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『ぬいぐるみ?』
青星まであとわずか、というところでコラダがネズミ姿のフルに話しかける。正体を明かしたものの、バディ達は余程のことがない限り人型にはならないらしい。
『どうしたのですか、コラダ。意外な趣味があるのですね』
「違うよ、僕じゃないんだ。ダダコがね、お気に入りのぬいぐるみを寮に忘れて来ちゃったんだって。それが無いとうまく寝られないらしいんだ」
『ふむ。ダダコが……。たしかに何となく怒りやすいというか、集中力に欠ける部分がありましたが……。寝不足からくるものでしたか』
そう言うと、一度モニターに向き直り、何やらカツカツと操作し始めた。
『そういうことなら仕方がありません。それに、あなた達もせっかくですから少しだけ観光をしてきたらいかがでしょう。もっとも、さっさと終わらせてしまいたい、と言うのでしたら無理にとは言いませんが』
「いいの?」
『ただし、どこでも良いわけではありません。治安が良いところのみです。たとえば……このピーコック地区ですかね』
「うん、僕はどこでもいいんだ。ダダコの目当ての物が見つかるところなら」
『ピーコック地区は都会ですから、あなたの好きな大きな書店もあるはずですよ』
フルはコラダを見つめ、首を傾げて小さな鼻を小刻みに動かしている。もしかしたら、コレはフルなりに微笑んでいるつもりなのかもしれない。
「ありがとう、フル。僕も楽しみだよ」
『明日の昼には到着するでしょうから、夜までに簡単な地図をプリントアウトしておきます。三人でしっかり計画を立てて楽しんできてください』
そう言うと、フルはくるりと背中を向けて前足でモニターをカツカツと引っ掻いた。
「皆喜ぶよ。ありがとうね」
コラダはその小さな背中を指先でくすぐるようにして撫でるとキッチンへ向かった。今日は自分が料理担当だ。せっかくだからついでにクッキーでも焼くとしよう。
分量や手順をしっかり把握していれば、クッキーなど大して時間もかからずに作ることが出来る。焼き上がったクッキーを皿の上にあげて少し冷まし、フルの分は食べやすいようにと小さく割った。
カツカツとモニターを叩きながら作業をしているフルの後ろにそっと小さく割ったクッキーを置くと、ふんふんと鼻をひくつかせながらくるりと振り向く。コラダの姿を見つけるより先にクッキーを発見したようで、小さな前足で欠片をつかむと、カリカリと音を立ててかじりだす。
「……やっぱり甘い物好きなんだね」
テーブルの下に身を潜めていたコラダがゆっくりと顔を出すと、フルはぴくりと身体を震わせたが、食べるのを止めなかった。
『……頭脳活動には糖分が必要不可欠なんです』
「フルは毎日頭使ってるもんね。たくさん食べて」
『ありがとう、コラダ』
「人間にはならないの? フル達が人間になるなら、ご飯たくさん作るけど」
『気持ちはありがたいのですが、我々がこの姿でいるのは、食料の節約というのもあるのです。小型の動物ですと、食べる量も少なくて済みますから』
「そんなぁ……」
『ですが、惑星に着けば、人間の姿で食事をとったりもします。ご心配なく』
「ならいいけど……。僕、フルがにこにこしながら甘い物食べてるところが見たいよ」
フルは顔を背け、手に付いたクッキーのカスを舌で舐めとる。
『お見せしてもいいですが、笑っているかと言われると、いささか自信がありませんね』
「いいよ、それでもさ。僕、フル達の人間っぽいところが見たい。フル達は任務だから一緒にいてくれるのかもしれないけどさ。僕はフル達が大好きだから」
『あなたという人は……』
「さて、ご飯作らなくちゃ! お仕事頑張ってね、フル」
コラダは大きく伸びをすると、再びキッチンへ戻った。フルはその姿を見送ってから残っていたクッキーの欠片に前足を伸ばした。
「ねぇ、どこに行こうか」
夜のミーティングが終わった後でメインテーブルに地図を広げ、コラダは身を乗り出した。
「まさかあっさり許可が下りるとはなぁ……」
そう言いながらも、フッカの目は地図に釘づけだ。
「ダダコ、ここは大きい雑貨屋さんが集中してるマーケットがあるんだって。それに、ここには大きな本屋さんがあるんだ。僕、ここに行ってもいいかな」
コラダは地図の中の【アクア・マーケット】を指差す。フッカはコラダが自分から「ここに行きたい」と言ったのを意外な目で見つめた。
「いいんじゃねぇ? 俺は美味いもんが食えればそれでいいや。ダダコのぬいぐるみ探しに付き合うからさ、コラダはゆっくり本屋見て来いよ。マーケット内なら自由行動してもいいだろ?」
「いいの?」
コラダは青い瞳をキラキラと輝かせている。
「そうだよ、コラダ。たまにはコラダの好きなようにのんびりしてきなよ」
ダダコがにこりと笑うと、コラダは満面の笑みで大きく頷いた。




