エピローグ
魔王モルグラッドと魔王ギゾーカイがいなくなってから一ヶ月。
本来ならばすでに新しい魔王が現れてもおかしくない時期だったが、幸いにも今のところそういった情報は俺たちの耳に入ってきていなかった。
「現在のロンセリア軍は非常に好調で大きな戦果を上げ続けています。ロウリーンやキキマ砦の奪還にも成功し、今は西部にある各都市の開放に向けて準備しているところです。この調子ならば魔王軍をロンセリアから完全に追い払ってしまうことも夢ではないかもしれません」
笑顔でそう語るのはヤーレスさんだった。
アンドアネルの決戦で魔王を二体とも失った魔王軍。残された魔獣たちはすぐに指揮系統の混乱や戦意の喪失などによりアンドアネルの攻略を断念した。その後もずるずると撤退を繰り返していき、ついにはキキマ砦までロンセリア軍に明け渡すこととなった。ヤーレスさんたちの活躍も素晴らしく今のロンセリア軍はまさに破竹の快進撃を続けていた。ロンセリア軍の人たちは国のどこに行っても賞賛の的だった。
「きゃあーっ。ヤーレス様よ!」
特にヤーレスさん個人の人気はすさまじく、城にいても街中にいても常に女性たちからの黄色い声が飛んでくるのだった。
「ヤーレスさまぁ~、こっち向いてぇ~」
「……ハハハ」
照れくさそうにはにかむイケメン。
「やだ、カワイイ!」
そんな仕草もまた人気の要因らしい。今は会議のために前線から俺たちのいるアンドアネルに戻ってきているヤーレスさん。彼と行動をともにすることが多い俺たちはそんな彼の人気にうんざりしていた。
「おい、ヤーレス」
ノルノは仏頂面で言う。
「おまえといるとこの天才魔法使いであるわたしがちっとも目立たないじゃないか。どうしてくれるんだ、おい!」
ノルノはまだいい方だ。性格はともかく見た目にマスコット的な愛らしさがあるのでけっこうまわりの人からちやほやされることも多い。俺なんかはひどいもんだ。
「ヤーレスさん、あんたのせいで俺は完全な邪魔者扱いだ。俺はあんたと一緒に歩いているだけで『ちょっと、そこの変な男。ヤーレス様が見えないじゃないの。早くどいて!』とか『あんたみたいにダサい男がヤーレス様となれなれしくするんじゃないわよ、このバカ!』とか言われるんだぞ。本当に言われるんだぞ。面と向かって言われるんだぞ。これはどういうことなんだ、いったい!」
俺は涙が出てきそうな気持ちだ。
「俺はこれでも勇者なんだぞ。がんばって魔王だって倒したのに。なんで全然人気とか出ないんだ? なんで女の子にモテたりしないんだ? 泣けてくるぜ、ほんと。ううー」
俺たちの愚痴を聞いて恐縮するヤーレスさん。
「……は、はあ。すみません。ノルノ君、トーイチ君」
バムントさんが声をかける。
「こいつらの言うことなんて気にするな、ヤーレス。目立ちたいだのモテたいだのしょうもないやつらだ。そんなことを気にする暇があったら体でも鍛えればいいんだ、まったく」
相も変わらず真面目一辺倒なバムントさん。そりゃあバムントさんの言うことももっともだけど俺だって少しはいい思いがしたいよな。魔王を倒したってことも結局はロネア様の功績が大きいという話になっていて、俺たちの活躍を評価してくれる人は少ないのが現状だった。
「まあ、ロネア様の活躍がすごかったのは事実だし、あの人が今でも多くの人たちから賞賛されるのは俺もうれしいから別にいいんだけどな」
俺は小さく独り言をつぶやくのだった。
少し歩いて。
「では、私はここまでで。また近いうちにお会いできるといいですね。みなさん、お元気で」
「ああ。ヤーレスさんも元気で。じゃあね」
アンドアネル城を出たところで別れたヤーレスさんと俺たち三人。
「この城ともしばらくはお別れだな」
俺たちはちょっとした感傷を胸にアンドアネルの城を離れていく。
「街もだいぶん賑やかになってきたな」
アンドアネルには再び多くの人たちが戻ってきていた。しかし、先の決戦で破壊された建物も多かった。もちろん魔法力プラントもなくなってしまったので、空にはアンドアネルを彩っていた魔法船やテーマパークなどの姿はもうない。魔法力が使えなくなったために多くの機械は動かなくなり夜には明かりも灯らなくなった。生活が大幅に変わり仕事がなくなってしまった人も多い。今のアンドアネルには問題が山積みだった。
「それでも、この街は世界一の街だ。何百万人という人たちが生活していて常に活気に満ちあふれている」
往来には馬車や人の姿が絶えない。お店からはみんなの話し声が聞こえてくる。公園では子供たちが笑顔で走り回っている。
「これこそが俺たちが守っていかないといけないものなんだよな」
魔王軍との戦いを経験した俺には心からそう思えるのであった。
しばらくして城門へと到着した俺たち。
「さあ、着いた。もう当分の間はアンドアネルには戻ってこないつもりだ。出発の準備いいか、おまえたち」
「はい、大丈夫です」
それから俺たち三人は用意していた専用の馬車に乗り込む。
「……いよいよ出発か」
俺たち勇者のパーティは旅に出るところだった。なぜかと言うとそれはもちろん魔王軍と戦うためだ。今はまだ大丈夫だが、いずれ新しい魔王がまた現れるのは確実だと考えられている。それは今までの人間と魔王との歴史が証明していることであろう。おそらくモルグラッドやギゾーカイほど強力な魔王が現れることはないだろうが、魔法力プラントを使わなくなっただけで安心するのはまだ早いだろう。
「俺たちは力をつけないといけない」
いつ新しい魔王が俺たちに戦いを挑んできても負けないために。
「それに、今のロンセリアという国は根本から変わり始めている」
魔法力プラントが使えなくなったこと、ロネア様による求心力がなくなったことなどの理由で、いくつかの都市では中央に対する反発が大きくなってきているという話も聞く。これから起こってくる問題は魔王軍に関することだけではないのかもしれない。俺たち勇者のパーティなら広くみんなの手助けができるかもしれない。
「いずれにせよ、俺たちはアンドアネルを出て、国を大きく見てまわることが必要なんだ」
城門を出て、さっそうと外を走っていく馬車。街の姿は小さくなって離れていく。
「さよなら、アンドアネル」
こうして俺たちは国中をめぐる旅へと出発したのだった。
いつか本当に世界が救われる日が来ることを願って。
以上でこの小説は終わりです。最後まで読んでいただいて大変ありがとうございました。
一度、こういう平凡な長編ファンタジーを書いてみたかったんです。ファイナルファンタジーとかドラクエとかで育ってきた人間なので、自分も似たような話を作ってみたいな、と。おかげでとてもスッキリした気分になれました。
いちおうこの小説のテーマは「葛藤」です。作中の登場人物たちはみんな難しい状況に直面して悩みながら行動しています。魔王ですらそうです。特にロネア様ですね。彼女は魔法使いとして政治家として一人の女性として常に葛藤を続けてきた人です。彼女の人間的な強さや弱さを描くことになんとか挑戦してみました。どうだったでしょうか。
では、今後も何かしらの小説を書くと思うので、また読んでもらえたら嬉しいです。




