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ミーティングが終わり、バディ達が引き上げた後も何となくダダコ達はメインルームに残っていた。
「そう言えば、いま思い出した。僕、医務室でグニウに会ってる」
コーヒーカップに両手を添え、コラダがぽつりと話し始める。
「いたか? 俺の記憶だと、もうちょっと年とったじいちゃんだったと思うけどなぁ……」
フッカは首を傾げながらカップに口を付けた。
「あのね、毎日いたわけじゃないんだよ。僕、よく怪我してたから、ちょいちょい医務室に行ってたんだけど、その時に何回か見たことがあるってだけ」
「言われてみると……」
ダダコがハッとした表情で二人を見つめた。
「あたし、校長室から青い髪の女の人が出てくるの見たことあるよ。もしかして、それって……」
「たぶん、ハナだよ。ハナ、校長先生の秘書だったって言ってたし」
「てことは、フルもどこかで会ってたのか……?」
「そういうことになるよねぇ……」
バディ達はおそらくこの旅が始まるまで、寄宿学校の一職員として働いていたのだろう。しかし、教官や事務員、それに食堂の調理担当など、毎日のように触れ合う機会のある職ではなかったようだ。グニウは医務室の非常勤、ハナは校長の秘書。では、フルは一体何をしていたのだろうか。
「ねぇ、フルが自分達のこと話してくれたでしょ。だから、僕もさ、二人に内緒にしてたこと話そうかと思うんだ」
コラダは俯き加減でそう切り出す。フッカにはその内容がわかる。大丈夫か、コラダ……。
「コラダ、内緒って何のこと?」
ダダコは心配そうにコラダの顔を覗き込んだ。コラダはその視線に気付いてゆっくりと顔を上げ、にこりと笑った。
「あのね、僕、親に売られたんだって」
そう話すコラダの表情はいつもと変わらず温和な笑みを湛えている。
無理すんなよ、コラダ。
さっきみたいに泣けばいいじゃねぇか。何でだよ。
「売られた……?」
ダダコは青い顔をして絶句している。まるでこちらの方が当事者のようだ。
「うん。何となくおかしいとは思ってたんだけどね。ハナに聞いたら、どうやらそうみたい」
そう言うと、コラダは目を伏せて寂しげに笑った。
堪えきれず、フッカはテーブルを叩いて立ち上がる。
「フッカ……?」
「何でそんな笑ってられるんだよ、コラダ! 泣きゃいいだろ、さっきみてぇに! お前が無理して笑ったって俺はぜんぜん嬉しくなんかねぇぞ!」
「でも……」
コラダは驚いた表情でフッカを見つめる。
「でも、何だよ。言えよ! 自分の考えを全部言えよ! 喜怒哀楽も全部出せよ! 何遠慮してんだよ! お前がわがまま言ったって何だって、俺は嫌いになったりいなくなったりなんかしねぇぞ!」
畳み掛けるようにそう言うと、勢いよく椅子に座り、憮然とした表情で足を組んだ。
「ありがとう、フッカ……。僕も努力するよ……」
「ああ?」
「さっき、フルが言ってた。笑うのは苦手だけど、努力するって。だから僕も、ちゃんと自分を出せるように努力する」
「……言ったな」
「え?」
「男が一度口に出したら、もう撤回なんて出来ねぇんだからな」
口角をニィっと上げてコラダを見つめると、一瞬驚いたような顔をしたが、やがて同じようにニィっと笑った。
「えーっと、一件落着ってことでいいの?」
ダダコがおずおずと口を挟む。さすがの彼女も男同士のやり取りには割って入れなかったらしい。
「いいんじゃねぇの? ダダコはどうだ? 何かあるならいまだぞ」
「そうだよ、ダダコ。この旅が始まってからなんか元気ないよ」
いきなり矛先が自分に向けられ、ダダコはぴくりと肩を震わせた。「え?」
「いい機会じゃねぇか。腹割って話そうぜ」
真剣な表情でフッカが身を乗り出してくる。
「べっ……別に何もないもん」
心の底を見透かすようなフッカの視線から目を逸らし、ダダコは口を尖らせた。
「その顔……。隠し事をしている時の顔だよね?」
コラダは目をぱちぱちさせながら顔を近づけて来る。
「うう……」
「言っちゃえって。楽になるぞ」
頬杖をつき、ため息交じりで言うと、ダダコは顔を背けたまま観念したように話し始めた。
「……忘れ物しちゃったの」
「はぁ?」
「だから! 忘れ物してきちゃったの!」
勢いよく二人の方を向き、ダダコは声を上げた。
「どこに?」「何を?」
二人はきょとんとした顔で質問を浴びせる。
「寮に……、その……、ぬ……」
「ぬ?」
コラダは首を傾げて次の言葉を促す。
「ぬいぐるみ……」
「ぬい……ぐるみ……?」
フッカがぷっと吹き出す。
「お前、十六にもなってぬいぐるみって、おい……」
そう言うと、肩を震わせた。
「フッカ、笑ったら悪いよ。ダダコにとっては大事なものなんだよ」
それをコラダがたしなめる。
「あれがないと眠れないの!」
「寝れないって……。毎日しっかり寝てるじゃねぇか」
「寝つきの良さが違うの!」
「ねぇ、青星で似たようなやつ売ってないかな。それじゃ、ダメ?」
「抱き心地とか……似てれば……」
「何だよ! 抱いて寝てんのか!」
「うるさいわね!」
「まぁまぁ、二人ともケンカしないで。青星に着いたら、フルに聞いてみようよ。ダダコがそれでぐっすり眠れるんだったら、必要なものだし。ね?」
そう言ってにこりと笑うと、ダダコは握りしめていた拳を下ろし、フッカも嘲笑をぴたりと止めた。結局、この笑顔には逆らえない。コラダがにこりと笑うと何だか争っていたのがばかばかしくなってしまうのだった。




