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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第4章 婦人と傘
14/46

3

「ダダコ、お帰りなさい」


 店の外で待っていたコラダが声をかける。


「重そうだな、持ってやるよ」


 フッカはダダコが持っている三本の傘に手を伸ばした。「あれ、思ったより重くないんだな」

 そうは言うものの、結局傘はフッカが持つことになった。

 マントの下からフルがひょっこりと顔を出す。『さて、長居は無用です。船に戻りますよ』


「はぁ~、肩凝ったぁ」


 船に戻り、メインルームのテーブルに着いたダダコは大きく伸びをした。「マダムの振りも楽じゃないのよねぇ」

「ほんとお疲れ様だったね。はい、コーヒー」


 腕をさすり、少しずつ長さを縮めているダダコにコラダがコーヒーを差し出す。


「ねぇ、やっぱりいきなり手足を伸ばすとさ、成長痛みたいなのってあったりするの?」


 さっきまでのダダコは身長百七十センチはあろうかという貫禄たっぷりのマダムに変装していたのだった。いまは両腕だけがいつものダダコである。足を縮める前にコラダの淹れてくれたコーヒーを一口啜る。


「ううん、そういうのはないかな。ただ、やっぱり単純に伸ばしてるだけだから、骨とかは結構もろくなっちゃうんだよね。コラダに蹴られたらぽっきりだよ。試してみる?」


 そう言って長いままの脚を差し出して笑うと、コラダは慌てて「そっ、そんなことしないよ!」と両手を顔の前で振った。


「そういえばフッカは?」


 右足をさすりながら問いかける。帰ってから姿を見ていない。


「さっそく撃ってるよ。弾はさすがに本物じゃないみたいだけど」

「ああ、好きだもんね、射撃。それにフッカは、いざってときに使いこなせるようになっとかないとだしね」


 がんばれ、フッカ、と笑いながら少し温くなったコーヒーを飲んだ。


「ねぇ、ダダコ……。さっきのフルの話だけどさ……」

「さっきの?」


 やけに真剣に話し出すコラダを見て、ダダコはカップをテーブルに置いた。


「生きるか死ぬか……ってさ。これからそういうところに行くってことなのかな、僕達……」


 コラダは俯き加減でぽつりと言った。たしかにそれは自分も気になっていた。そんなところへ行くことがないのなら、あんな話をする必要はないはずだ。フルがそんな無駄なことをする訳がない。


「行くのかも……しれないけど。でも、大丈夫だよ、コラダ。あたしがついてる。コラダが危ない時は、絶対あたしが助けるから」


 身を屈めて、顔を覗き込んでからにこりと笑った。


「そういうのって、普通、逆だよね……。僕も強くならなくちゃ」


 コラダは困ったような顔をして笑った。


「コラダ、あたしは01だけど、別にコラダやフッカのこと見下したりなんかはしてないからね。コラダもフッカもあたしよりすごいものいっぱい持ってる。だから、頼りにしてるから」

「ありがと、ダダコ」


 ダダコは口角を上げてニィっと笑った。それにつられてコラダも笑う。


「いや~、これ、面白れぇわ」


 地下へと続く扉が開き、ご機嫌なフッカが傘をライフルのように担いでメインルームへ入ってくる。


「あ、どうだった? 撃ってみて」

「んー、ほんの少し右に逸れる癖があるけど許容範囲だし、意外と肩への衝撃も軽いし、良かったよ」

「へぇ~。あとで僕も撃ってみようっと」

「あれ? ダダコもう縮まったのか。マダム・ダダコをじっくり見てやろうと思ってたのに」

「……マダムって止めてよね。まだぴちぴちの十六歳なんだから!」


 ダダコは目を瞑り、舌を出した。


「俺だって十六だもんね~」


 挑発するようにおどけた声で返す。「それにさ、マダムって呼ばれんのが嫌なら、顔の皺もしっかり伸ばしとけよ」

「ああっ、忘れてたぁ! もう、コラダ、何で言ってくれないのよ!」

「え~? 僕のせいなの~?」


 ダダコは真っ赤になった『婦人(マダム)』の顔を両手で丹念に伸ばす。あっという間にぴんと張ったぴちぴちの十六歳の肌が現れる。


「そういやさ、バディ達はどこで何してんだ?」


 傘を床に置いてフッカも席に着く。


「ミーティングルームで作戦会議中~」


 そう言いながらコラダは席を立ってキッチンへ向かった。

それを目で追いながら「作戦って?」と背中に問いかける。


「そんなの、僕にわかるわけないでしょ。でもさ、マゼンタ地区に探してる物があるみたいだから、まぁ、それに関してなんじゃない?」

「そりゃそうだろうけどさ……。なぁ、ダダコ、結局のところ、探し物って何なんだろうな」


 テーブルに肘をつき、身を乗り出す。ダダコは頬杖をついた。


「何なんだろ。見当もつかない。フルに聞いても、それは追々って濁されちゃうし……」

「なーんかさ、宝探しみたいだよね」


 にこにこと笑いながらトレイの上にコーヒーの入ったカップを乗せて、コラダが戻って来た。「はい、フッカ。ダダコもおかわりどう?」

「サンキュ、コラダ」「ありがとう。コラダの分は?」


 得意気にトレイをテーブルに置くと、そこにはきちんと三人分のカップがあった。


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