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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第13章 楽しい食事会
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3

「いただきますっ!」


 アクア・マーケットの屋台街で、十人は座れる大きさの丸テーブルの上に溢れんばかりの料理を並べ、ダダコは手を合わせた。その声が引き金となり、各自バラバラの「いただきます」を唱えてから、湯気の上がる料理に手を伸ばす。


「あ、コレ美味しい!」

「ちょっ、コレ、辛くねぇ?」

「そんなのフッカだけだよ~」

「フッカ、水はここです」

「グニウ、あなたお肉ばっかり……」

「あーら、ハナこそ、野菜ばっかりじゃ力がつかないわよぉ~?」


 がやがやと騒がしい屋台街の中でも一際うるさい集団に、道行く人々は苦笑いを浮かべている。しかし、そんな視線を気にする者など、誰一人としていなかった。


「ねぇ、フル、まだ食べれる?」


 テーブルの上の料理が無くなりかけた頃、対面に座っていたコラダが身を乗り出してくる。


「もちろん。どうしました?」

「あのね、あっちに、ドーナツ屋さんがあるんだ」

「行きましょう」


 即答で立ち上がり、コラダと並んで雑踏に消えていくフルを四人は笑いをかみ殺して見つめている。


「どんだけ食うんだよ、フル」

「だーかーらー言ったでしょ? フルはモリモリ食べるって」

「そうそう。しばらく会ってなかったけど、寄宿学校に通ってた頃は食堂のおばさんを毎日泣かせてたんだから」

「しばらく会ってなかったって……?」

「え? だって、フルは寄宿学校の職員じゃないもの」

「そうなの? 通りで見たことないわけだ……」


 感心したようにフッカが頷くと、ハナとグニウは顔を見合わせた。


「それ、フルが聞いたらがっかりするわよぉ~?」

「えっ? 何で何で? あたしもフル見たことないと思うけど」


 ダダコの慌てぶりにハナは肩を震わせた。


「まぁ、本人が戻ってきたら、直接聞いてみたらいいわ」

「見てないはずはないんだけどねぇ……」


 グニウも顔を背け、ククク、と笑った。

 ダダコとフッカは顔をしかめて見つめ合う。



「お待たせ~。皆も食べるかと思って、たくさん買ってきちゃった」


 そう言って、大量のドーナツを抱えたコラダとフルが戻ってくる。一応、持ち帰り用の紙袋に入れてもらってはいたが……。

 席に着くなり、フルは紙袋の中のドーナツを取り、かぶりついた。表情はほとんど変わらないが、口の周りを砂糖まみれにし、あっという間に二個目に手を伸ばしたところを見ると相当美味しいのだろうと想像がつく。コラダを見ると、こちらは満面の笑みで美味しい美味しいとつぶやきながらドーナツを頬張っている。

 フルが三個目に手を伸ばしたところで、ダダコが口を開いた。


「フル……、あの……、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


 恐る恐るそう言うと、フルはドーナツを皿の上に置き、何でしょう、と言った。


「あのね……、フルは……、旅が始まる前はどこにいたの……? ハナやグニウは寄宿学校で見たことがあるの思い出したんだけど、フルはぜんぜん見覚えなくて……」

「そうそう。さっきハナがフルは寄宿学校の職員じゃねぇって言うしさ」


 二人の言葉にフルはがっくりと肩を落とした。


「ごめん、フル。僕もぜんぜん見覚えないんだ……」


 言いづらそうに、コラダも背を丸めた。


「まぁ……、あなた達は日々訓練で、滅多にテレビを見ることもなかったでしょうし、見たとしても、せっかくの休憩時間なわけですから、娯楽番組を優先するでしょうし、仕方ないですがね……」

