第四章(4)
「むっ、魔獣が来たぞ」
魔法船による防衛ラインを突破してきた何匹かの魔獣が俺たちのいる城の方、つまり魔法力プラントの方に飛んできた。
「怪鳥キウアンダが五体ぐらいか!」
すぐに魔獣の数と種類もわかるぐらいになった。戦闘機ほどの大きさを誇る鳥型のモンスターがかなりのスピードでプラントに近づいてくる。キウアンダは電雷魔法も使える。このままではプラントが攻撃される。そう思ったとき。
――カッ!
ダラグネス・ロンテの翼が光を強く発して羽ばたいた。すると。
「なんだっ?」
空を猛スピードで飛んでいた五体のキウアンダが、炎の渦に包まれた。
「う、うおーっ」
俺はあまりの迫力に思わず声が出る。竜巻のような炎の渦が五つほどアンドアネルの空に立ちのぼり、すべてのキウアンダをあっという間に焼き尽くしてしまった。ほとんど灰も残らないほどまでに。
「……す、すごい」
隣ではノルノも声を漏らす。
「あれは魔法、たぶん火炎魔法バイバドルだと思うが、使われている魔法力が桁違いだ。本当にすごい、とても信じられないほどの魔法力だ」
あれが魔法。ノルノの言葉を聞いて俺もあ然とする。五体の魔獣を一瞬で焼き払ってしまうほどのバイバドル。この一撃を見ただけでダラグネス・ロンテの戦闘能力が尋常じゃないことは理解できた。
「また敵が来たぞ」
バムントさんの声。ここへきてプラント周辺まで近づいてくる魔獣が増えてきた。もちろん魔法船も懸命に戦っているのだが、いかんせん魔獣の数が多すぎる。どこにこれほどの軍勢が隠れていたのか、と思うほどだ。取りこぼしが生まれるのも仕方のないことだろう。
「今度は邪竜リドアス、しかも三体だ!」
バムントさんが叫ぶ。邪竜リドアス、キウアンダよりさらに一回り以上大きく、黒金のような鱗に覆われた体躯。竜と名が付くだけあって非常に高い魔法力と知能を持っている。それが三体も。普段なら絶対に相手にしたくはない難敵だ。
「ギャガアアアアア」
俺たちの耳にも入るほど響くリドアスの咆哮。直後に、三体の邪竜は一斉に口から炎の球を吐き出した。火炎魔法ディー・ボーマだ。リドアスの放った火球はそれぞれ一つずつが堅牢な建物でも吹き飛ばすほどの威力を持っている。直撃すれば魔法力プラントも無事ではすまない。しかし。
――フワリ。
ダラグネス・ロンテの片翼が優雅に広がった。プラントを火球から守るように広がった羽、それにリドアスの火球がぶつかったとき。
「え?」
ジュウウウ、というたき火に水をかけた程度の音。そして、何事もなかったかのように三つの火球が消え去ってしまった。この信じられない光景。ややあって、ノルノが説明してくれた。
「……おそらく防御魔法マベールハイトだ。ただし今度も魔法力が桁違いすぎてリドアスの魔法すら完璧に、まるで吹き消すかのように分散させてしまったのだろう。とんでもない芸当だ」
プラントの前方をふさぐダラグネス・ロンテの片翼。
――バサアアアッ。
もう片方の翼も広がったと思うと三体の邪竜リドアスをなぎ払うように羽ばたいた。
「ギャガアアアアアァァァァァ!」
リドアスの絶叫。硬い鱗に覆われた邪竜の体が青白い電光に包まれる。ダラグネス・ロンテは何かの電雷魔法を三体のリドアスに使ったのだろう。またも、ほぼ一瞬で絶命した魔獣たち。三体の邪竜リドアスは一直線に地面へと落ちていったのだった。
「リドアスどもがこうもあっけなく……」
バムントさんもただただじっと空に浮かぶ美しい両翼を見つめる。
「……本当にすさまじい戦闘能力だ」
俺も味方の兵器ながら体が震える。ヤーレスさんの言葉はまったく嘘ではないようだった。
「ヤーレスさん。あのダラグネス・ロンテとかいう兵器、いったいどういう仕組みになっているんですか? 普通じゃ考えられない魔法力ですよ、あれは」
