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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第7章 笑顔の仮面
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3

「それで、お話というのは……?」


 校長のゲイルはゆったりとした革張りのソファに腰掛け、向かいに座るホワイトレイク夫妻に切り出した。


「……コラダは頑張っておりますでしょうか」


 妻のモトナはにこりと笑って言った。

 何だ、そんなことかとゲイルは安堵しながらも、それなら電話でも良かったのではないかとも思った。


「ええ、ご子息は三人の中でも最も勤勉な生徒です。能力に関しては、もちろん01に劣りますが、彼は特に座学が優秀で……」

「そうですか……」


 自分から聞いておいて、モトナはゲイルの言葉を遮る。


「では、五年後には他の惑星へ……?」

「え? ええ、それはもちろんです。様々な任務がありますから、戻るまでに時間もかかりますが……」

「その間の給与はどうなります? それから、もし、万が一、事故でも起きたら、その場合はどうなりますか?」


 先ほどから質問してくるのは妻の方だけである。夫は難しい顔をして口を固く結び、一言も発していない。


「もちろん、給与についてはお支払い致します。特別任務ですし、その頃には十六ですから、いまよりも額は格段に……」

「もし、もしも、事故とか、その……、もし、もしもですけど、コラダの身に何かあったら……、その場合は……、どうなりますか……?」

「どうなる、というのは……?」

「その……、給与、というか……。弔慰金というか……」


 何を言っているんだ、この母親は。


「ええと、その……。縁起でもない話ですが、まぁ、その場合はですね……。仮に、事故や事件等に巻き込まれて消息不明という事態に陥った場合は、安否がわかるまでは存命しているとみて給与をお支払い致します。もちろん、未成年の間はご両親に。成人した時点で、彼ら専用の口座へ変更となりますが」


 ゲイルはそう話しながらも、サン・チルドレンに限ってそんなことが起こるわけがないと思っている。

 モトナは真剣な表情で頷きながらゲイルの言葉に耳を傾けていた。


「そして、もし、最悪のことが起こった場合ですが、もちろん、弔慰金はお支払い致します。いまここでおいくら、というのはお話し出来ませんが、女性の平均寿命である七十歳まで存命したと仮定して、それまで支払われる予定だった給与をまとめてお渡しする形となります」


 弔慰金の金額はわからないものの、貰える、ということにモトナは安心したらしい。

 ソファに深く座り直し、隣に座るヴォルタの腕を軽く叩いた。

 ヴォルタは眉間のしわを一層深く刻み、膝に肘をついて身体を前に倒した。


「……校長先生、そのこれから支払われる成人までの給与を先にまとめていただくわけにはまいりませんでしょうか」


 やっと口を開いたヴォルタは悲痛な表情をしている。


「それは……なぜでしょうか……」

「理由は……ちょっと……。どうなんですか、出来ますか」

「出来ないことはありませんが……。その場合、言い方は悪いのですが、ご子息を政府が買い取るという手続きになりまして、今後一切の接触はおろか、親子の縁も切っていただくことになりますが……」


 自分で話しておきながら、何とも胸糞の悪い話だと思う。しかし、過去にもこういった例はあったようで、その度にこのように伝えてきたらしい。それはさすがに、と撤回する親もいれば、構いませんと言って、大金を手にしていく親もいる。さて、この両親はどんな決断を下すのだろうか……。


「構いません。コラダを、政府に売ります」


 目の前に座る美しい白髪の男性はゲイルをまっすぐ見据え、きっぱりと言った。

 コラダが入学してから一度も帰省していないのは、ゲイルも知っていた。しかし、家庭には様々な事情があるのだから、踏み込むべきではないと思っている。一体この家庭にはどのような事情があるというのだろう。子供を売らざるを得ないような、そんな余程の事情があるというのだろうか……。


「わかりました……。では、手続きはここではありません。後日、ご自宅の方へ必要書類をお送り致します。詳細はそれに記載されておりますので……」


 ゲイルはそれだけ言うのがやっとだった。瞼を閉じると、コラダより二つほど幼い自分の孫の顔が浮かんでくる。自分の息子は大金と引き換えに、我が子を売ったりするだろうかなどと考えてしまい、慌てて首を振った。

 ホワイトレイク夫妻はありがとうございます、と言うと、もう用はないらしくそそくさと立ち上がった。


「せっかくだから、ご子息に会って行かれませんか」


 自分も腰を浮かせ、母親の方に声をかける。おそらく、コラダを我が子として接することが出来るのは今日が最後になるだろう。


「いえ、結構です」


 モトナは少し困ったような、複雑な表情を浮かべて首を振った。


「しかし……」


 この機会を逃したら、あんた達はもうあの子と会えないんだぞ? 声をかけることも、抱きしめることも出来ないというのに……。


「いいんです、本当に……」


 モトナはなおも首を振り、ヴォルタの腕を引っ張った。ゲイルにはそれがまるで、一刻も早くこの場から立ち去りたい、という合図のように見えた。


「では、玄関までお送りします……」


 力なくそういうと、先頭に立って校長室を出た。


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