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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第11章 人魚は白い涙を流す
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 ベッドに寝転がったコラダは、早速買ってきた本の中から、『CAVES(ケイヴズ)』を探し出した。

 まさか青星での目的が鍾乳洞だとは思わなかったので、この本を選んだのは単なる偶然である。何となくぱらりとめくった時に目に入った、青白く発光している鍾乳石の写真が気に入ったというだけだった。

 どうやら青星には鍾乳洞が多く存在しているようで、竜胆洞はその規模の割にほんの数ページ分しかなかった。そこにはたしかに、かつては富の象徴であった【人魚の涙】なる鍾乳石に関する記述がある。しかし、フルが話してくれた以上の目新しい情報はない。ただマーメイドは他の鍾乳石には含まれない様々な鉱物が溶けだして生じるために、美しい半透明の石であるという。写真で見るそれは、本当に鍾乳石だろうかと目を疑いたくなるような、美しい石である。しかし、フルの言った通り、近年ではその価値が下がり、しかも数年前に起きた大地震によってマーメイドが採れる場所への通路が塞がれてしまったらしい。もちろん、通路はその一箇所だけではないものの、一番安全なルートが絶たれてしまったいま、わざわざ危険に身を晒してまで採掘しようなどという者はいないのだという。


 フルは一日では終わらないって言ってたけど、鍾乳洞内でキャンプって出来るものなんだろうか。

 それに、この本には【番人】に関する記述がない。

 ただのデマなのか、それとも、最近住み着いたのか……。



「お兄ちゃん達、随分な荷物だね。旅の途中かい?」


 竜胆洞に足を踏み入れると、観光客らしき男性に声をかけられた。


「そうなんです。これからピーコック地区の方へ向かうのですが、その前にここを見てみたくて」


 コラダは人当たりのいい笑みを浮かべてそう返す。指摘されるのも無理はない。三人が背負っているのは簡易テントに各自の寝袋、それに携帯食料と水、そして懐中電灯である。


「へぇ~、ここからピーコックへねぇ。そりゃあ大変だ。学生さんかい?」

「そうなんです。いまは長期休みの期間なので、学生最後の思い出にと、あちこちを旅しているんですよ」


 男性はそうかそうかと顔をほころばせた。

「若いうちにね、いろんなものを見ておくといい。いい経験になるよ」


 そう言って、三人に手を振ると、先ほどから彼に向かって手招きをしている女性の方へ駆けて行った。どうやらこの男性はツアー客のようである。化粧の濃い小太りのガイドが、小さなマイクを片手に竜胆洞について滔々と語っている。


「……ここからどうやって立ち入り禁止区域に入るの?」


 日の光の入らない内部はひんやりとしており、三人は防寒用のフード付き外套を羽織っている。襟元からネズミ姿のフルがひょっこりと顔を出す。


『とりあえず、あのツアー客の後ろにつきましょう。もう少し奥へ進んでからです』


 前方からかすかに届くガイドの声を聞きながら、ツアー客とは距離を置いて、薄暗い通路を黙々と歩く。ここは一般開放されている区域のため、雰囲気を損ねない程度の灯りが灯されている。ただ、一部の鍾乳石はその灯りが無くともほんのりと青く発光する性質があるらしく、あえて灯りを無くしているところもあった。


「綺麗だね」


 ダダコがぽつりとつぶやくと、『我々には到底作り出せない自然の神秘です』とフルが返す。

 この旅がいつまで続くのかはわからないが、こうやっていろんな物が見られるのは楽しいと思った。

 しばらく歩くと、狭い通路が急に開け、巨大な空間が眼前に飛びこんでくる。どうやら一般開放されているのはここで終わりらしく、転落防止の鉄の網で囲まれており、恐る恐る下を覗くと、一体どれほどの高さがあるのか底が見えない。目の前に広がるのは、ごつごつとした壁に開いた無数の穴である。フルが言っていた『迷路』というのは、おそらくここからスタートしているのだ。

 先導していたツアー客達は網から下を覗いてみたり、記念に写真撮影をしたりして、満足した者から来た道を帰っていく。さすがにこの網をくぐって禁止区域に潜入しようなどという馬鹿な考えを起こす者はいないようだ。


『さて、参りましょうか』


 人気が無くなったところでフルがひょっこりと顔を出す。『のんびりしていると、次のツアー客が来てしまいます』


「行くって……、どうやって?」

『どうやってって……。飛ぶしかないでしょう』


 フルは首を傾げながら言う。まるで、そんなの当たり前でしょう、とでも言いたげだ。


「フル、随分簡単に言ってくれるけどさぁ……」

「ダダコは楽勝だろうけど、僕はちょっと自信ないかも」


 フッカとコラダは膝に手をつき、肩を落とした。ここから壁に開いた穴まではどう見積もっても三百メートルはある。


『……仕方ありませんね』


 するりとダダコの外套から抜け出ると、辺りをキョロキョロと見回してから人間の姿に戻る。


「私が運びましょう」


 そう言うや否や、三人の身体はふわりと持ち上がる。襟元からは各々のバディが顔を出した。


『私、飛んだ方がいいかしらね』


 ハナは申し訳なさそうにつぶやき、片羽を出したが、「あなた一羽分くらい、どうってことはありませんよ」と、フルは涼しげな顔をしている。


「フル、あたしは自分で飛ぶよ」

「もしものことがあっては大変です。私に任せて」


 フルは口元に薄く笑みを湛えると、自身の身体も浮き上がらせた。


 四人と二匹持ち上げたって表情一つ崩れないんだな。

 一体フルの力はどれ程なんだろう。


 自分達の前を飛んで行くフルの背中を見つめながら、フッカは思った。


「ねぇ、フッカ……。まだかな」


 弱弱しい声が聞こえ、隣を見ると、コラダが目をぎゅっと瞑っている。


「……何だ、コラダ。高いのダメなのか」

「あんまり得意じゃないんだ。それに、この高さは、ちょっと……」

「たしかに、俺もこの高さはちょっとビビるけど」


 何せ、足場もないのだ。ちらりと下を見ると、闇が大きな口を開けて獲物が落ちてくるのを待ち構えているようにも見え、フッカは少し身震いをした。


「もう少しですよ。あまり速度を上げれば危ないかと思ったのですが……」


 フルが首だけをコラダの方へ向け、心配そうな声をかける。


『コラダ、大丈夫よ。フルがあなたを落っことすはずないもの』

「わかってる。わかってるんだけどね……」


 コラダは目を瞑ったまま力なく笑った。


「大丈夫だよ、コラダ。あたしが手ぇ繋いでてあげる」


 ダダコは固く握りしめていたコラダの手を取ると、両手で包むようにして握った。


「ありがとう、ダダコ」


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