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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第10章 水の都、青星
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2

「お、コラダだ。もう終わったのかな」


 ダダコとフッカは二軒目の雑貨屋のぬいぐるみコーナーにいた。ダダコに余り離れるなよと念を押してから、端末を繋ぐ。


「よぉ、もういいのか?」

「うん、充分満喫させてもらったよ。そっちはどう?」

「雑貨屋二軒目。ここは結構ぬいぐるみが充実しているから、なんとかなりそうかなぁ」

「そうなんだ。じゃ、僕もそこに行くよ。何ていう名前のお店かわかる?」

「何つったかなぁ……。えーっと、すみません……、この店の名前って……、え、あ、はい、どうも……。【サファイア・ストア】だってよ」

「【サファイア・ストア】だね、わかった」


 コラダのその言葉で通話は終了し、ぬいぐるみを吟味中のダダコに声をかける。


「コラダ、こっち来るってよ」

「もういいの?」


 ダダコも意外そうな顔を向けた。あの本の虫がねぇ、と言いながら、次々と大きいぬいぐるみを抱きしめている。


「これか、これかなぁ……」


 ダダコは二体のぬいぐるみを交互に睨みながら、つぶやいた。

 右手に持っているのは薄いピンクの豚、左手に持っているのは薄い水色のうさぎである。

 ちらりとフッカを見る。ダダコの視線に気付いたフッカは目を見開いて自分を指差す。


「まさか俺の意見聞くわけじゃねぇだろうな」

「そのまさかよ」

「いやいや、ダダコの抱き心地の問題だろ? 俺の好みは関係ねぇだろ。ていうか、俺、ぬいぐるみに興味なんかねぇぞ!」

「何言ってんの! 誰もフッカの好みなんて聞いてないよ。どっちがあたしに似合うか聞こうと思ったの!」


 ダダコは頬をぷぅと膨らませている。


「そんなん余計わかるかよ。ぬいぐるみが似合うって、そもそもどういう状態だよ!」

「……いい、もう。コラダに聞くから!」


 そう言いながら、再度抱き心地を確かめるように、豚とうさぎを交互に抱く。やはり甲乙つけがたいらしい。


「お待たせぇ~」


 息を切らせたコラダが【サファイア・ストア】のぬいぐるみコーナーにやって来たのはそれから十分後のことだった。フッカは、どうしてそんなに疲れているのだろうと疑問に思ったが、コラダの荷物を見れば一目瞭然である。


「コラダ……、何冊買ったんだよ」

「えーと、たしか、九冊だったかな……」

「うそ! たかが九冊でそんなに袋がパンパンになるはずが……!」


 そう言ってダダコが袋の中を見ると、たしかに本は九冊しか入っていなかった。ただ、その厚さが尋常ではなかっただけで。

 なーるほどね、と言って袋の口を閉じる。


「そうだ、コラダ。ちょっと見てほしいんだけど、こっちの豚とこっちのうさぎ、どっちがあたしに似合うと思う? あともうこれだけなのよ!」

「これだけって?」


 何のことかわからないコラダはきょとんとした表情でフッカに助けを求める。知るか、と突き放したいところだが、いま来たばかりのコラダに当たるのは酷というものだろう。


「どっちかで悩んでるらしいんだわ。抱き心地はどっちも申し分ないんだと。で、最後の決め手が、どっちがダダコに似合うか、なんだとよ」


 やや投げやりに言うと、成る程ねと言って、拳を顎に当てると眉間にしわを寄せて豚とうさぎを交互に見つめた。


「ダダコ、その状態じゃ判断できないよ。一つずつ持ってくれないと。まず豚の方から。うさぎは僕が持ってるから。貸して」


 コラダに言われるがままにうさぎを手渡し豚を抱く。コラダは頷きながらそれをじっくりと確認すると、今度は持っていたうさぎを手渡して豚を回収した。同様にそれをじっくりと見つめる。その真剣な表情にダダコも固唾を呑んで結果を待っている。


「僕の考えだけどね。僕は豚の方がいいんじゃないかと思うんだよね」

「どうして?」「そうだよ、何でそう思うんだよ」


 いつの間にかフッカまでも身を乗り出している。


「何でかって言われると弱いんだけど……。うさぎよりもこっち豚の方が、ダダコの顔が優しく見えたからかな」

「優しく……?」

「だから、もしかしたら、ダダコはこっちの方が気に入ってるのかなぁって思って……。それに、愛嬌あって可愛い顔してるよね、この豚」


 そう言ってにこりと笑った。言われてみると、何だか愛嬌のある豚に対し、うさぎの方はやや不愛想に見えた。


「そうかもしれない……。じゃ、こっちにする。ありがと、コラダ!」


 ダダコはコラダから豚を受け取ると、カウンターへ跳ねるように駆けて行った。


「……さすがだよなぁ、コラダは」

 フッカは感心したようにつぶやく。「俺はすぐ喧嘩みたくなっちゃうんだよなぁ」

「そうかなぁ」

「はいはーい、お待たせ~」


 ご機嫌な声が聞こえ、振り向くと、ダダコは満面の笑みで豚を抱きしめている。


「あれ、ダダコ、袋には入れてもらわなかったのか?」

「袋は一応もらったよ。でも、もう少しだけぎゅってしてたいのっ!」


 お気に入りのが見つかって嬉しいのだろう。肌触りのいい生地に頬をこすりつけて嬉しそうな表情を浮かべている。


「盗ったと思われないか?」

「だーじょうぶ! ほら、ココ」


 そう言ってダダコが指差したのは豚の首回りだ。真っ赤なリボンがぐるりと巻かれ、そこには『SOLD』と書かれている。おそらく、抱いて帰りたい人は一定数いるのだろう。ただ、それはきっと、ダダコよりもう少し年齢が下の子だと思うが。



 店を出た後も、珍しく何のもめ事も起こさなかったのは、さすが『治安の良い地区』である。

 午後五時を知らせる鐘が鳴った頃、ダダコの端末にフルからの着信が入る。


「そろそろ集合しようかと思いますが、いかがでしょう」

「こっちは大丈夫だよ。フル達はいまどの辺りにいるの?」

「マーケットの中間地点に大きな噴水のある広場があるのですが、私はそこにいます。ハナとグニウはすぐ近くの店に入っています」


 そう話すフルの声は明らかに疲れている。散々連れまわされたのだろう。


「じゃあさ、そっちに向かうね。たぶん、いまその噴水の近くだと思うから」

「わかりました。では、お待ちしています」


 フルとの通話が終わり、端末をポケットにしまう。二人にも待ち合わせ場所を告げて、店を出た。


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