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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第5章 少女と魔物
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2

「フッカ、今日の収穫は?」


 マゼンタ地区に着いて二日目の夜である。


 いきなり鉱山に突入するようなことはせず、フッカを鉱員に変装させて内部の様子を探らせている。


「いろいろ聞けたぞ」

「いろいろって?」

『フッカ、その前に地図をお願いします』


 身を乗り出して話し始めようとしたフッカをフルの冷静な声が制する。

 フッカはへいへいと言いながら首に下げていた小型カメラ付きのペンダントを外し、モニターに接続した。画像がモニターに取り込まれ、鉱山の内部が映し出される。フルが画面に触れて操作すると、映像の処理がなされ、内部地図が表示される。


「えーと、俺が作業してるのがここ。ここはBブロックって呼ばれてて、若い奴とか体力のある奴が集められてる。隣のAブロックは粘土質で採れる鉱物も柔らかいものが多いみたいでさ、ここには女がいたな。こんなちっさいスコップでちまちま掘るんだぜ? スプーンかと思ったよ、俺」

「女の人も働いてるのね……」

「まぁ、他のブロック程は重労働じゃないみたいだけどな。でも、泥まみれで大変そうだったよ。赤ん坊をおぶってる奥さんもいたし」


 フッカは顔をしかめてコーヒーを啜った。


「んで、ちょっと離れたこのCブロックは重機を使って採掘してる。ここはちょっとくらい傷がついたり割れたりしても加工で何とかなるような鉱物しか採れないみたいだから、採掘と掘削を同時に行っているらしい。もう少し大きくするんだと」

「落盤事故とか大丈夫なの?」

「大丈夫なわけねぇだろ。Cブロックじゃちょいちょい起きてるみたいだ。まぁ、Cブロックだとそんなに大きな被害は出ないみてぇだけど。重機は遠隔操作だからな。ただ、ABブロックで事故が起きると……」

「生き埋め……?」

「……そう」


 ダダコとコラダの顔がさぁっと青ざめる。


「酷い……」

「酷いよなぁ……」


 フッカは俯いてため息をついた。


「そうだ! フッカ、魔物の話って聞いた?」

「魔物ぉ? 何だそりゃ」

「今日、女の子に聞いたの。その子のパパが鉱山で魔物に食べられたって……。その子のパパだけじゃなくて、えっと、たしかもう二人、お友達のパパもって……」

「それは聞かなかったなぁ。明日また聞いてみるよ。……んで、問題は、ここな」


 フッカは身を乗り出して画面を指差す。鉱山はアリの巣のように各ブロックがトンネルで繋がっているが、Cブロックから繋がっている長いトンネルの先にPブロックという小さな作業場がある。


「Pブロック?」

「おそらくここが【大統領の心臓】の採掘場だ。ここへは俺達みたいな一般の鉱員は立ち入りが禁じられている」

「でも、地図があるってことは……」

「もちろん、迷ったふりして立ち入ったに決まってんだろ」


 フッカは得意気に胸を張った。


「ただ、細かいところまでは見えなかったから、プレジデントにご挨拶は出来なかったけどな」

『それでも大したものです。で、何かわかりましたか?』


 フルの言葉にフッカは眉をしかめた。


「ここは、おかしな香を焚いてる。じっくり見れなかったのもそのせいだ。何の準備もせずに入ったら、あんなとこ五分もいられねぇよ」

「おかしな香?」

「そんなところでお香なんて焚いたら一酸化炭素中毒になっちゃうんじゃ……?」

「ああ、まぁ、香ってのは違うかもしれないんだけどさ。なんかモワモワしたくっせぇ煙が充満してたからそう思ったんだ。俺はわかんないけど、コラダだったらわかったかもな。で、たぶんそれのせいだと思うんだけど、中で作業してる鉱員の様子がおかしいんだよ。なんつーか、目も虚ろだしさ、こっちの呼びかけにも応答しないんだ。心ここにあらず、って感じ」

「それって、麻薬なんじゃ……」

『考えられますね……』

「で、Bブロックのやつに聞いてみたら、どうやらPブロックに行けるのは熟練の鉱員の中でも特に優秀なやつだけらしくて、作業場の広さ的にも三人が限界らしいんだ。で、給料も俺らの三倍以上に跳ね上がるらしいんだよな。しかも、どうやらPブロックでのお勤めを終えると、軍の技術者になれるらしい」

