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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第8章 もう一組のチルドレン
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1

「ダダコ担いで走ったから、さすがに俺も疲れたわ」


 そう言って自分の部屋に籠ったフッカは、ベッドの上にごろりと寝そべっている。

 たしかに疲れてはいるのだが、それよりも一人になりたかったのだ。

 警備員に見つかった時、一瞬でも弱気になってしまったことがどうしても許せない。

 あの時はたまたま相手がガチガチのど素人だったから、ハッタリで切り抜けられた。しかし、もし、熟練の軍人だったら……。そう思うと、背筋が寒くなる。チルドレンであることに胡坐をかき過ぎていると思った。


 たしかに自分達の力を充分に発揮することが出来れば、生身の人間なんて怖くない。たとえ、相手が武器を持っていたとしても、対処出来る自信はある。

 しかし、もしも、今回と似たような状況だったら? 

 ダダコやコラダが負傷していたとして、そいつをかばいながら戦えるのか、俺は。

 それに、もしも、不意打ちされたらどうする。

 俺はダダコみたいな野生の嗅覚というか、第六感が働く方じゃない。


 頭で考えたってうまい方法なんて思いつかない。

 やっぱり場数踏むしかないのかなぁ。そう思いながら寝返りをうつ。

 いや、でも、そんなのんきなことも言ってられないだろ。どうしたらいいんだ。


 しばらくの間、うだうだと転がっていたが、いてもたってもいられず、何か飲んで気分をすっきりさせようとベッドから起き上がる。ドアを開けるとメインテーブルでコラダとハナが話しているのが見えた。コラダは何やら神妙な面持ちである。

 さすがに入って行けないよな。そう思ってドアを閉めようとした瞬間、彼の耳に飛び込んできたのは『近寄らないで、悪魔の子』というハナの言葉だった。一体何の話なのか、細かいところまではわからなかったが、その言葉だけはやけにはっきりと聞こえた。

 まずいだろ、その言葉は! 拳を握りしめ、最悪の事態に備えていたが、コラダは俯いて黙ったままだった。怒りを溜めているのだろうかとなおも警戒して様子を伺うも、コラダは激昂して我を忘れることなどなく、穏やかにハナと話している。

 フッカは脱力してその場にしゃがみ込むと、音を立てないようにそぅっとドアを閉めた。


「一体何の話だったんだろう……」


 再びベッドの上に転がり、仰向けになる。

 十年も一緒にいるのに、コラダのことを何も知らない。コラダはいつもにこにこしていて、悩みなんてないような素振りをしていた。長期休暇が近づくと、今回こそは、と嬉しそうに実家へ手紙を書いていたが、素気無い断りの手紙が来ても、「忙しいんだって、仕方ないよね」と笑って「この休みの間に、フッカみたいに射撃がうまくなるように訓練するんだ」と言った。

 コラダが手紙を書かなくなったのは、いつからだっただろう。気付いたら、自分も休みの予定は聞かなくなっていた。コラダが家族と何かあったのは薄々気づいていたのに、あの笑顔に安心して、甘えて、踏み込もうとしなかった。十三になって、コラダが実験室を破壊してからは、さらにほんの少し、恐怖を抱いて距離を置いてしまっている。


 身体は疲れているのに、脳が覚醒しきってしまい、眠れそうになかった。


 どうせ次の星まで長いんだろ。


 またごろごろと転がってみるが、どうしてもさっきの話が気になって仕方がない。これからも長い付き合いなんだし、突っ込んで聞いてみようか。


「よし」


 何となく口に出して気合を入れ、ベッドを下りる。意を決して勢いよくドアを開ける。


「あれ?」


 しかし、そこにコラダの姿はなく、ハナもいなかった。代わりにメインテーブルを陣取っているのはフルである。


『誰かお探しですか』


 茫然とドアの前で突っ立っているフッカの姿を見つけて、フルは声をかけてきた。


「え? ああ、まぁ、誰かっていうか……。コラダなんだけど……。さっきまでここに居たと思ったんだけどな……」


 あれだけ気合を入れたというのに、拍子抜けしたフッカはぽりぽりと頭を掻きながらテーブルの方へ歩いた。


『コラダでしたら、いましがた部屋で休むと言って出て行きましたが』

「なぁんだ、そうだったのか」


 気の抜けた声を出して、キッチンへと向かう。熱いコーヒーが飲みたいと思った。


「フルも何か飲むか?」


 モニターとにらめっこしているフルに声をかけると、『助かります。では、ミルクを』と振り向く。


「了解」


 そうつぶやいて、フル用の小さいカップにミルクを注いで、自分のコーヒーと共にテーブルへと運ぶ。


『ありがとう』


 フルは作業を中断し、小さな前足でカップをつかみ、ごくごくと飲んだ。


『コラダに何か用でも?』


 カップをテーブルにコン、と置き、フッカを見つめる。


「んー、ちょっと聞きたいことがあってさ」

『聞きたいこと、ですか』

「フルが知ってるなら、フルに聞いてもいいんだけど……」

『何でしょう』

「さっきさ、コラダとハナが話してたの見かけたんだ。何かすげぇ真面目な話っぽくって入って行けなくてさ。で、立ち聞きすんのもアレだし、部屋に戻ろうとしたら、聞こえたんだよな」

『……聞こえた。何が?』


 コラダとハナの話の内容は、端末から聞こえていた。フッカが何を聞いたかはわからないが、だいたいの予想はつく。



「ハナがコラダに向かって『近寄らないで、悪魔の子』って言ったんだ。これ、コラダが暴走した時もこんな感じの言葉だったろ? だから、俺、危ないんじゃねぇかってしばらく見張ってたんだ。結局、何もなかったけど」

『ああ……』

「俺さ、もう十年もアイツと一緒にいて、これからも一緒にやってくのに、そういうのぜんぜん知らないしさ。だから、知りたいと思ったんだよ……」

『知って、どうします?』

「どうって……。特別に何かしようっていうんじゃねぇよ。でもさ、知らないより知ってる方が、もっと深く付き合っていけると思ったんだよ。コラダはいつも笑ってるけど、そのうちの何割かは無理してんじゃねぇかって思うんだ」


 時折カップに口を付けながら、ぽつりぽつりと話す姿を見て、十六歳などまだまだ子供だと思っていたが、とフルは思った。


『話しても構いませんが、あなたには到底理解も共感もできないことだと思います。それでも聞きたいですか』

「それでも……聞きたい。別に理解とか共感だとか、そんなおこがましいこと考えてねぇよ。俺ら、別々の人間なんだから」

『よろしい。では……』


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