3
「おや、坊ちゃん達、見ない顔だね。旅行かい?」
人の良さそうな老婆が、三人に声をかけてくる。
「はい、学校の研修旅行なんです。僕らはカーマイン地区担当で」
こういう対応はコラダの役目だ。いかにも優等生な受け答えをしてくれる。
「おやおや、こんな何もないところが担当だなんて……」
老婆は謙遜しながらもにこにこと笑っている。
「おば様、この辺りで美味しいものが食べられるところってどこですか」
コラダに乗っかり、フッカが笑顔で老婆に問いかける。
なーにが『おば様』よ。よく言うわ。
ダダコは内心そう思ったが、二人からきつく言われているのだ。「ダダコはとにかくにこにこ笑って、一言もしゃべるな!」と。その言いつけを守って笑顔を作っていた。
老婆はさすがにフッカの言葉がお世辞であることに気付いたものの、悪い気はしなかったらしく、近くの食堂を何件か紙に書いて手渡してくれた。
「とりあえず、腹ごしらえしようぜ」
得意気に老婆からのメモをパタパタと振り、フッカはニヤリと笑った。
「辛っ! かれぇ~~っ!」
髪の色にも劣らないような真っ赤な顔で、フッカは水をがぶがぶと飲んだ。それをコラダとダダコは冷ややかな目で見つめる。
「フッカ、それはそんなに辛くないやつだと思うよ」
「そうよ。まだそっちのにはペッパーかけてないんだから。フッカのために」
「そんなこと言ったって……」
フッカは涙目で残りの水を飲み干してしまった。見かねたコラダが通りがかったウェイトレスに水のおかわりを頼む。
「黒星人は、辛さに耐性がないんだって。文献で調べたんだ。だから、俺が悪いんじゃねぇよ」
フッカは声を潜めて言った。ここで他星人だとバレたら見た目を変えた意味がない。
「へー、ちゃんと自分のルーツを調べたんだ。偉いね、フッカ」
「あたしも後で調べてみようかしら」
ひそひそ声でやり取りをする若者三人をウェイトレスは怪訝そうな顔で見つめた。テーブルの上におかわりの水を置いて、笑顔で立ち去ると、オーナーらしき人物に耳打ちしている。
「さて、腹も膨れたし、支払い済ませて『課題』に取り掛かろうぜ」
「そうだね。ちゃんとやらないと『先生』から大目玉だし」
今回の三人の『課題』は赤星の空気に慣れることと、この地区に大きな鉱山があるかという情報を集めることである。鉱山なんか聞いてどうするのかとフルに問い質したが、あっさりと『それは追々』とかわされてしまった。
二人が立ち上がったところで、先ほどのオーナーらしき大男がテーブルへやって来た。
「本日は当店をご利用いただき、ありがとうございました。私は当店のオーナー、ザイロと申します」
丁寧に挨拶をし、深々と頭を下げる。それにつられて三人もぺこりと頭を下げた。
「それで、オーナーさんがわざわざ来て下さるというのは……?」
「ええ、見たところ、そろそろお帰りのご様子でしたので、お会計を……」
「成る程、ここではそういうシステムなのね。いいわ。どこでお支払いすればいいのかしら」
ダダコはそう言ってから、得意気に二人を見つめる。
どう? ちゃんとお行儀よく出来てるでしょう?
「それでは、こちらへ……」
オーナー・ザイロの先導で三人は店の奥の小部屋へと通された。他の客はその様子を好奇の目で見つめている。
これは、ちょっと違うんじゃないかしら……?
ダダコはそれを感じたが、どうせ危険なことなんて一つもありはしないのだ。どんと構えてザイロに続いた。
小部屋に三人が入り、扉がパタンと閉まると、人の良さそうな笑みを浮かべたオーナーは、途端にその表情を変える。