「鉱員から軍の技術者? すごい出世じゃない」

「ただ、妙な噂もあってさ。前のPブロックの鉱員の奥さん連中が、もう何年も旦那に会ってないって言うんだよ。その奥さんの一人がAブロックにいたんだ。軍に問い合わせても、彼は優秀な技術者だから、帰省させられるほどのまとまった休みを与えられないんだって言われたみたいでさ」

「そんな……」

「それってもしかして……」

『おそらく、『魔物』に食べられたのでしょうね』


 フルが静かな声で言う。その言葉にダダコはどきりとした。


「フル、魔物って……」

『お待たせ~、フル~』


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながらグニウが小瓶を抱えてやってくる。小瓶の中には黄金色の液体がほんの少しだけ入っていた。

 フッカが身を屈めて小瓶を受け取り、肩を差し出すと、いつものようにぴょんと飛び乗る。


「はい、フル。これ、何だ?」


 メインテーブルの上に置くと、フルは小瓶に近づいて蓋の辺りをくんくんと嗅ぎ、嫌そうに顔をしかめた。


『あなたの言っていた煙の正体です』

「何でここにあるんだ?」

『あなたの服に染みついたわずかな臭いから抽出したのよ』


 パタパタと翼をはためかせてハナもメインテーブルへやって来た。


「そんなこと出来るんだね」


 コラダは目をぱちくりとさせて感心したように頷いている。


『で? これは一体何だったのです?』

『簡単に言えば、麻薬』

『幻覚を見せるだとか、そういうタイプじゃないみたい。ひたすら人格を破壊し続けて一つのプログラムのみを遂行させる。奴隷制度が廃止されるまでよく使われていたものよ』

「そんな……。どうして……」

『どうしてっていうところまでは私にもわからないけれど、それほどプレジデントは機密事項ってことなんじゃないかしら』


 青い顔で震えるコラダにハナは優しく語りかける。


『やはり、これが【魔物】の正体のようです。前のPブロックの鉱員が軍の技術者になったというのも嘘でしょうね。おそらく、もう亡くなっているでしょう』

「亡くなって……?」

『後は、頃合いを見計らって、軍事演習の流れ弾にでも当たったなどと言うのではないでしょうか。しかし、残された家族が騒ぎ始めたので、今回からは魔物が出たということにして早々に社会から消してしまったのでしょうね』

「何よ……それ……。それほどのものなの? プレジデントってそんなに偉いものなの?」


 ダダコは真っ赤な顔で目に涙を溜めている。


『それほどのものなのでしょう。赤星政府にとっては』


 ダダコは歯を食いしばって必死に涙を堪えているが、何粒かは耐えきれずに頬を伝った。


「……壊してやる。全部」


「ダダコ?」


 下を向き、物騒なことをつぶやいたダダコをコラダが心配そうに見つめる。


「……フッカ、Pブロックの鉱員はいつからそこで働き始めたかわかる?」


 俯いたまま震える声で問いかける。


「正確にはわかんねぇけど、割と最近みたいだ。選ばれなかったってやつが悔しそうにしてたよ」

「フル、ちまちまと作戦なんか立ててる場合じゃない。あたし、行くわ」


 ダダコはゆっくりと顔を上げると、テーブルの上のフルを睨みつけた。涙はすっかり乾いている。


『そうは言っても、ダダコ。まだ何も……』

「あたしが二人に指示を出す。フル、プレジデントはどれくらいあればいいの?」


 フルを包み込むようにして抱き上げると、しっかりと目を合わせて畳み掛けるように言う。


『あなたの拳くらいあれば……』

「わかった。必ず持って帰る。行くわよ、コラダ、フッカ」


 そぅっとフルをテーブルの上に戻し、二人に視線を合わせることもなくつかつかと出入り口へと向かう。立てかけてある傘を担いだ。


「待ってよ、ダダコ!」「何かあったら端末で知らせるから!」


 ダダコが扉に手をかけたのを見て、二人は慌てて腰を浮かせた。フッカの肩の上にいたグニウはぴょんとテーブルへ飛び降りる。二人も各自の傘を持つと、ダダコの後を追った。扉がバタンと閉まる。


『……いいの? 本当に何の作戦も立てずに飛び出してったわよ?』


 グニウはフルに問いかける。


『いいも何も、我々にダダコを止められますか』

『嘘つき。あなたは止められるくせに……』


 ハナはため息交じりにそう言った。

 フルはそれには答えず、ただ下を向いて首を振った。



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