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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第9章 内緒話と忘れ物
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3

『では、通貨転送装置に端末をセットしてください』


 青星着陸の前にメインルームに集まった三人はそれぞれの端末をモニターの横に設置されている装置にセットした。


『あなた達は未成年ですので、給与はご家族に支払われておりますが、この旅の報酬は別です。まぁ、お小遣いとでも思ってください』


 そう言われて通貨が転送された端末を確認すると、決して『お小遣い』で済まされるような額ではない。


「十五万GLxsって……。これは結構な額なんじゃないの……?」

「たしか、僕らと同年代の学生アルバイトの平均収入って五万GLxs位じゃなかったっけ……?」

「それに、俺ら一週間も働いてないぞ?」


 三人は端末の画面に釘づけになっており、ダダコに至っては何度もゼロの数を数えている。


『それ程の任務だった、ということです。ただ、無駄遣いはお勧めできません。今後も任務中の活動費は政府から支給されますので、必要なものだけを買うようにするんですよ』

「まぁ、これまでも特に欲しいものとかなかったしな……」

「うん、僕も。勉強の本は活動費で買ってもらえるし……」

「服なんかも、そうよね。今回だって、忘れ物がなければこうはならなかったわけだし……」


 お互いに顔を見合わせながら頷く。その様子を見て、フルは少し拍子抜けした。


『まぁ、ずっと寄宿学校にいたわけですし、無理もありませんが……』

『アナタ達、まだ子供なんだから、もうちょっと子供らしくしなさいよね~』

『マーケットに行ったらきっと変わるわよ。そういうものよ』


 フルの両脇に立つグニウとハナが口を挟んでくる。


「ねぇ、ハナ達はどうするの?」


 コラダは身を屈め、テーブルの上のハナと視線を合わせた。


『私達は、食料の補給をするわ』

『あとはもちろん、アタシ達だって、マーケットを回るわよ。いいわよね、フル?』


 グニウは目を細めてフルを見つめる。フルはその視線にぶるっと身震いをした。


『……構いません』

「フル、買い出し、僕も手伝おうか? 大変でしょ、その姿だとさ」


 コラダがそう言い終わるや否や、フルはさかさかとテーブルを移動し、端から勢いよくジャンプすると、人間の姿に戻った。


「ありがとう、コラダ。でもご心配なく。本日はこの姿で回りますので」


 背筋をぴんと伸ばして立っているフルは、三人の中で一番背が高いフッカよりもさらに拳二つ分高い。気付くとハナとグニウも人間になっている。


「私達も久し振りにこの姿で羽を伸ばさせてもらうわ」

「あら、ハナはいつも羽を伸ばしてるじゃない」

「それは言葉の綾ってやつよ」

「わかってるって」


 グニウはたくましい腕を胸の前で組み、けらけらと笑った。

 女性二人のやり取りを無視し、フルはモニターと向かいあう。どうやら着陸準備に入るようだ。


「さて、そろそろ着陸します。準備はよろしいですか?」

「はいはい。いつでも」

「皆、揺れはないと思うけど、気を付けるのよ」


 着陸、と聞いて慌てて着席した三人と比べて、さすがバディ達は余裕たっぷりである。これが経験の差、というものなのだろうか。

 ゴゴゴ……と唸り声のような音を立てて、ゆっくりと青星の大地に船が着陸する。衝撃をさほど感じないのは、自動操縦であるこの船の性能が良いのか、はたまたフルが操作しているのか。

 無事に着陸出来ると、タラップは自動的に下りるように設定されている。船外へ飛び出す前に最終確認をする。


「では、我々は食料の調達後、一度船に戻り、……マーケットに参ります」


 明らかに最後の方はテンションが落ちている。人間の姿だと表情も読み取れるので、余程女性陣とのショッピングが憂鬱なのだろうとコラダは思った。


「我々も最終的にはマーケットへ向かいますので、せっかくですから、夕食もそこで済ませましょうか。頃合いを見計らって端末に連絡いたします」

「人間の姿で食べるの?」コラダが目を輝かせる。

「そりゃ、食べるときになっていきなり蛙になったらびっくりされちゃうでしょ」

「いいね、皆でご飯!」


 声を上げたのはダダコだ。フルの手を取り、ぶんぶんと大きく振った。「たくさん食べてね、フル!」

「いえ……、そんなには……」


 フルはダダコの勢いに圧倒され、少しでも距離を離そうとしているのか、身をのけ反らせている。


「大丈夫よ、ダダコ。フルだって立派な成人男性なんだもの。もーりもり食べてくれるわよぉ~」


 グニウがフルの肩を抱き、ニヤリと笑う。


「ぐっ、グニウ! 離れなさい! 私はそんなに……!」

「あら~? 昔は五人前をぺろりだったわよねぇ~?」


 ハナはくすくすと笑いながら反対側の肩にもたれかかる。ハナの身長ではフルの肩を抱くことは出来ないのだろう。


「ハナまで! 私から離れなさい!」


 フルは顔を赤らめ、額に汗を浮かべている。フッカは女性に囲まれて狼狽しているフルを見てもしや、と思った。


「フル、もしかして、女が苦手……とか……?」


 恐る恐る言ってみると、脇を固める女性二人はニィっと笑ってお互いを見つめ合う。


「そっ……、そんなことは……!」

「違うのよ、フッカ。フルはね、ちょーっと頭が固いだけなのよ」

「そうそう、いまどきなかなかいないわよ、こんな古い考えの男」

「何を言ってるんですか! 別に私は……!」

「ねぇ、ハナ。頭が固いっていうのはどういうことなの……?」

「コラダ、いいんです。そこは掘り下げなくても!」


 慌てるフルをグニウがなだめる。「まぁまぁ、若い子の好奇心は仕方がないわよぉ~?」

「あのね、コラダ。フルはね、『未婚女性はむやみに男性に触れるべきではない』って考えの持ち主なのよ」


 あっさりとバラされてしまったフルは開き直るしかなかったようで、グニウを振りほどいて数歩後退りすると、憮然とした表情で腕を組んでいる。


「別におかしいことではないはずです。大体、昨今の男女は性に奔放すぎるのです。それに、既婚女性ならなおさら、伴侶以外の男性に馴れ馴れしく近づくべきではありません」

「性に奔放って……。フル、手ェ握ったりさ、肩を抱くくらいは普通のスキンシップなんじゃねぇの?」

「ですから、別にあなた方に強制しようとは思っていませんよ」

「ほんと、政府から伴侶が与えられでもしない限り、この堅物は結婚なんて出来そうにないわよねぇ」

「良かったんじゃない、その点に関しては?」


 頬に手を当ててため息交じりのハナとニヤニヤと茶化すグニウ。この二人に挟まれれば01のフルでも形無しである。


「もう、何でもいいですから、そろそろ行きますよ。ほら、あなた方も準備なさい」


 フルはやれやれ、といった表情で眼鏡を外すと、空いた手で目頭を押さえている。

 女性二人にタジタジになっているフルをもっと見ていたかったが、初めての惑星にも興味がある。三人は目くばせをして頷く。


「それじゃ、行ってくるね」


 椅子から立ち上がったダダコの言葉で、二人も腰を上げる。


「派手な騒ぎは起こさないように! 何かあったらすぐに連絡するんですよ!」


 保護者のようなフルの声を背中に受けて、三人は船外へ飛び出した。


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