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「ごらんよ、あたしの美貌は、あの頃のままだ……。この柔らかな髪……」
そう言って、艶のない、バサバサの髪を指で梳く。
「透き通るような、滑らかな肌……」
皺だらけの手で、同じく皺だらけの頬を撫でる。
「どこへも行くもんかね……。あたしはここで永遠に生き続けるんだ……。ふふ……。あはは……」
「フル……、どうするの?」
ハナはもう見ていられない、と言わんばかりに顔を背け、フルに問いかける。
「逃亡者を見つけた場合は、銀河警察へ突き出すか、もしくは射殺せよ、と……」
フルもまた同様に顔を背けた。おそらく、ギニコはすでに気が触れている。
「しかし、ここに放置しても構わないと思いますがね。彼女はここから出る気もないようですし、おそらく、もう長くはないでしょう。とんだ【番人】もいたものです」
そう言って、ちらりとギニコを見てから、ため息をついた。
「ですが、それであなたの気が済むというのなら、お好きになさい。マーメイドを回収したら先に戻りますから」
ハナは俯いてしばらく考え込んだ。「……少し時間を貰うわ」
フルは眉間にしわを寄せ、小さく頷くと、三人の方を振り向いて右手を上げた。
「ねぇ、フル達は何話してんのかな」
フッカの端末を覗き込んでいるコラダがぽつりと言う。
「俺に聞いたってわかるかよ。これでもヴォリュームは最大なんだからな」
「そんなの後で聞けばいいでしょ」
「気付いたらハナもあっち行っちゃうしさぁ……」
『まぁまぁ、アンタ達。後でまとめて聞きゃあいいでしょ。それより、フッカ、そろそろ準備しときなさいね』
グニウのその言葉で鞄に括りつけていた傘に視線を移す。
マーメイドの先端を狙撃する。何てことはない、ごく簡単な仕事だ。多少距離はあるものの的は動かないわけだし。ただ、問題は【番人】だ。アイツの邪魔さえ入らなければ……。
傘を手に取り、石突きをくるくると回して外しながら、端末の画面を見つめる。フルからの合図はまだか。
その場に立ち尽くしているフルとハナ、そして何やらうずくまっている老婆。話し合いは終わったのだろうかと固唾を呑んで見守っていると、くるりとフルがこちらを向き、右手を上げた。
――合図だ。
フッカはすっくと立ち上がると穴の中に傘を差し込む。
「ねぇ、フッカ。それってさ、照準器ついてないよね? 結構離れているし、的も小さいけど大丈夫なの?」
片目を瞑って照準を合わせていると、いつの間にか隣に立っていたコラダが心配そうにこちらを見つめていた。
「大丈夫に決まってんだろ。俺を誰だと思ってんだ。コラダでもダダコでもどっちでもいいから、俺が撃ったら地面に落ちる前に回収しろよ」
「僕がやるよ。いいよね、ダダコ?」
「どうぞ」
ダダコは画面に釘づけになっている。
「頼むぞ、コラダ」
そう言うと、フッカは手元にある安全装置を解除して下はじきを押す。弾はその辺に転がっていた鍾乳石の破片だ。
勢いよく発射されたその弾丸はわずかに右に逸れたが、それはこの傘の癖だ。もちろんそれも計算して照準を合わせてある。
弾丸は天井から垂れ下がったマーメイドの先端から二十センチほど上に命中した。ゴッという音がして亀裂が入り、キラキラと飛沫のような破片をまき散らして大きめの塊が落下する。
「えいっ!」
コラダは準備してあったロープを放り投げた。投げられたロープはまっすぐマーメイドの塊に向かって行く。ロープが獲物を捕らえる蛇のようにぐるぐると絡みついたのを見て、コラダは手に持っていた端を引っ張り、宙に浮かせたまま手繰り寄せた。
「はい、回収完了っと」
慎重にロープを外すと、鞄から布袋を取り出して中へ入れる。
「あとはフルとハナが戻ってくれば終了だね」
「さすがフッカね」
ハナは先端の欠けたマーメイドを見つめた。必要以上に破壊しない、見事な仕事ぶりだ。
サイレンサーが付いているとはいえ、マーメイドに着弾した際にはそれなりの音や衝撃があったはずだが、ギニコは驚く様子もなかった。耳は聞こえているはずだが。まだ水面に映った自分の姿を見ているのだろうか。肩は小さく上下している。
フルが近づこうとするのを右手で制した。
それは私の役目だから。
ハナの意向を汲み取り、フルは「先に行ってます」とだけ言って、その場を立ち去った。




