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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第10章 水の都、青星
35/46

3

「ダダコ!」


 待ち合わせ場所であるトリトン広場は同じ考えの人々でごった返している。こんな混雑しているところで見つけられるだろうかと思っていたところへ、聞き覚えのある声が届き、顔を上げてみると、雑踏の中に真っ赤な頭がひょっこりと飛び出ている。


「いた、フル!」

「こうやって見ると、フルって大きいんだね」

「普段はちっちぇえネズミの癖にな」


 ダダコは通行人の邪魔にならない程度に手を振り、存在をアピールする。コラダとフッカは突き出た派手な赤頭に笑いを堪え切れないようだった。


「何がおかしいんです?」


 ダダコの手を見つけたフルが三人と合流すると、くすくすと笑っているコラダとフッカの姿を目に留め、首を傾げた。


「いや、人混みの中にフルの頭だけ飛び出てたから……」

「うん、何だか面白くて……」

「そんなことですか……。あの二人にも『目印』と言われましたし……。背が高くてもいいことなんてありませんね」


 フルは心底うんざりしたような顔をしている。「これならネズミの方が気が楽ですが、ここだと踏みつぶされてしまいますし……」

「え~? 僕は羨ましいよ。もっと身長欲しいもん。せめてもう五センチ……」


 そう言うコラダの身長は百六十八センチ。フッカは百八十センチだが、フルはおそらく百九十を超えているだろう。周りを見渡しても、これほどの長身はまず見当たらない。


「あー、いたいた!」

「ちょっと~、『目印』が何勝手に移動してんのよ!」


 後方から女性二人の明るい声が聞こえてくる。ハナとグニウだ。


「勝手にって、ダダコ達が――……っ!」


 そう言いながら振り向いたフルは、ハナとグニウの姿を見て言葉を失った。


「わぁ、ハナもグニウも素敵~!」

「うぉっ、いいじゃん!」

「現地の人みたい! 涼しそうだね」


 その場に現れたハナとグニウは、現地人が身に着けるような胸元が大きく開いたノースリーブのワンピースを身に纏っていた。スカートの丈は長いのだが、腿の辺りまでスリットが入っているデザインである。

