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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第11章 人魚は白い涙を流す
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3

「コラダ、そろそろ目を開けてください。足元を確認して」


 いつもより優しい声が聞こえ、コラダは恐る恐る目を開ける。そして慎重に、縮まっていた足を伸ばし、つま先でトントンと地面を叩いてから着地した。


「はぁ~。怖かったぁ……」


 その場にぺたんと座り込み、深呼吸をした。さすが立ち入り禁止区域だけあって、灯りは無く、穴の向こうは一寸先も見えないほどの暗闇である。


「真っ暗だね」

「そのための懐中電灯です」


 眼前に広がる一面の闇に向かって仁王立ちをしているダダコは、フルの冷静な指摘にやや不満気である。わかってるもん、と言いながら懐中電灯を取り出し、スイッチを入れる。

 コラダが落ち着くのを待ってから、頼りない懐中電灯の灯りを頼りに穴の中を進む。三本同時に使えばいいのだろうが、一体ここに何日いるかわからないのだ。替えの電池は持って来ているが、節約するに越したことはない。稀に発光する鍾乳石もあり、慎重に歩みを進めた。

 


 三人に明らかな疲労の色が見えてきたのは五日目を迎えた午後のことである。歩けども歩けども大して変わらない風景に、携帯食料の味にも飽き始めている。洞内はどこまで行っても薄暗く、慎重に歩かなければならないため、一日に進める距離も短い。さらに、洞内の地図など存在しないわけだから、いま歩いているのが果たしてマーメイドに通じているのかすらもわからないのだ。


「ねぇ、フル。マーメイドを見つけたら、帰りも同じルートを通って帰るの?」


 ダダコがうんざりした声で問いかける。懐中電灯を持って先導しているフルは振り向きもせずに、そうです、と答えた。


「覚えてるの、フル?」コラダは驚きの声を上げた。

「覚えてますよ」フルはさらりと答える。

「ねぇ、フル。これが終わったらすぐに次の星へ行く?」

「どうしました?」

「ここを発つ前にまた皆でご飯が食べたい。携帯食料の味はもう飽き飽き」

「たしかに、それくらいのご褒美が無いと気合も入んねぇよ」


 フッカの声に後押しされ、フルは小さくため息をついた。


「……わかりました。余程のことがない限り、また全員で『味気のある物』を食べに行きましょう」

「約束よ!」

「よっしゃ! 頑張ろうぜ!」

「僕もちょっと元気出てきた!」


 俄然やる気を出した三人に、フルはやれやれとつぶやいて苦笑した。


『フル、皆! こっちこっち!』


 首から下げた小さな灯りを頼りに先を行っていたハナが、興奮気味に戻って来た。


「ありましたか?」

『おそらくね。ただ、ちょっと……。とにかくこっちよ』


 ハナに先導され、しばらく歩くと、うっすらと光が見えてくる。それでも油断せず慎重に近づいてみると、どうやらその光は崩れて積み重なった鍾乳石の隙間から漏れているようだった。

 洞内の壁は長い年月の中で自然と生まれた巨大な柱上の鍾乳石が並んで、柵のようになっている。しかし、目の前にあるのはどうみてもそのようにして作られたものとは思えなかった。


「これはおそらく五年前の大地震で崩れたのでしょうね」


 フルは積み重なっている鍾乳石の断面を懐中電灯で照らし、観察しながらつぶやく。わずかな隙間を覗き込んでみると、中には青白く発光する半透明の鍾乳石が見えた。


「困りましたね。下手に広げればさらに悪化する危険性があります。せめてもう少し大きな穴があればいいのですが……」


 そう言いながらポケットをまさぐり、マッチ箱を取り出す。「ダダコ、蝋燭を出してください」

 鞄の中から蝋燭と燭台を取り出し、フルに手渡す。フルはありがとう、とつぶやいてそれらを床に置き、マッチを擦った。蝋燭に火を点け、燭台ごと持つ。


「私はこれを使いますから、各自、自分の電灯を持って、もう少し大きな穴が無いか探しましょう。必ずバディと行動するように」


 わかった、と言って一歩を踏み出そうとした時、フルは思い出したように「それから、【番人】に気を付けて」と付け加えた。


 用心深く鍾乳石の壁を点検しながら、歩く。せめて、拳一つ分くらいの穴があれば……。


「ねぇ、フル。【番人】って何だろうね。いまのところコウモリくらいしか見てないけど」

「単なるデマだといいんですがね」


 そう言いながらもフルの視線は壁に注がれている。ほんと、フルは真面目なんだから、と思いつつも、どんな時でもきちんと返してくれるのは彼の優しさだと思った。


「フル! フル~!」


 小走りで駆け寄ってきたのはフッカである。何か見つけたのだろうか、ささやくような声で懸命にフルの名を呼んでいる。


「どうしました、フッカ」


 つられて声を落とし、身を低くして辺りを警戒する。


「あのな、少し大きめの穴があったんだ。さすがに中に入れるほどじゃないんだけど。それで、中にな、いたんだよ」

「いた? 何が?」


 その言葉でどうやらいまはさほど警戒しなくても良いと判断し、姿勢を正す。


「ばっ【番人】! あれは獣じゃねぇよ! 人間だ!」

「人間? 中にいたんですか?」

「ああ。もしかしたら別のところに中に入れるほどの穴があるのかもしれないけど、俺らには見つけられなかった」

「まぁ、拳一つ分でもあれば、我々が中に入ることは出来ますから……。とにかく行きましょう」


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