「テレビ? フル、テレビに出てる人なの?」

「まぁ……、出るとはいっても、ダダコがいま想像している有名人とは違うと思いますけどね……」

「それに、絶対何度かは見てるはずなのよ? あなた達、政営放送は見たことあるわよね? 新年の挨拶だとか、新しい法案が可決された時とか、それから大統領選挙……」

「それは……ある……かな……」


 ダダコは自信なさげに引き攣った笑いを浮かべると、助けを求めるようにフッカを見た。フッカ似たような表情を浮かべている。そんな中、コラダだけが力強く頷いた。


「まぁ、裏方だからそんなに長い時間は映ってないけど……。でも、名前は何度も出てるし、字幕にだって……」


 ハナは呆れ顔で頬杖をついている。


「ねぇ、もったいぶらないで、早く教えてよぅ!」


 ダダコがしびれを切らせて声を上げると、フルはやれやれ、とため息をついた。



「私は大統領補佐官ですよ」



「は?」

「補佐……官……? 大統領の……?」

「フル、そんなに偉い人だったの……?」


 目を丸くして固まっている三人を見て、ハナとグニウは堪え切れず吹き出した。


「フルは優秀だからねぇ~、あれよあれよと出世したのよね」

「そうそう。フルの仕事ぶりを見て、大統領が直々に引っ張ってきたのよ」


 女性陣二人の言葉に、フルは顔を赤らめ、視線を逸らした。


「別に、優秀なわけではありません。日々の業務を確実にこなしていただけです。それに、あくまでも『補佐』ですから、偉いのは大統領であって、私ではありませんよ」


 そう言って、皿の上のドーナツを取った。


「でもさ、補佐官が旅に出ちゃって大丈夫なのか? 大統領が直接引っ張ってくるほどの人材だろ? 支障が出るんじゃねぇの?」

「大丈夫です。補佐官は私一人ではありませんし、それに、船内でもやれることはあります」

「えっ? じゃ、毎日モニターとにらめっこしてたのって、あれ、そっちの仕事だったの?」

「すべてではありませんがね。GREEN MOLE号は自動操縦ですし、離着陸で多少操作する程度ですから」


 そう言いつつ、気付けば三個目のドーナツも完食し、四個目に手を伸ばしていた。


「そりゃ、糖分が必須なわけだね、フル」


 コラダがにこりと笑うと、フルは少し気まずそうに、そうです、と言った。



 結局、大量のドーナツは屋台街の中ですべて平らげてしまい、さらに船内で食べる用にと、追加で買って帰った。

 フルはネズミの姿になり、モニターの前で何やらカツカツと入力作業をしている。


「フル、いまは何のお仕事?」


 ダダコは食べやすいようにドーナツを小さくちぎったものを小皿に入れながら、フルの作業をじっと見つめている。見ればわかりそうなものだが、そうもいかないらしい。


「いまは次の目的地を確認しているところですよ」


 フルはくるりと振り向き、ドーナツの欠片をつかみ、ハムハムとかじっている。


「ねぇ、次はどこに行くの? 次は何を探すの?」

『……次の星はまだいいとしても、私がそうやすやすと目的を教えると思いますか?』


 そう言って顔を上げたフルは口の周りを砂糖まみれにしている。ふんふんと鼻をひくつかせ、その香りをも味わっているように見えた。


「ちぇ。フルってば真面目なんだから」

『次の星に着いたら、お話しします。これでもだいぶ譲歩してるのですよ』

「わかってる」

『わかればよろしい』


 フルはもう一つの欠片にかじりついた。


「フル、楽しみだね」

『……何がですか?』

「次の星でも、あるでしょ? お食事会」

『……あなた方が、そうしたいのなら』

「フルだって楽しみなくせに」

『……否定はしませんが』

「素直じゃないんだから、もう」


 ダダコが笑うと、フルは首を傾げて鼻をひくつかせた。


『……時間がかかるんですよ、変わるには』

「気長に待つわ。どうせ旅は長いんでしょ?」



GREEN MOLES 第一幕はこれにて終了いたします。

第二幕は準備中ですので、気長にお待ちいただけると幸いです。

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