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船の中でならほんの三十分程度で終わる夕食も、初めての外食だからか、はたまた、人間の姿のバディ達との食事が新鮮だったからか、終わるころには辺りは夜の闇に包まれていた。
「結局、フルはすげぇ食ったな」
「ね。涼しい顔して、ぺろりだったね」
「だから少なくともフルはネズミになってもらわないと、船の食料なんてあっという間よ」
「そうそう。かといって、アタシ達二人だけ人間ってのも不公平だしねぇ」
コラダとハナ、フッカとグニウはそれぞれ連れだって歩いている。その後ろをフルとダダコが歩く。
「フル、美味しかったね」
「そうですね」
「また今度、こうやって皆で食べようね」
「そうですね」
「フル、たくさん食べたね」
「そうですか?」
「フルはあれが普通なの?」
「まぁ、そうですね」
「だったらなおさらいつも物足りなかったんじゃないの?」
「ネズミの時は胃も小さくなりますから」
「またコラダにクッキー焼いてもらおうね」
「そうですね」
「フル、明日からは『仕事』だよね? この地区なの?」
「本日は情報収集も行いましたが、どうやらこの地区ではないようです。外では話せませんので、詳細は船でお話しします」
ダダコは左手で豚のぬいぐるみを抱き、右手はフルの左手と繋がっている。初めは難色を示していたものの、腕に絡みつかれるよりはマシと思ったのか、はたまた、ハナとグニウに睨まれたからか、半ば諦めた表情でおとなしく繋がれていた。
「あの二人は並んで歩くと身長差が親子みたいだな」
フッカが茶化すように笑った。隣にいるグニウはコラダよりは高いが、フッカよりもわずかに低い。
「あら、そしたらアタシ達、恋人に見えるかしらね」
そう言いながらグニウはフッカの腕を取る。
「恋人って……。年齢的に厳しくない?」
「ダメだよ、フッカ。女性に年齢の話をしたら」
「ふふ。コラダは紳士ねぇ」
ハナはしっかりとコラダの腕に手を絡ませている。この二人の身長差はほぼゼロである。
じゃれ合いながら歩く四人の姿を見て、たまにはこういうのもいいかもしれないとフルは思った。
「本日はもう遅いので、簡単に明日からの予定をお話しします」
GREEN MOLE号のメインルームで、立ったままフルが三人に向かって言う。
「次の目的はここの隣にあるターコイズ地区の竜胆洞です。ここからそう遠くはありません。明日の昼には到着の予定ですので、各自、ゆっくり休んでください」
「ねぇ、フル、やっぱりその目的の物は……」
ダダコが手を挙げながら質問する。やっぱり明日にならないと教えてもらえないのだろうか。
本来なら目的の地区に到着してから話すのだが……。フルはそう思ったが、ふっと脱力して少し笑った。
「まぁ、いいでしょう。次の目的は鍾乳石です。竜胆洞の奥にあるそうです」
「しょーにゅーせき?」
このトーンは絶対わかってない。ダダコ以外の全員がそう思い、呆れた視線を向けた。
「いいですか、鍾乳石というのは……。簡単に言うと、溶けない氷柱です」
フルは一瞬事細かに説明しようとしたが、どうせ難しいことを言っても右から左だろうと思い直し、単純に見た目のみを伝えた。
「溶けない氷柱ね! なーるほど!」
「あと、食べられないタケノコみたいなのもあるんだよ」
「食べられないタケノコ?」
「えーとね、氷柱は上から下がってるけど、タケノコみたいに地面から伸びてるものもあるんだ」
コラダが付け加えると、面白い! とダダコは目を輝かせた。
「で? 今回のもまた厄介な感じなのか?」
「今回は、前回のように採掘作業をしている者はいないはずです。ただ……」
「ただ……?」
そこが一番重要なところだろう。それはフルの表情を見れば一目瞭然だ。
「今回の目的【人魚の涙】は竜胆洞の最深部にあるそうなのですが、内部は迷路のように大変入り組んでいるようです」
フルはため息交じりで言う。
「さらに、どうやら【人魚の番人】という異名を持つ獣が生息しているらしく……」
「今回は本当に『獣』なんでしょうね……」
ダダコが念を押すと、フルは首を傾げた。
「それが、わからないのです。何せ、現在そこへ足を踏み入れる者はほとんどいないそうですから」
「ということは、そのマーメイドっていうのは、青星ではそんなに重要なものではないってこと?」
コラダが問いかけると、フルはそのようです、と頷いた。
「マーメイドは昔、富裕層が装飾具として身に着けていたそうですが、ここ最近では、その価値は下がり、危険を冒してまで採取しようとする者はほとんどいないそうです」
「だったら、楽勝じゃん。迷路を頑張って攻略すりゃいいってことだろ? まぁ、あとそのわけわかんねぇ獣を何とかすれば」
人間に危害を加えるわけじゃないなら、さほど心も痛まないだろうとフッカは思った。
「まぁ、そうなのですが」
「何だよ、フル。歯切れが悪いなぁ」
「問題は、その広さです」
「……どれくらい?」
「約八ヘクタール……といっても、その顔を見るとどうやらピンと来ていない様子ですね」
三人の顔を順に眺めた後でフルはため息をついた。
「我が緑星のエメラルド地区にあるモス政府認定公園はわかりますね」
「うん。何回か課外学習で行ったもん。楽しかったよね~」
「あの馬鹿でかい公園だろ?」
「……もしかして、あれくらい広さなの?」
「さすがコラダ。目の付け所は素晴らしいです。ですが、あの公園は約三ヘクタールです」
三人は一様に目を見開き、口をあんぐりと開けた。その様子を見てハナとグニウは顔を見合わせて笑った。
「竜胆洞はターコイズ地区の三分の一を占める巨大な鍾乳洞です。途中までは観光スポットとして、連日大勢の観光客で賑わっているようですが、もちろん我々はその先の立ち入り禁止区域に潜入します」
「やっぱり立ち入りは禁じられてるのね……」
「そうです。人が通れるギリギリのところもありますし、地底湖などもあり、大変危険です」
フルは淡々と話すが『危険』というフレーズに三人の顔が硬直した。それに気付くと、コホン、と咳払いをし、「あなた方のことは何があっても私が守ります」と言った。
「私達もいるから安心して」
「いざという時には、アンタ達の盾にでも何でもなるんだから」
グニウは片目を瞑って得意気に胸を張る。
「そんな、盾だなんて……」
コラダは眉をしかめた。
「そうだよ。いくらバディでも、女を盾に出来るかよ」
フッカは腕を組んで不服そうな声を上げた。
「まぁ、無理に一日で終わらせる気はありません。というよりも、終わらないでしょう。簡易テントや食料についてはこちらで準備してありますから、あなた方はもう休みなさい」
その言葉で三人はしぶしぶ自室に戻る。




