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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第7章 笑顔の仮面
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「パパ、ママ!」


 まるで顔を隠すように俯き加減で廊下を歩いていると、明るい男の子の声が聞こえてくる。何だろうとモトナが顔を上げると、旦那と同じ白髪の少年が、自分と同じ青い目をキラキラと輝かせて走ってくる。


 ああ、コラダ……。あなたは随分大きくなったのね。


 モトナは目頭が熱くなったが、自分にはこの子を抱きしめる資格なんてない。

 コラダは息を弾ませてモトナとヴォルタの前に立った。さすがにコラダの方から来たのだ。優しい言葉でもかけて、強く抱きしめるなりして、もしかしたらさっきの話も撤回すると言ってくれるかもしれない。ゲイルはほんの少しそれに期待した。

 政府側としては、チルドレンが完全に手中に収まるというのは大変都合のよいことである。しかし、ゲイルはそこまで非情にはなれない。子供に親は不可欠な存在だ。たとえそれが滅多に会えないものだとしても。無条件に自分を愛してくれる大きな存在。幼い彼らにとって、それは大きな支えになる。

 モトナはコラダの前でしゃがみこみ、にこりと笑って顔を覗き込んだ。その様子を見てゲイルは安堵する。


「ごめんなさいね。あなたはもうパパとママの子じゃないのよ」


 それだけ言うと呆然としているコラダを置いてすたすたと歩きだしてしまった。ヴォルタは顔を背けてそれに続いている。

 コラダは母親の発した言葉の意味がわからず数秒立ち尽くしていたが、ハッと我に返り、慌ててその後を追った。


「ママ、どうして? 僕はパパとママの子供じゃないの?」


 駆け寄って、モトナの腕をつかむ。彼女はその小さな手を容赦なく振りほどく。


「近寄らないで! 悪魔の子!」


 モトナは叫ぶように吐き捨て、走り出した。ヴォルタは名残惜しそうに一度コラダを見たが、すぐに妻の元へ走ってしまった。

 その場に残されたのはゲイルとコラダだけだった。コラダは目を見開いたまま、ぴくりとも動かなかった。一部始終を見ていた事務員が駆け寄る。ゲイルは端末でどこかに連絡をしている。

 程なくして職員が集まり、抜け殻のようなコラダを医務室へ運んでいった。



『――以上よ』


 ハナはそう言うと、コラダの表情を伺った。もしかしたら途中でスイッチが入るかもしれないと思い、首輪に取り付けられている端末はONにしてあった。何かあればすぐにフルが駆けつけてきてくれるはずだ。

 しかし、意外にもコラダは冷静だった。もしかしたら『第一段階』かもしれないと身構えたが、どうやらそうでもないらしい。


「やっぱり僕が売られたっていうのは、本当だったんだね」


 コラダは寂しげに笑った。


『無理に笑わなくてもいいのよ、コラダ』

「無理してるわけじゃないよ。ちょっとすっきりしたんだ」

『すっきり?』

「うん。僕、覚えてないところがあったから。でも、医務室に行ってから、訓練場に戻るまではやっぱりわからないんだね」

『ごめんなさいね。私はその頃、校長の秘書だったから、あなたについて行くことは出来なかったの。でも、相当ショックを受けてたってグニウが言ってた』

「グニウが?」

『グニウは医務室勤務だったから』

「あれ、そうだっけ? 医務室にいたかなぁ……」


 あのおじいちゃんの先生がペットとしてでも飼っていたのだろうか。でも、グニウを『飼う』ってどうなんだろう、とコラダは首を傾げている。


『コラダ、辛い時は辛いって言って。もっと我儘になったっていいのよ。何でも大丈夫って無理しないでね』

「ありがとう、ハナ。でも僕は本当に大丈夫だよ。悲観したって僕が親に売られた事実は変わらない。だけど、たまにはハナには弱いところ、見せてもいいかな」

『もちろんよ。あなたも少し休みなさいな。夕飯の頃には皆まとめて起こすから』

「そうしようかな。今日の当番は……フッカかな。ハナ、悪いんだけど、フッカは早めに起こしてあげて」

『そうね。じゃ、フッカは少し早めに声をかけるようにするわ。おやすみなさい、コラダ』


 優しい声に後押しされ、コラダは自室へと向かった。



 やっぱり僕は、親に売られた悪魔の子だったんだな。



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