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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第12章 人魚の守り人
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4

「ねぇ、フルだけこっち向かってくるよ」


 その言葉でダダコの端末に二人が集まってくる。


「ちょ、ちょっと狭いよ! ここに集まらなくてもあんた達はそっちで直に見ればいいでしょ!」


 うざったそうに二人の顔を避けながら言うが、ここまで来たらこれで見た方が早い。

 やがて穴のすぐ下にまで到達したのだろう。姿が見えなくなったと思ったら、白いネズミのアップが画面に飛び込んできた。


「わぁっ!」


 驚いて声を上げると、穴の縁に立っていたフルはそこから華麗にジャンプし、着地と共に人間の姿に戻る。


「お待たせしました」


 涼しい顔でそう言って、着地で乱れた裾を直す。


「マーメイドは無事回収できましたね?」

「うん。ほら」


 コラダは布袋の中の鍾乳石を見せた。半透明のマーメイドは布袋の中でほの白く発光しているように見える。「よろしい」


「ねぇ、フル。ハナは?」

「ハナはまだ仕事が残っているようです。我々は先に戻ります」


 フルは地面に置いてある荷物を持つと来た道を戻り始めた。その姿を見て、三人も慌てて荷物を持ち、それに続く。


「仕事って?」

「ハナのプライベートに関わることですので、私からはお話し出来ません」

「ハナ、迷ったりしないかな」

「私の持っている端末から信号を送っておりますので、その心配はありません」


 ハナのプライベートに関わる仕事……。ハナはいつも「私は嘘はつかないわ」と言う。だからきっと、聞けば教えてくれるだろう。でも、何だろう、この胸騒ぎは……。


「コラダ?」


 俯いてそわそわとしているコラダに声をかけると、彼は飛び上がらんばかりに驚いた。


「な、何……?」

「いや、何でもないけど、何か元気ないから」

「あ……、実は僕、ちょっとトイレ我慢してて……。ねぇ、フル、悪いけど先入っててくれる? 僕、その辺で済ませてすぐに追いつくから」

「わかりました。念のため、私の信号を受信出来るようにしておいてください。コードはPFL―一二八です」

「わかった」


 そう言って、端末の受信チャンネルを合わせると、自分の姿が見えなくなるところまで小走りで戻った。振り向いて、四人の動向を探る。チラチラと懐中電灯の灯りが見え、それが見えなくなるまで待った。


 ごめんね、フル。嘘ついちゃった。


 灯りが見えなくなったのを確認して、コラダは急いでさっきの場所まで走った。



「ギニコさん……。私はね、あなたのことが本当に憎い。私はまだいいわ。チルドレンとしての力も、寄宿学校では校長秘書としての職も与えられた。でもね、一族は辺境のライム地区に追いやられて、いまでも肩身の狭い思いをしてる。あなたのせいで」


 ギニコはハナの声が聞こえていないのか、水面に映る自分の顔を嬉しそうに眺め、時折、手に持った苔を口に運んでいる。


「あなたは第一級銀河指名手配犯。惑星外逃亡は極刑よ。射殺なら、私にだって許可されてる」


 ハナは懐に忍ばせた小型銃を取り出し、ギニコに向けて構える。


「懺悔しなさい。命乞いでもしてみなさいよ。少しでも長く苦しむようにしてあげるわ」

「ハナ! 何してるの? 何で! 銃なんか!」

 急に聞こえてきたコラダの声に驚いて振り向くと、拳大の穴から、くりくりとした青い瞳が見えた。


「コラダ! あなた先に行ってるんじゃ……」

「ハナが! 気になって! 戻ったんだよ!」


 コラダは一言話す度にその場でジャンプしている。コラダの身長ではそうしないと穴に口元が到達しないのだ。

 浮かべばいいのに、とハナは苦笑した。


「コラダ、申し訳ないんだけど、すぐに追いつくから、フル達と合流しててくれないかしら」

「一緒に! 行こうよ!」


 そこまで言って、コラダはやっと自分が浮き上がれば良いのだということに気付いた。


 僕はダメダメだな……。


「ねぇ、ハナ! その銃で何をするつもりなの? まさかその人を撃つわけじゃないよね?」

「残念だけど、その通りよ。あなたには見られたくないの。だから……」

「嫌だ!」

「嫌って……。お願いよ、コラダ」

「ねぇ、ハナ。その人を撃つのは避けられないの?」

「彼女は射殺が義務付けられている第一級犯罪者よ。避けられないわ」

「だったらなおさら、僕はここにいる!」

「コラダ……?」

「ハナ一人が苦しむことはないよ! 僕も見届ける!」


 違うのよ、コラダ……。私は苦しんでなんかない。むしろ、やっとこの日が来たと喜んでさえいる。引き金を引くとき、笑ってしまうかもしれない。あなたにそんな姿を見せたくないの。


