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「ちょ、ちょっと待てよ。チルドレンって……」
『まぁ、厳密にはもうチルドレンって年ではありませんがね。我々はいつか産まれるであろうチルドレンのバディとなるために、わざわざ母体ごと黒星まで運ばれ、強制的に作り出されたのです』
「強制的に……。じゃ、フルの母ちゃんは普通のネズミなのか? 日の光を浴びたから、フル達はしゃべれるようになったのか?」
フッカはそう言いながらも、まだこの状況をうまく整理することが出来ない。
何だ、何なんだ。
さっきまでコラダの話をしていたはずなのに、何でこんなことになっているんだろう。
『違います。我々の母親は人間ですよ。我々も人間です。ただ、この姿でいるだけです』
「え……っ?」
『それぞれ、地上、水中、空中を自在に動き回れるようにという役割があるのです。小型の生物の方が、潜入も容易いですから。信じられないのでしたら、人型に戻りますが……。おや、もうこんな時間ではありませんか。今日の食事当番はフッカでしたね。よろしくお願いしますよ』
そう言うと、くるりとモニターの方を向き、作業を再開した。その言葉でフッカも自分の仕事を思い出し、腰を上げる。
「フル、晩飯食い終わったら、皆の前で本当の姿見せてくれよ。他の二人がどう思ってるかはわかんねぇけど、俺は政府を裏切る気はねぇし、これからも長い付き合いになるんだから、隠し事は無しにしようぜ」
フルの小さな背中に向けてそう言うと、フルは首だけをフッカの方へ向け、『わかりました』と言った。
その日の夕食は、カレーだった。ダダコほどではないが、フッカも料理が得意なわけではない。これはフッカが唯一、胸を張って作れる料理である。
「フッカ、美味しいよ」
コラダはいつものようににこにこしながら、それを口に運ぶ。
「ほんと、カレーは上手よね」
ダダコはそれが悔しいのか、わざと『は』を強調して言う。
はいはい、と適当に返事をしつつも、フッカの心中はそれどころではない。
「どうしたの、フッカ?」
コラダは心ここにあらず、といった様子のフッカを心配そうに見つめる。
なんでお前は、そうなんだ。俺のこと心配してる場合じゃねぇだろう。
「何でもねぇよ。まだ疲れが取れてないだけだ。誰かさんが重たかったからな」
さっきのお返しだとばかりに厭味ったらしくダダコを睨みながら言うと、年頃の女子に体重の話題はご法度だったらしく、顔を真っ赤にして肩を震わせている。
「何ですってぇ……?」
左耳の後ろで一つに結んだ琥珀色の髪がゆらゆらと揺れている。これは相当怒っている。
「フッカ、まずいよ。ダダコ、めっちゃ怒ってるよ」
「見りゃわかるよ、それくらい。ごめん、悪かったって!」
「本当……?」
「本当、本当だよ! ごめん! この通り!」
顔の前で両手を合わせ大袈裟に謝罪のポーズをすると、ダダコは納得したようだった。
「ならいいけど……」
それでも憮然とした表情でカレーの続きを食べ始めた。
『さて、明日からの予定ですが……』
夕食後はいつも通り、夜のミーティングだ。テーブルの上にはバディ達が一列に並んでいる。
『次の我々の目的は青星です。ここで何をするのかについてはまた追ってお話しします』
「また『追って』なのぉ~? フルのケチぃ~」
不満たっぷりにダダコがフルに詰め寄る。
『こちらにも段取りというものがあります。もしかしたら急遽進路を変えざるを得ない状況になるかもしれませんし』
ダダコはなおもケチ! とふてくされていたが、フルは意に介していない様子だった。
「青星かぁ~。楽しみだなぁ。ねぇ、フル、やっぱりそこでも見た目を変えなくちゃダメなの?」
コラダはキラキラと青い目を輝かせている。そうだ、コイツは半分青星の血が流れているのだ。
『いえ、どうやらその必要はなさそうです。最近、青星は惑星間交流に力を入れているようで、他惑星からの観光客が多いようですので』
「そうなんだ。良かったぁ」
コラダはウェーブのかかった白髪をくしゃくしゃと梳いた。
「で? ここから何週間かかるの?」
何日、と言わなかったところにダダコの学習ぶりが伺える。
『ご安心ください。今回は近いです。三日もあれば』
「三日……。そうね、近いわね……」
ため息交じりにつぶやく。
『さて、それからですね。無事赤星での任務を果たしたことですし、あなた方を一人前として見なします。そこで、我々もあなた方に敬意を払って、正体を明かすことにいたしました』
「正体?」
「どういうこと、ハナ?」
コラダは自分のバディであるハナに問いかけるが、彼女は首を傾げて黙ったままだ。
『先ほど、フッカには少し話したのですが、我々はあなた方が産まれる前に政府によって強制的に作り出されたサン・チルドレンです。まぁ、チルドレンと言っても、年齢は三十を超えておりますが……。ここには女性もおりますので、これ以上は伏せさせていただきます』
「ちょっと待って、フル達もチルドレンなの……? だって、あなた、ネズミじゃ……」
ダダコはテーブルに手をついて立ち上がり、フルの顔を覗き込むようにしている。
やっぱり疑問に思うのはそこだよな。フッカは一度聞いているので、冷静だ。
『ネズミではありません、人間です。同様に、ハナもグニウも人間です。いまからその姿をお見せしましょう』
そう言うと、バディ達はそれぞれの方法で床に降りた。




