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「なぁ、ハナはさ」
「なぁに?」
「寄宿学校では校長の秘書だったんだろ?」
「そうよ」
「そんで、グニウは医務室にいたんだよな?」
「そうよ。よく覚えてたわね」
「まぁ、覚えてたのは俺以外の二人だけどさ。でさ、フルは一体どこにいたんだ? あんな目立つ長身の赤頭、一度見たら絶対忘れるわけないと思うんだけど」
「そうよね。あのね、フルはね……」
ハナは身を乗り出し、いかにも内緒話をするといった体でフッカに顔を近づけた。
「よぉ、美人の姉ちゃん」
ハナとフッカの間へ無理やり割り込んできたのは、酒の臭いをぷんぷんさせた酔っ払いである。手には飲み掛けの酒を持っている。ハナとフッカはその酒の臭いから逃れるように顔をしかめて身体を離した。
「なぁ、こっちで俺らと飲まねぇか? アンタもこんな小便臭ぇガキより、大人の男のがいいだろ」
赤ら顔の男は確実に筋肉だけではない太い腕でハナの華奢な手首をつかむ。
「残念ですけど、あなたみたいな下卑た酔っ払いよりも、こっちの彼の方が百倍男らしくて素敵だわ」
余裕たっぷりの表情で睨みつける。そうだ、ハナだってチルドレンなのだ。もっとも、チルドレンと呼べる年でもないのだが。
目の前の酔漢と比べられたのは面白くないが、それでもハナに男らしくて素敵、と言われたことは純粋に嬉しかった。
「そんなわけだから、おっさん、自分の席に戻んなよ」
そう言いながらハナの手首から酔っ払いの手を引き剥がす。男は、フッカの握力が予想以上だったと見えて、少しひるんでいる。しかし、明らかに年下とわかる小僧にあしらわれたとあってはプライドが許さなかったようで、酒の瓶を持った手を振り上げた。
特に危険なことでもない。
それはわかっている。
ただ、避ければテーブルにぶつかってせっかくの料理が台無しになってしまうだろうし、このおっさんの顔の前で破裂させてやろうか。
でも、それだとハナと自分にかかっちゃうよなぁ。
仕方ない、手で受け止めるか。
のんびりとそう思っていると、酔漢の手はぴたりと止まった。どうしたのだろうかと顔を見ると、彼は額からだらだらと汗を流している。
「私の連れに何か」
その声の方を見ると、そこに立っていたのはすらりとした長身の赤頭である。フルはまっすぐに腕を伸ばし、人差し指を酔漢に向けていた。
「少し飲みすぎのようですので、差し出がましいようですが、頭を冷やすお手伝いをさせていただきました」
いつもと変わらぬ無表情だったが、静かに怒りの炎を燃やしているのはフッカにもよくわかる。
「なっ……、何だよ、おめぇ……」
酔漢はそう言いながらフルの方を向き、先ほどからだらだらと流れている汗に不思議そうな顔をしている。
流れた汗が口に入ると、彼は不思議そうな顔をした。「水……?」
「足りませんか? 幸い、ここは水の多い星ですからね」
ぽつりとつぶやくと、酔漢の額、いや、前髪の隙間から汗とは思えない量の水が流れてきた。
「ちょっ、ちょっと、何だよコレ! 止めっ、止めろっ!」
男は次から次へと流れる水が目に入らないように、額に手を当て、必死にガードしているが、水の勢いはどんどん増していく。
「そろそろお引き取りいただけませんか。せっかくの料理が冷めてしまいます」
そう言うフルの眼光は鋭く、それだけで男を射抜いてしまいそうだ。
男はその視線と、一向に止まらない水に辟易し、そそくさとその場を立ち去った。
「やれやれ、大丈夫ですか、お二人共」
そう言いながらフルは手に持っていた料理をテーブルへ並べる。フルの後ろからひょっこりとダダコが顔を出した。ダダコも手に持っていた料理を置く。
「大丈夫も何も。私とフッカだけで撃退出来たわよ」
ハナはフッカをちらりと見て、ねぇ? と同意を求める。
「そうだよ。あれくらい、フルがいなくたって楽勝だって」
「まぁ、そうでしょうが」
そう言いながら席に着く。
「お待たせ~。ステーション混んでてさぁ~」
コラダののん気な声が聞こえてくると、辺りは緩い雰囲気に包まれる。トレイの上に人数分のグラスとお代り用のピッチャーを乗せていた。
「待たせたわね。さ、食べましょ」
グニウは足りないと判断したのか、追加の料理まで持っている。
気付くとテーブルの上はとんでもない量の食べ物で埋め尽くされていた。




