 行きは五日かかったが、帰りは二日半だった。フルが道を覚えていたことと、持っている灯りを総動員したのが大きいだろう。

 竜胆洞を出ると、日はすっかり昇りきっていた。ずっと薄暗い地下にいたので、余計眩しく感じられる。


「昼ですね……」


 懐中時計で時間を確認していたフルがぽつりとつぶやく。ちらりと振り向くと地面に三色の傘の花が咲いている。しゃがみ込んで中を覗くと、もう限界だとばかりに日陰でぐったりとしている三人がいた。ハナとグニウも小鳥と蛙の姿になり、ちゃっかりとその中に収まっている。


「ターコイズ地区にも小規模なマーケットはありますが、アクア・マーケットほど豊富な屋台があるとは限りません。もし、もう一日船内の食事で我慢出来るならピーコック地区まで行きますが、どうします?」


 その選択に、三人はしばらく頭を悩ませていたが、こそこそと何やら相談めいたものをし、代表してフッカが口を開く。


「携帯食料の味に比べたら船の飯の方が百倍マシだよ。一日ぐらい我慢出来るから、美味いもん食おうぜ」

「わかりました。では船に戻りましょう」


 そう言って立ち上がると、それにつられて三人ものろのろと立ち上がる。ダダコはフルの肩をつんつんと突いた。


「フルも入りなよ。日に当たるの、辛いでしょ?」


 そう言って、自分の右肩を指した。「ほら、特等席」


 フルは大丈夫、と言いかけたが、さすがにこの時間帯の日の光は強く、先ほどから露出している部分をじりじりと焼かれている。うっすらと赤みを帯びてきた手の甲を見つめて、フルは苦笑した。助かります、と言って、ダダコの厚意に甘えることにする。



「ねぇ、結局あの苔は何だったの?」


 夕食後、モニターの前で翌日からの準備をしているフルにコラダが話しかける。


『気になりますか』

「うん。さっき、グニウから何か聞いてたでしょ。分析結果が出たんじゃないの?」

『その通りです。あの苔は……素晴らしいですよ。生命活動に必要な栄養素のほとんどを含んでいることがわかりました。ですから、まぁ……、空腹感さえ我慢することが出来れば、あの苔と地下水だけで充分に生きて行くことが出来ます』


 素晴らしい、と言いつつも、何だかフルの声は沈んでいる。どことなく表情も暗い感じがした。


「それ以外にも、何かあるんじゃないの?」

『……そうですね。それ以外にも微量ではありますが、ヒオスチアミン、アトロピン、スコポラミン等のアルカロイド類が含まれていました』

「それって……」

『常食すれば、慢性的な幻覚作用をもたらします』


 そう言うと、フルは視線をモニターに移してカツカツと作業を再開させる。


「あの人、何かおかしいと思ったけど、その苔のせいだったんだ……」

『そうですね』

「ねぇ、フル、もう一ついい?」

『構いません』

「もし、旅の途中で、フルの親戚のチルドレンに会ったら……、やっぱり、ハナと同じように思う? その……殺したいって」

『私だって正気でいられるかはわかりません。いまの自分があるのはある意味、彼らのお蔭でもあります。ですが、普通の人間として自由に生きてみたかった、という思いもあります……』


 それから、と言って、フルはくるりと振り向いた。


『私の一族だけではなく、ハナとグニウの一族も、元々はエメラルド地区に住んでいたと聞いておりますが、先代が逃亡してからは辺境のライム地区に追いやられました。我々が政府の下で働くことで一族は配給を受け取ることが出来、それによって生活をしているのです。わかりますか、我々は一族を人質に取られているも同然です。自由に生きたいと思っても、許されない。先代が逃亡さえしなければ……。そう思うのは、自然なことではありませんか』


 フルは激することなく淡々と話したが、心の中は激しい怒りに満ちていることがわかる。


『すみません、少し話し過ぎました』


 そう言って、再度背を向けた。


「フル、ハナだけじゃないから」

『……何がです?』

「フルの時だって、同じってこと。フルが先代のチルドレンを撃つってなったら、その時は僕らも一緒だよ」

『私は撃ちません。どうせ銀河警察に引き渡したところで、彼らに待っているのは死です。それが遅いか早いかというだけですから』

「いいの? 自分でやらなくても」

『構いません。未来ある若者に殺人をさせることと天秤にかければ、どちらに傾くかなど明白です』

「フルは優しいね」

『そうですか。さて、明日は楽しい食事会ですよ。早めに休んだ方がいいのではないのですか』

 ちらりと時計を見ると、あっという間に二十二時である。ダダコとフッカはとっくに自室へ引っ込んでいた。

「そうするよ。フル、明日はたくさん甘い物食べようね」


 そう言って、にこやかに手を振りながら自分の部屋へ入った。


 優しい、か……。


 ぽつりと口に出してみる。これまで自分にそんな言葉をかけてくれた者がいただろうか、とフルは思う。

 ハナやグニウからは、仕事は出来るが不愛想で、頭が固いとしょっちゅう言われている。せめてもっと口調を柔らかく出来ないかとも言われた。他人からの評価程冷たい人間ではないはずだという自負はあるのだが、どうもそれを表に出す部分に欠陥があるらしい。こんな自分に十六歳の多感な若者の相手が出来るのだろうかと思ったが、旅が始まってみると、案外うまくやれている自分に驚く。


 楽しい食事会……。


 まさか自分が嫌味以外でそんな言葉を吐くとは夢にも思わなかった。

 楽しいと思う時は、楽しいと口に出していいのだ。笑ったって、きっと罰は当たらない。




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