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大人しく船内に戻り、メインルームのテーブルに着く。フッカはその中央に据え付けられたドーム状のモニターを操作し、チャンネルを材料調達部隊から送られてくる映像に合わせた。
「どこもかしこも真っ赤ね」
「ねぇ、あれ何だろう。美味しそう~」
「美味そうかぁ……? むしろ辛そうじゃん。俺、あんまり辛いのは好きじゃないんだよぁ……」
人々の頭上を縫うように映されていることから、今回はハナがメインカメラのようである。
程なくして見慣れた船体が映し出され、バディ達の帰還を知った。
「お帰りなさい。早かったね」
扉を開けたコラダが右手を差し出すと、その人差し指にハナがとまる。ハナは真っ赤な実がたわわに実った枝を一本くわえている。
「重そうだね。僕が持つよ」
コラダが慎重にその枝をつかむと、ハナはゆっくりとくちばしを開いた。
『ありがとう、コラダ。あなたはとっても優しいわね』
「困ってる人には手を差しのべるようにって習ったからね」
『あら、私は人じゃなくてよ?』
「僕にとっては、ハナは人みたいなものだよ」
コラダは笑顔で得意気に胸を張った。
『ありがとう、コラダ。さて、お二方も集合してくださるかしら』
ハナの言葉でダダコとフッカは椅子から降り、コラダの方へ向かう。
「それ、何だ?」フッカはコラダの持つ枝を指差す。
『それは、レッドベリーの実です』
さかさかと金属の床に爪を立ててフルが走って来る。それを見て、ダダコはその場にしゃがみ、右手を床に置いた。フルはその上に乗り、腕を渡って定位置であるダダコの右肩に乗る。
『その実で染めるのは、すべての体毛です。髪の毛はもちろんですが、睫毛や眉毛、産毛まできっちり忘れずに。一人三粒もあれば足りるでしょう』
「はいはい。あれ? そういえば、グニウは?」
フッカはコラダの持っている枝からレッドベリーの実を三粒もぎ取り、辺りを見回す。自分のバディだけが戻ってきていないことにやや焦りを感じているようだ。
『グニウはもう一つの材料を運んでいる途中です。心配ならモニターで確認してください』
「んー、フルがそう言うならいいや。あのグニウだもんな。大丈夫だろ」
そう言うと右手で赤い実を握りしめた。
「ねぇ、フッカ三粒で足りる? 僕、白髪だから染まりやすいけど、フッカは黒髪だし……」
「そう言われると……。まったく、黒髪ってのは不利だよなぁ。これが役に立つ時ってあんのかよ」
「ねぇ、足りなかったらあたしの分あげるよ」
そこへ入ってきたのはダダコだ。美しい琥珀色の髪は燃えるような赤に染まっている。
「もう終わったのか。さすがに早いな」
体毛のみの染色のはずだったが、ダダコの白い肌はうっすらと赤みが差しており、その手のひらの上にレッドベリーの実が二粒乗せられている。
「やっぱ01だよね。僕らとは比べ物になんないや」
コラダは実を握りつぶした手でさらさらと白髪を梳いている。指が通るたびにうっすらと赤く染まっていく。
「それを言っちゃうとさ、どんどん俺がみじめになるじゃんか。俺、03だし」
「01以外は、そう大差ないって先生も言ってたじゃん。それに、フッカの方が僕より実技の成績よかったくせに~」
口を尖らせつつ黒髪を梳くフッカを、もうすっかり赤髪となったコラダがフォローする。
「そうやっていちいち梳いてるから遅いのよ。体内に取り込んで内側から染めれば早いのに!」
準備が出来たダダコは腕を組んでそわそわしている。
「だから、ダダコが出来るからって、僕らも出来るとは限らないんだよ。もう少し待ってよ」
「そうそう。それにグニウだってまだ戻って来てねぇんだぞ?」
やはりフッカの黒髪は染色に向いていないようで、自分の分だけでは染まりきらず、ダダコの残りをありがたく受け取った。
『はいはい、お待たせしたわね』
ぴょんぴょんと軽快に飛び跳ねながらグニウが三人の前に現れた。フッカは身を屈め、肩をさらに低くしてグニウの前に差し出すと、ぴょんとその上に飛び乗る。
フッカの肩の上で口を大きく開けると、長い舌をにゅっと出す。その先端には小さな真っ黒い魚が二匹捕えられていた。それをフッカが手のひらで受け取る。
「グニウ、コレは?」
『仕上げは虹彩の染色よ』
「二匹しかいないけど?」
フッカの手のひらを覗き込んだコラダが不思議そうな声を上げる。
『当たり前よ。フッカの虹彩は元々黒いんだから。こんなものいらないのよ。ほら、アンタ達、とっとと染めちゃいなさい』
グニウの言葉でダダコとコラダはその魚をひょいとつまみ上げた。
ダダコはその魚を右手で握りつぶすようにして体内に取り込むと、一度固く目を閉じ、そして、ゆっくりと開ける。薄緑色だった虹彩は黒く変化している。
片やコラダは、すごいなぁダダコ、と言いながら魚を人差し指と親指でゆっくりとつぶし、黒く染まった二本の指を虹彩に近づけて染色している。
「何か端から見ると、すげぇ痛そうだな」
その様子を見てフッカが顔をしかめる。
「実際には触ってないんだけどねぇ……」
右目の染色が終わり、コラダは苦笑しながら、まだ真っ青なままの左目に取り掛かった。
「はい、出来たよ。ごめんねダダコ、待たせちゃって」
真っ赤な髪に、真っ黒な瞳。それぞれに個性のあった三人の容姿は、いまや画一的だ。
「先進星なのに、個性は許されないわけ?」
不満気にダダコがつぶやく。三人の生まれ育った緑星は、住民の大半が他の星からの開拓者の子孫だ。そのため、髪や瞳の色がバラバラである。それが普通であるため、多少奇抜な恰好をしようと誰も咎めない。しかし、他星人との婚姻を認めていない星も多く、また、認められていたとしても親族からの反対を受けることが多いらしい。よって、そういった者たちは、泣く泣く諦めて同種族と結婚をするか、緑星のような混血の多い惑星に移住するのである。
黄星からの移住者である父と緑星人の母を持つダダコは琥珀色の髪に薄緑色の瞳。
白髪に青い瞳のコラダは、白星人と青星人をそれぞれ先祖に持つ両親から生まれた。
髪も瞳も真っ黒なフッカは両親が共に黒星からの開拓者の子孫である。
肌の色については、長い地下生活の歴史の中でどんどんと白くなっていく。褐色の肌が自慢の黒星人ですらも、三年も住めば透き通るような白肌になるという逸話もある。
いまでは、両親がどこの星の子孫であろうと真っ白い肌の子供しか生まれなくなっているのだ。
『まぁまぁ、ダダコ。そういうことを言うものではありませんよ』
肩の上に乗っているフルがたしなめるように言う。気付くとフルも全身が真っ赤になっている。
『そうよ。さて、そろそろ行きましょ』
ハナも自慢の真っ白い羽毛を燃えるような赤に染めている。
思わずフッカも自分の右肩に目をやった。
「心配しなくても、ちゃんと真っ赤だよ、グニウも」
コラダが愉快そうに笑いながら指摘する。
「別に心配なんかしてねぇよ」
フッカは顔を背けてそう言った。
彼の肩の上には、透き通るように白くつやつやとしていた肌を毒々しい赤に染め上げて、得意気に口をパクパクさせているグニウがいた。




