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GREEN MOLES  作者: 沖見 るもい
第4章 婦人と傘
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『起床時間です。各自、仕度を済ませて速やかにメインルームへ集合してください』


 ベッドに備え付けられたアラームから無機質な声が聞こえる。

 ダダコはむくりと身体を起こすと、寝ぼけ眼で辺りを見回した。


 ああそうだ、ここは寮の部屋じゃないんだ。


 緑星を出て既に一週間以上経過しているというのに、何だかまだ慣れない。枕元に置いてある大きめのぬいぐるみを一度ぎゅっと抱きしめてベッドから降りた。

 手早く身支度を済ませ、メインルームへ向かうとコラダとフッカは既にテーブルについている。


「おはよう、ダダコ」「早く飯食おうぜ」

「おはよ」


 朝食はキッチンに備え付けられている自動調理機から出てくる。それを本日の料理担当が各自の皿に盛りつけ、配膳する。もちろん、自炊しても良いのだが、本日の担当はダダコだったので、満場一致で調理機を使おう、ということになった。


「どうせあたしはコラダみたいには出来ないもん」


 拗ねたような口調でそう言うと、隣に座ったコラダを恨めしそうに見つめながら、ダダコはスプーンを口に運ぶ。


「そう拗ねるなよ。俺だって、コラダみたいには無理だって」


 クッキーにケーキまで焼いちゃうんだもんなぁ、とフッカは笑った。


「僕は好きでやってるだけだよ。二人だって、そういうのあるでしょ?」

「ある……かなぁ……」


 ダダコはスプーンをくわえたまま宙を見つめる。フッカは腕を組んで目を瞑った。


「たとえばさ、フッカはゲームすっごくうまいじゃん! 僕、対戦で勝ったことなんてほとんどないし!」

「それはコラダが下手なだけじゃん」フッカは目を開けて苦笑した。

「それからダダコはさ、ダンスがすごくうまいよね。僕、初めて見た時びっくりしたよ!」

「……それもコラダのリズム感が壊滅的なだけじゃない」


 ダダコはやや呆れ声だったが、それでも表情は明るくなっている。それを見届けてコラダは安堵した。この二人が笑ってくれるなら、自分を貶めることくらい何てことない。


「今日はどこに行くのかな。面白いもの、見られるといいね」


 にこりと笑って食べ終えた食器を持ち、席を立った。


          *


『着きましたよ。ここがコーラル地区です。ここでの目的は傘の購入のみですから、染色はせずに、被り物と眼鏡で凌ぎましょう』


 フルの指示により、三人は真っ赤な布をぐるぐると頭に巻いた。ダダコの長い髪は飛び出さないように、中でお団子にしてある。さらにサングラスを受け取り、装着した。


「ねぇ、こっちの方が怪しくない?」


 鏡に映った自分の姿を見て、ダダコがフルに問いかける。


『心配ありません。その布はこの地区の伝統工芸品ですし、日常的にそのように巻く者も多いそうです』

「お、ちゃんと俺のには度が入ってるんだな」


 ダダコの後ろで声を上げたのはフッカだ。


『当たり前でしょ。アナタ、目が悪いんだから』

『そうよ。フッカがいざって時に見えなかったら大変だもの』

「なんだよ、いざって時って……」

『アナタ、射撃でトップだったじゃない? だから、いざって時はアナタに狙撃してもらわないとね』

「狙撃……? 誰を?」

『誰ってことはないわ。こちらに危害を加えようとして来る奴を、よ』


 グニウはフッカの肩の上でけらけらと笑った。


『それにね、校内でトップってことは、軍でも充分通用するレベルなんだから』

「マジで……?」

「すごいじゃん、フッカ!」

『あらあら、コラダだって負けてないわよ? あなたは座学の中でも特に薬学に強かったわよね。あのまま医務室に置きたかったくらい』

「ハナ、それ本当?」

『私、あなたに嘘をついたことなんてないと思うけど?』

「そっか……。そうだよね……」

『だから、ここでも薬学の勉強は欠かさずにね。もしもの時の医療行為はあなたがするのよ』

「わかったよ、ハナ」

「なんかそれぞれに役割あるのね……。そうなると、あたしには何の役割があるの?」

『あなたは……』


 フルはダダコの肩の上でそう言うと、小さくため息をついた。しかし所詮、ネズミのため息である、それはダダコにしか聞こえない。


「何? 何よ? 何でそんなに言いづらそうなわけ?」


 いつもなら立て板に水のフルが言い淀んでいる様子を見て、コラダとフッカもダダコの近くに寄ってくる。


『ダダコ、あなたは問題児(トラブルメイカー)ですかね……』

「ちょ、ちょっと! それはないんじゃない?」

『ただ、それが悪いことばかりでもないのです。あなたが起こしたトラブルによって、別のトラブルが解決したことも一度や二度ではありません。あなたにはあなたにしかない野性的な感覚(センス)がある』

「センスって言われても……。いっつもそれで怒られてた気がするんだけど、あたし」


 そうだ。寄宿学校ではいつもそれで怒られていた。感覚だけで動くのを止めなさい。自分の行動は責任を持って説明できなくては、と。

 教官達の言葉を思い出し、ダダコはしょんぼりと俯いた。


『たしかに、己を省みるという点で、行動を説明出来るようにすることは重要です。しかし、生きるか死ぬかという状況においては、いちいちそんな時間をとっていられません。ですがダダコ、あなたの判断で助けられることもあります。それは事実です。あなたがなぜそうしたのかという点は、後日誰かが勝手に解釈・分析するでしょう』

「生きるか死ぬかって……」


 この旅の中で、そんな局面に遭遇するということだろうか。


『ですから、そういった意味では必要不可欠な問題児なのです』

「でっ、でも、もうちょっと言い方っていうか……!」


 フルの言葉で顔を上げたダダコは頬を染めて抗議した。


『おや、昨日、早速トラブルを起こしたのはどなたでしたかな?』

「うっ……。それは……」

『さぁーて、おしゃべりはその辺にして、ぼちぼち行きましょ』


 フッカの肩の上でグニウがぴょんぴょんと飛び跳ねる。


『今日は私達も同行するわ。ただ、大っぴらに人語は話せないから、私達に話しかける時は気を付けてね』



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