 羨望の眼差しを向ける三人とは対照的に、フルは懸命にその姿を直視すまいと視線を逸らしている。


「どうしたの、フル?」


 ダダコは赤い顔をして俯いているフルを心配そうに見上げた。


「目のやり場に困るのかしらねぇ~?」


 グニウは目を細めてニヤリと笑うと、そろりそろりとフルに近づき、腕をつかんだ。


「なっ……何を!」

「ハナ!」

「はいはーい」


 グニウの声でハナが笑みを浮かべて近づいてくる。フルの真正面に立ち、一度にこりと笑ってからもう片方の腕をつかんだ。


「はっ、離しなさい! 二人とも!」

「いいなぁ、フル。両手に花じゃねぇか」

「そう思うのなら、フッカに譲ります! 離れなさい、二人共!」

「いいじゃない。せっかくなんだから、素敵な大人の男と歩きたいのよ、アタシ達だって」


 そう言ってグニウはけらけらと笑う。医務室勤務だったはずだが、何故こんなにも、と思うほどグニウの身体は鍛え上げられている。


「ねぇ? でも、もしコラダがエスコートしてくれるって言うなら、帰りは一緒に歩きましょうか」

「僕に勤まるかなぁ……」


 そう言いつつも、コラダはまんざらでもないようだ。


「あら、そしたら帰りはアタシ、フッカにエスコートしてもらおうかしらね」

「俺を引きずって歩く、の間違いじゃねぇの?」

「言ってくれるじゃない」

「じゃ、あたし、帰りはフルと手ぇ繋いで帰る!」

「まぁ、そうなるわよねぇ~」

「勝手に話を進めないでください!」


 フルは半ば諦めているのか、女性二人に連行される形となって歩いている。

 しばらく歩くと屋台街が見える。どうやらここで食べるらしい。ゆったりと八人は座れるテーブルに腰掛けた。


「では、座席確保のため、必ず二人はここに残ることにして、いつものペアで各自食べたいものを買ってきてください。最初はどのペアが残りましょうか……」

「まずはフル休んでなよ。俺ら行ってくるからさ」

「……助かります。では、ダダコもここに残ってください」

「わかった。それじゃ、お願いね」


 大きなテーブルにフルと二人きりになると、何を話したら良いのかわからなくなってしまう。どうしようかな、と思っていると、フルの方から話しかけてくる。


「探していたぬいぐるみというのはそれですか」


 さっきからずっと大事そうに抱えている豚を指差し、フルは少しだけ笑った。


「うん、探してたのとは違うんだけど、抱き心地が一番近かったんだ」

「良かったですね。今夜からはぐっすり眠れそうですか」

「たぶんね……。電気を消せば顔なんてわからないだろうし」


 そう言いながら、豚の鼻を撫でる。


「そんなに大事なぬいぐるみだったとは、私も気が付かずに申し訳ありません」


 バディとして責任を感じているのだろう。


 そんなのフルの責任じゃないのに……。


「ううん。そこまで大事じゃなかったんだ、出発する前日まで」

「どういうことですか?」

「あたしがまだ家にいた頃におばあちゃんがプレゼントしてくれたものだったの。ずっと寮の部屋に飾ってるだけだったんだけど、出発の前日、おばあちゃん、急に具合が悪くなったみたいで、入院しちゃったんだって」

「それで……、お祖母様は?」

「そんなに大したことはないみたいで、きっとすぐに退院出来るって。船の通信衛星にも毎日元気だよってメールが来てる」

「そうですか……」

「だから、本当は持って来たかったんだけどね。仕方ないよ。寮母さんには伝えてあるから、定期的に埃を払ってくれるみたいだし」


 移動に時間がかかることに焦っていたのは、そういうところもあるのかもしれないな、とフルは思った。


「ダダコ、旅はまだまだ長くなります。緑星から一番近い白星へ行く際に一度戻りましょうか?」

「そんな……、悪いよ。だったら一日でも早く終わらせようよ」


 それに、この子にも悪いし、と言ってダダコは豚を撫でた。


「そうですか……」


 ダダコはニィっと口角を上げて笑った。つられてフルも笑う。


「いいじゃない」

「何がですか?」

「フルの笑った顔。ぜんぜん変じゃないよ」

「そうですか」

「これからも笑ってね、フル」

「……努力しましょう」

「おーい、買ってきたぞ~。交代交代~」


 先に戻って来たのはフッカとグニウだった。両手いっぱいに持っているのは肉料理と魚料理である。


「コラダ達は野菜料理と甘い物買ってくるって言うからさ、フル達は主食買ってきてくれよ」


 フッカはテーブルの上に料理を並べていく。程なくしてコラダとハナも戻って来た。


「ねぇ、フル、見て見て~。美味しそうなドーナツとクッキーがあったよ~」


 この二人のさすが、と思うところは、取り皿やスプーンなどを余計に貰ってきているところである。

 コラダの言葉にぴくりとフルの肩が反応したのをダダコは見逃さなかった。


「つまみ食いしちゃダメだよ、行こう、フル」

「……そんなことはしません」


 そう言いながら立ち上がり、人混みの中に消えていく。


「俺らも二人が戻るまでお預けってやつ?」

「もちろんよ」


 ハナはニヤリと笑う。


「あ、僕、飲み物買ってくるよ」


「ここは飲料水がただで配られているから、それでいいんじゃない? アタシも手伝うわ」


 そう言ってコラダとグニウはウォーターステーションへ向かった。

 テーブルにはフッカとハナの二人きりである。なかなかない組み合わせだな、とフッカは思った。


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