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ホワイトレイク夫妻が寄宿学校にやって来たのは、いまから五年程前の冬季の長期休暇のことである。コラダは相変わらず一人で自主訓練を行っていた。もうその頃になると、ただ一人残るコラダを奇異な目で見つめる職員はいなかった。この星の未来を担う大事なチルドレンのため、教官達は休みをローテーションにし、コラダが寂しくないようにと交代制で訓練に付き合った。それは強制ではなかったが、誰一人不満を漏らす者はいなかった。それほどコラダは皆に好かれる子供だったのだ。
「ねぇ、コラダ。玄関であなたのご両親を見かけたわよ」
若い講師見習いの女性が、顔を上気させてコラダに駆け寄って来た。この女性の言葉で訓練場にいた職員たちがコラダの周りに集まる。胴上げでもせんばかりの熱気で、口々に良かったね、良かったね、という声をかけた。コラダの背後でゴホンという咳払いが聞こえ、慌てて振り向くと、いつも厳しい女性教官が能面のような表情で自分を見下ろしている。
「コラダ・ホワイトレイク、いまから休憩を言い渡す。充分に身体を休めたら戻るように。復唱!」
女性教官はその能面のような表情のままコラダに言った。時間を定めない休憩なんて初めてだ。その時は何でだろうと思っていたが、いまならそれがこの教官の優しさだったことがよくわかる。寄宿学校の教官達は厳しい人も多かったが、皆、心の暖かい人ばかりだった。
「コラダ・ホワイトレイク、ただいまより休憩に入ります。充分に身体を休めたら戻ります!」
コラダは教官に敬礼をすると、くるりと回れ右をし、勢いよく廊下へ飛び出した。
会いに来てくれたんだ!
忙しいって言ってたけど、僕のために時間を作って来てくれたんだ!
優等生のコラダは、いつもなら廊下を走ったりだなんて絶対にしない。けれど、今日は違った。自分の出せる最高のスピードで廊下を走った。すれ違う職員達も今日は見て見ぬ振りだ。
だって、あのコラダの両親が会いに来てくれたのだから。
コーナーも減速せずに曲がる。少しだけ壁にぶつかったが、そんなことはどうでも良かった。
パパ、ママ、妹達も来てくれているのかな。
会ったら何を話そう。
僕ね、今日もたくさん褒められたんだ。
失敗することもたくさんあるけど、それでも頑張ってるよ。
息を切らせて玄関に向かったが、そこに両親の姿はなかった。
どこにいるのかな。別の道を通ったのかな。どうしよう。
きょろきょろと辺りを見回していると、受付の事務員が声をかけてくる。
「コラダ、ご両親ならさっき校長室に行ったわよ。何かお話があるみたいなの」
「そうなの……?」
僕に会いに来てくれたんじゃなかったのかな……?
落胆した様子で立ち尽くしているコラダに事務員は自分のデスクからキャンディを取り出すと、笑顔で手招きをする。
「コラダ、いらっしゃい。お話が終わるまでここにいなさいよ。ほら、キャンディ。教官には内緒よ」
コラダはキラキラと光るキャンディの包みに引き寄せられるように事務員の元へ歩いた。
「パパとママは僕に会いに来てくれたんじゃないのかな」
口の中でキャンディをもごもごと転がしながら、コラダは寂しそうな声を上げる。下手な大人よりも多い給料をもらい、星のためにと日々訓練に明け暮れているが、この子はまだ十一歳の子供なのだ。自分の親戚の子なんて、もう十三歳になろうかというのに、いつまでも母親にべったりなのに。事務員はそう思って、椅子に座ってしょんぼりと足をばたつかせる少年を不憫に思った。
「コラダ、もし、校長先生にご用があったんだとしても、帰りには必ずここを通るし、ご両親には必ず会えるわよ」
顔を覗き込みながら笑顔でそう言うと、コラダはぱぁっと明るい表情で「そうだね!」と言った。
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。その間、事務員はずっとコラダの話し相手をしてくれていた。
「あ、コラダ、見て」
その声で顔を上げると、校長に先導され、廊下を歩いてくる両親の姿が見えた。どうやら妹達は来ていないらしい。
「パパ、ママ!」
そう叫んだところでコラダの記憶は途切れている。
気付くと、訓練場にいて、能面のような教官の指導の下、一番苦手な射撃の訓練を受けていた。
両親のことも気にはなっていたが、訓練中はそんなことを考えている余裕なんてない。それに何となく、両親とはもう会えない気がしていた。




