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毅然と言い放ったグニウに三人の視線が集まる。
「惑星外……逃亡……?」
「ねぇ、いんぞくって何?」
「えっ? 姻族って言うのは……、結婚して親戚になることだよ」
ダダコにとっては惑星外逃亡のインパクトよりも言葉の意味が分からない方が問題だったようで、彼女は隣に座るコラダに問いかけた。
フルはダダコのその様子に対してなのか、はたまたグニウの発言に対してなのか、大きくため息をついてから、話し始めた。
「コラダの言う通り、姻族というのは結婚によって親戚関係になることを指します。我々の親戚の中に、血の繋がりこそありませんが、先代のチルドレンがいるのです。その年は、チルドレンの数が多く、二十人はいたと聞いております。その中の三名、ナンバー02、08、11が共謀して他の惑星に逃亡しました。我々の一族は、代々政府の飼い犬を務めることで世間の非難から辛うじて守られているのです」
「だから、表舞台に出ることは許されていないのよ」
「飼い犬って……」
「職業の選択も、結婚の自由もありません。良きタイミングで、ただ次の飼い犬を確保するために伴侶を与えられるのです。まぁもっとも、我々がチルドレンになってしまったので、今後はこのような職に就ける者は産まれませんが」
「そんな……」
「まぁ、一生食いっぱぐれないわけだから、いい身分よ」
グニウはけらけらと笑う。ハナはそれを見て苦笑した。
「政府は俺らを心配するより、フル達を心配した方がいいんじゃないのか? 逃亡出来るだけの力も、理由もあるだろ」
「我々は、裏切者の一族なのです。これ以上一族の名を汚すわけには参りません」
そう言いながらも、フルは何だか苦しそうな顔をした。
「一族を守るため、我々は政府に忠誠を誓ったのです」
フルは一層悲痛な表情を見せる。心の底では、悔しくてたまらないのだろう。ただ、それが何に対してなのかはわからない。一族を裏切った先代のチルドレンに対してなのか、それとも、そんな一族に産まれてしまった自分自身に対してなのか……。
「ねぇ、それでもさ、楽しいこととかはあってもいいんだよね?」
たまりかねた様子でコラダが身を乗り出す。
「楽しいこと?」
「ねぇ、フル、楽しい時は笑ってよ。いままではネズミだったから仕方ないけどさ。これからもネズミになったっていいけど、人間の時はさ、笑う時は笑ってよ。楽しい思いしても、罰は当たらないでしょ? この船ではさ、楽しく過ごそうよ!」
コラダは目に涙を浮かべて必死に訴えている。
「ハナも、グニウも! 僕ら、緑星のために頑張るって決めたんだ。太陽を作るって。だからさ、僕らを信じてよ! いつか裏切るかもなんて、思っててもいいけど、僕らは絶対にフル達を裏切ったりしない! だから! だからさぁ……」
コラダは泣きながら、懇願するように三人を見つめた。ほろりほろりと涙が零れる。
コラダが泣いてるところなんて、初めて見た……。ダダコもフッカもそう思った。
「僕、もう嫌だ。僕の前から大事な人がいなくなるのは……」
聞き取れないほどの小さな声でそう言って、これ以上涙が零れないように腕を瞼に押し当てている。
「信じて……。笑ってよ、フル……」
下唇を噛んだまま、泣くのを必死にこらえているコラダを見て、ハナとグニウは目を合わせ苦笑した。
そして、同時にフルを見つめる。
その目は、笑いなさい、と言っている。
ハナの目は、私は出来るわよ、とでも言いたげだ。
グニウに至っては、「早くしなさい、この仏頂面」と視線だけではなく、台詞つきだった。
女性二人に背中を押され、フルはやれやれ、といった表情で頭を掻いた。「好きでこの顔になったわけではないのですが……」と、ぽつりとつぶやいた。
「コラダ、顔を上げて。笑うのは苦手ですが、努力はします。楽しいと思うことだって、人並みにはありますから」
少しだけいつもより柔らかな声でコラダに話しかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。
「本当? フル……」
「本当です。あなた達と過ごしているこの船内でも楽しいことはたくさんあります。ただ、表現することが苦手なだけです。それに、やみくもに疑うわけではありません」
「そうよ。フルはちょっと真面目すぎるだけなのよ」
「でも、アタシ、知ってるわよ。フル、コラダの焼いたクッキー食べてる時、すっごく嬉しそうよね」
グニウはニヤニヤと笑いながら首を傾げている。
「な……っ、何を言うんですか!」
フルは明らかに動揺している。フルがこんなに慌てているのはネズミの時でもそうそう見られるものではない。
「ま、ネズミの姿だったからバレてないとでも思ったんでしょうけど? 長い付き合いですもの、お見通しなのよねぇ」
そう言ってグニウは得意気に笑う。
「本当? ねぇ、フル、本当?」
さっきまで真っ赤な顔でぽろぽろと涙を流していたくせに、コラダはすっかり笑顔になっている。フルは気まずそうにゴホン、と咳払いをすると、ほんの少し顔を赤らめた。
そして、顔を背け、小さくため息をつくと、「……甘い物が好きなのは、否定しません」と言った。