「コラダ、お願いよ……。――ぐぅっ……!」


 脇腹に鈍い衝撃を感じ、ハナは前方につんのめった。手に持っていた銃が地面に転がる。


「ハナ?」


 膝をつき、振り向くと、鋭くとがった鍾乳石を持ったギニコがへらへらと笑いながら立っている。目の焦点はあっておらず、だらしなく開いた口からはだらだらと涎が垂れており、手に持った鍾乳石からはハナの物であろう血が付着している。


「ハナ! ハナ!」

「大丈夫よ……、かすっただけ……」


 ハナは脇腹を押さえて顔をゆがませている。


「渡さない……。これは誰にも渡さない……」


 ギニコはうわごとのようにつぶやくと、手に持っている苔を口に入れ、くちゃくちゃと音を立てて噛みながらゆらゆらと揺れている。


「コラダ、私は大丈夫だから。それより、早くフル達のところへ……!」

「……許さない! お前ええぇぇぇぇっ!」


 洞内にコラダの叫び声が響き渡る。ゴッ、ゴッ、と壁を殴る音が聞こえたかと思うと、三度目にはコラダの拳が貫通し、そこからガラガラと音を立てて崩れていく。

 人が一人通れるくらいの隙間が生じると、コラダは突風のようなスピードでギニコのもとへ走った。

 歯を食いしばり、肩を震わせて荒い呼吸をしている。

 固く握りしめた拳からは血がしたたり落ちているが、それを気に留める様子もない。


「許さない……。僕の大切なものを傷つける奴は許さない……」

「コラダ……?」

「ハナは下がってて。僕がやる。僕が殺す」


 振り向いたコラダはいつものように笑っていた。



「ねぇ、フル、いまの声……」

「……コラダですね」


 なかなか追いつかないコラダを心配し、ダダコは何度も後ろを振り返りながら歩いていた。その様子を見て、フルも少し歩くスピードを落としていた。そんな時である。獣の雄叫びのようなコラダの声が聞こえたのは。

 フルは何となく、コラダはハナが気になってさっきの場所に戻ったのだろうと思っていた。しかし、自分にはそれを止める権利など無いとも思った。


「行こう! 何かあったんだ!」


 フッカはフルの返事も聞かずに駆け出した。ダダコは俯いて黙っているフルを一瞥してからそれに続く。後に残されたのは、フッカが駆け出す前にひらりと肩から降りたグニウと、立ち尽くしているフルである。


『……行かないの?』

「行ってどうします」

『コラダがここを破壊したらどうするのよ』

「ダダコがいます。それに、フッカも……」

『止められると思ってる? 本当に』

「……行きますか」


 その言葉でグニウは人の姿になり、二人はダダコとフッカの後を追った。



「あなたがどんな罪を犯したかなんて、僕は興味ない。でも、ハナを傷つけた。それは絶対に許さない」

「コラダ! 落ち着いて……。この人は私が……」


 そう言いながら地面に転がっている銃を拾い上げる。


「いいんだ、ハナ。君の手は汚さない。僕がやる。僕が人を殺しても、悲しむ人なんていないから」

「そんなことないわ! 私は悲しい! 私だけじゃない! ダダコもフッカも絶対に悲しむ! こういう仕事は私達の役目なのよ!」


 ハナはコラダを背後から抱きしめ、動きを封じようとした。しかし、コラダは優しくそれを振りほどく。ハナに向けられる視線は柔らかく、いつものコラダと変わりがないように見える。


「射殺じゃなくてもいいよね、ハナ?」


 そう問いかけるコラダはいつもの優しい笑みを浮かべていたが、自分と同じ青い瞳は何だか冷たく感じた。


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