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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第7章 笑顔の仮面
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 初任務を終えたメンバー達を乗せたGREEN MOLE号は赤星を後にした。

 窓から外を見ると、近くで見れば赤の中にも濃淡があったのだが、それも距離が離れるにつれ、そのわずかな違いも分からなくなり、真っ暗な宇宙へ飛び出せば、ただの赤い球にしか見えなくなってしまった。

 ダダコは小さくなった赤星をしばらく見つめていたが、やがて無数に散らばる星達の中に紛れてしまうと、メインテーブルに腰掛け、頬杖をついた。


「ダダコ、お疲れ様」


 コラダは笑みを浮かべてコーヒーを運んでくる。「次はどこに行くのかな」


 テーブルの上に置いたトレイからダダコの前にカップを置く。もう一つを自分の前に置き、席に着いた。


「どこに行くんだろ」


 そう言ってカップに口を付ける。初任務を無事完了したというのにダダコの表情は晴れない。Pブロックの鉱員達のことを考えているのだろう。コラダは少し考えてから、ねぇ、と話しかける。


「Pブロックの人達のことなんだけど……」


 その言葉にダダコの肩がぴくりと動いた。


「正しいことをしたのかな……」


 コラダが続きを言う前に、ダダコが口を開く。


「Pブロックがなくなれば、【大統領の心臓】なんて採れなくなっちゃえば、もしあの人達が助からなかったとしても、【魔物】に食べられる人はいなくなると思ったの……」


 しかし、所詮はその場所を爆破しただけなのだ。Cブロックの重機を使えば、時間はかかるだろうがいずれ元のように採掘は始まるだろう。それに、【魔物】に食べられたはずの鉱員達があのような状態で発見されたとなれば、大問題だ。鉱山のトップは責任を取らされるだろうし、次はもっと非道な方法で鉱員達を管理し始めるかもしれない。それくらいのことはダダコにもわかって欲しかったのだが、彼女はとにかく頭を使うことが苦手だ。


「Pブロックでの違法労働はフルが銀河警察に通報したから、きっと、大丈夫だよ」


 コラダにはこの言葉が精一杯だ。たとえ銀河警察の上層部が赤星政府に買収されていたとしても、自分達にはもうどうすることも出来ない。仕事で立ち寄っただけの惑星なのである。

 ダダコはそうだよね、と言って笑ったが、それでもまだ引っかかるのだろう。浮かない顔をしている。コラダは躊躇った後に精一杯の笑顔で話し始めた。


「それにね、Cブロックに運んだ時、おじさん達、少しだけど意識が回復したんだ。僕、ありがとうって言われたんだよ」


 そう言ってから、後悔する。ごめんね、ダダコ。そんなの嘘だよ。あの時、ダダコの意識がなくて本当に良かった。鉱員達は口から泡を吹いて苦しんでた。あの状態を耐えることが出来たらもしかしたら、彼らは助かるかもしれない。でも、それは難しいと思う。


「コラダ、本当?」


 ダダコの表情がぱぁっと明るくなる。この顔を見てしまったら、嘘だなんて言えるはずがない。


「本当だよ。きっとあの人達は良くなるよ。そしたら家族のところに帰れる」


 作り笑いは得意だ。ダダコが元気になってくれるなら、僕はいくらでも嘘をつくよ。


「それ聞いたらホッとした。ちょっと休んでこようかな、あたし」


 ダダコは残ってるコーヒーを一気に飲むと、コラダに向かってにっこりと笑った。


「そうしなよ。フッカもだけど、ダダコもだいぶ疲れたでしょ」

「フッカったら失礼よね。あたしを担いで疲れたとか言ってさ~」


 ダダコはフッカの部屋の方を見て腕を組み、憎々しそうにつぶやく。


「まぁ、人ひとり抱えて走るって結構大変だからね。でも、きっと僕だったら倍の時間かかってたと思うよ。それに、警備員に見つかっちゃったみたいだし」

「まぁ……、そうみたいだけど……」


 それでも納得がいかないのか、ダダコは口を尖らせている。


「まぁまぁ、とにかく少し休みなよ。ご飯の時間になったら起こすから」

「そうね。コーヒーありがとね、コラダ」


 ダダコが部屋に入ったのを見届けてから、テーブルに突っ伏して大きくため息をつく。目の前にあるコーヒーはとっくに冷たくなっている。


『どうしてあんな嘘ついたの?』


 ダダコが座っていた席から死角となっている位置にいたハナがパタパタと翼をはためかせてコラダの肩にとまる。


「だって……。ダダコが元気なかったからさ……」


 コラダは顔を伏せたままぽつりポツリと話す。


「……それに、あの人達とはもう会わないだろうから……」

『それはそうでしょうけど……』

「ねぇ、ハナ。あの人達ってどうなると思う? もし仮にあの状態から回復したとしたら」


 そう問いかけてはみたものの。コラダには何となくわかっている。推測とはいえ、そんなことを考えてしまう自分が嫌だった。だから、もしハナも同じ考えだったら、そう考えるのは自分だけじゃないと安心出来るんじゃないかと思った。


『あなたが想像しているのと同じよ』

「その答えはずるいよ、ハナ……」


 自分よりも賢しいハナがそんな思惑に気付かないわけがないのだ。コラダは顔を上げ、右肩にいる小鳥に苦笑する。


 もし。


 もし仮に、あの三人が奇跡的に回復したとする。


 Pブロックが採掘不可能な状態になっている現在、彼らの仕事はない。しかも、彼らの家族には魔物にやられたと告げてあるのだ。しかもそれが他の鉱員達に知られていないということは、弔慰金だとでも言って多額の口止め料でも支払っているのだろう。そんな状態の家族の元へ戻れるわけがない。子供は喜ぶかもしれないが、金を受け取ってしまった家族はどう思うだろうか。

 だからおそらく、今回のダダコの判断は正しくなかったのだ。鉱員達はいまごろ地獄の苦しみを味わい、助かったとしても帰る家はない。彼らにとっても、残された家族にとっても、おそらくあのままあの鉱山で飼い殺されていた方が幸せだったのだ。


「僕ら、次の星でもこんな思いするのかな」

『人にはいろんな事情があるわ。傷つきたくないなら、深く関わらないことよ』

「きっとダダコには無理だよ」


 無理に笑ってみせると、ハナはそうね、とつぶやいた。


「ねぇ、ハナ。聞きたいことがあるんだ」

『何かしら』

「僕の両親のことなんだけど……」


 聞きづらそうにではあったが、その目はまっすぐハナを見据えている。


「僕は本当に親に売られたの?」

『どうして知りたいの、そんなこと』

「自分のことは知りたいよ。それに、僕、あの時の記憶が曖昧なんだ」

『後悔しない?』

「後悔するような話なの?」

『どうかしら。話してもいいけど。私が見たことを見たまま話す。それでいいかしら』


 コラダはゆっくりと頷いた。


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