俺の問いに彼は、
「ダラグネス・ロンテは魔法力プラントから送られてくるエネルギーを直接使ってロネア様の魔法を何十倍にも増大させることができるんです。だから、実際に戦っているのはロネア様自身なんです。あの人の判断力と魔法力プラントの力、この二つが合わさることによって魔王にも引けを取らない戦闘能力を有することができる、というわけなんです」
「なるほど。ロネア様がほとんどそのまま戦っているのか。しかも魔法力プラントの後ろ盾を得て。ダラグネス・ロンテ、首都最終防衛システム。これは本当にすごいもののようだ」
ロネア様が前に言っていた新兵器とはこのダラグネス・ロンテのことだったんだな。この力がロンセリア軍にあるのなら彼女の魔王を倒せるという自信もうなずけるかもしれない。
「で、でもだ……」
ただノルノは不安げな表情でヤーレスさんに、
「そんなに強い魔法力を至近距離から体にさらしてロネア先生の体は大丈夫なのか? どんな力でも強すぎるものは人体に有害なはずだ。いくらなんでも危険なんじゃないのか?」
魔法使いらしいノルノの意見。言われてみれば確かにそうかもしれない。魔法力はエネルギー、力だ。強すぎるエネルギーは人体に大きな影響を及ぼす。きちんと体内で魔法力をコントロールできればいいのかもしれないが、ダラグネス・ロンテの力は人間の体が耐えられる範囲を大きく超えているようにも思える。ノルノの心配ももっともだ。
「……実は君の言うとおりなんです、ノルノ君」
ヤーレスさんの顔も曇る。
「あのダラグネス・ロンテは諸刃の剣です。使う者に対して極限までの肉体的精神的な負荷を強いるのです。もしかしたら中にいるロネア様もあまり無事とは言えない状況かもしれません」
「な、なんだと! それを早く言え、このっ」
ノルノはヤーレスさんにつかみかかる。
「おい、ヤーレス! 今すぐロネア先生をあの兵器から降ろせ。ロネア先生が死んでしまうじゃないか。早くしろ。早く先生をあれから降ろせよ!」
「……すみません、ノルノ君。それは無理なんです」
ヤーレスさんはうつむいたまま首を振った。
「私も止めたんです。ダラグネス・ロンテを使うのは危険だと。しかし、ロネア様の意思はたいへん固く私に止めることはできませんでした。どうしても自分はダラグネス・ロンテで魔王と戦うのだと。あの人の決意をひるがえすことは誰にもできないのです」
それでもノルノは、
「うるさい! うるさい、ヤーレス! いいから早くあの兵器を止めろ。ロネア先生が死んじゃう。早くしろよっ!」
「ノルノ! 気持ちはわかるが落ち着け」
なんとかバムントさんが暴れるノルノを押さえる。
「う、うう~」
ノルノは泣きそうになりながらつぶやく。
「ダラグネス・ロンテ、この名前を聞いたときから嫌な気はしていたんだ。ダラグネス・ロンテとは古代の言葉で罪滅ぼし、という意味なんだ」
「罪、滅ぼし……」
ダラグネス・ロンテ、そんな意味のある言葉だったとは。俺もそう聞かされて気がついた。罪滅ぼし、誰に対して何に対しての罪滅ぼしか。ロネア様は先代勇者ピエトロや今まで死んでいった多くの兵士たちに対して大きな大きな罪の意識を背負っているのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。ロネア様はそういう人だ。だからこそ自分の命をすべて費やしてまであのダラグネス・ロンテに乗って戦っているのだろう。
「とにかく、みんな……」
バムントさんが言った。
「俺たちはロネア様の言づて通り、あの人を信じて見守るしかないだろう」
「…………」
俺たちは今も魔獣の群れと戦っているダラグネス・ロンテの美しい姿を瞬きもせずに見つめるのだった。




