第三章(8)
「ま、待て。降参する!」
突然、クォン・キマイラは宣言した。
「俺の負け、おまえらの勝ちだ。だから、魔法力プラントを破壊するのはやめてくれ!」
地面に倒れていたクォン・キマイラは四つん這いになりながらそう叫んだ。
「……わかった」
ノルノも魔法を放つのをやめる。
「よし、やったぜ!」
ガッツポーズの俺。どうやら俺の考えは正しかったようだな。これでやっとクォン・キマイラから魔王のことが聞き出せるってわけだ。
「……ハア~」
少しして、よろよろと立ち上がるクォン・キマイラ。
「ちっくしょう。この俺が負けるとはな、ショックだぜ」
肩を落として言う。
「まったく信じられねぇ連中だぜ、おまえらは。ついには俺を倒して秘密まで解いちまうとはな。完敗だぜ。まあ、すげー楽しかったから別にいいけどな」
それからクォン・キマイラは俺たち三人の前までやって来た。いまだ剣を収めないバムントさんに、
「もうゲームは終わりだ。俺におまえたちと戦う気はないから安心しろよ」
「そうか。なら早く魔王の秘密とやらを教えてもらおうか」
クォン・キマイラは苦笑して、
「せっかちなやつだな。俺はさっきの戦いの感想戦でもやりたい気分なんだがな。だが、いいだろう。約束は約束だしな」
思ったより潔かった魔獣。
「ふ~ん。まずはどこから説明したらいいもんか?」
腕組みをして話し始める。
「とりあえず順を追って話すか。魔王のこともいいが先に魔獣であるこの俺がどうやって存在しているかだ。それから説明してやる。もちろん勇者のぼうず、おまえの考えは正解だな」
クォン・キマイラは俺の顔を見てにやりと笑う。
「俺はこの部屋の中でしか生きられない。しかし、この部屋の中でなら死ぬこともない。それはこの部屋の中には魔法力プラントがあるからだ」
後ろにある大きな柱、小型魔法力プラントを見ながら話すクォン・キマイラ。
「あの魔法力プラントが魔法の力を生み出すことによって俺は部屋の中に存在することができ、あの魔法力プラントが働き続けるかぎり俺はずっと部屋の中に存在し続けることができるんだ。そのことを利用して今から百年前にここにいた邪教徒どもが俺という魔獣を作り出すことができたんだよ」
そう。あのプラントこそクォン・キマイラが何度も復活できる秘密だと俺はなんとか気づくことができた。ただ、わかっているのはそこまでだ。
「どういうことだ。つまり、あの魔法力プラントがおまえに魔法のエネルギーを供給している、ということなのか?」
俺の質問にクォン・キマイラは意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「ひゃっはっは。そう思うだろ? でも、そうじゃねぇんだよ」
クォン・キマイラは手のひらをくるっと裏返しながら言った。
「まったくの逆だ。あの魔法力プラントは俺に力を与えたりはしない。プラントの生み出した魔法力は人間が使うだけだ。俺はその煽りを受けて無理矢理ここに存在しているだけだ。俺が生まれたのは結果によってそうなったというだけの話なんだよ」
「……結果?」
「そう、結果だ。いいか。よく聞けよ、おまえら。そもそも魔法とか魔法力ってのは何だと思う?」
「…………」
とっさには答えられない俺たち。
何をいきなり聞いてくるんだ、こいつは。魔法が何か、だって? そんなこと俺は考えたことはないな。そういう力があるから使う、その程度の話じゃないのか? 俺たちの世界の電気とかと一緒だろ?
「……魔法が、魔法力が何なのか。それはわたしたち魔法使いにもわからない。千年ぐらい前に偶然そういった技術が生み出されて広まった。わたしはそうとだけ聞かされている」
ノルノが答える。
「そう、おまえら人間の考えってのはその程度のもんなんだよ。だから、駄目なんだ。いい加減でどん欲。まったくあきれるぜ。救いがたい連中だぜ」
クォン・キマイラはあざけるような目を俺たちに向ける。
「いいか。魔法とか魔法力ってのはな、本来は自然界にあってはいけないものなんだ。わかるだろ? いきなり炎がでたり氷がでたり、果てには重力を操ったりするやつまでいる。そんなの絶対に普通じゃねぇだろ。それをだ、強引に無理矢理に自然法則をねじ曲げて何かを起こす。それが魔法ってもんなんだ。そのための力が魔法力ってもんなんだ」
クォン・キマイラの話に聞き入る俺たち。秘密を知る魔獣は続ける。
「じゃあ、ねじ曲がった自然法則はその後どうなるか? 考えても見ろよ。地震とかとたぶん同じだぜ。必ずよぉ、反動ってものが来るんだよ。反動ってものが」
「……反動」
つぶやく俺たち。
「そうだ。その反動ってのが俺たち魔獣の正体だ」
ついにクォン・キマイラは言った。
「そして、それは魔王も同じ。魔王の正体も魔法による反動ってわけだ」
「魔王の正体が……反動?」
「そうだ。魔王の正体はおまえら人間が魔法力を使いまくったせいでたまった反動が具現化したものなんだよ。魔法力は常に使われ続けているから反動も常に充分にたまっている。よって、魔王をいくら倒してもすぐに新しい魔王が生まれてくる。全部はそういうわけなんだよ」
「……なんてこった」
あまりのことに呆然とする俺たち。ややあって。
「ただし……」
クォン・キマイラは腕組みをしたまま、
「どういう原理や物理法則で魔王や魔獣が生まれるかまでは俺にもわかんねぇ。俺にわかるのは結果だけだしな。とにかく結果として無理矢理に生み出された俺たちは人間が憎い。無性に人間が憎いんだ。おそらく自然界だか自然法則だかってやつの怒りが乗り移ってるのかな。何か大きな力が人間にこれ以上魔法力を使わせないように仕向けているのかもな。よくわかんねぇけどな」
クォン・キマイラは魔法力プラントまで歩いていき、
「特に魔法力プラント、こいつがやべぇんだよ。こいつの生み出す魔法力は魔法使いの魔法とは桁違いの量だ。魔法力プラントが開発されてから自然法則とかの歪みはそれまでと比べて遥かに大きくなった。昔はたぶん魔王とか言ってもたいした強さじゃなかったんだ。人間を滅ぼすほどの力は全然なかったはずだ」
プラントの表面をバンと叩く。
「しかし、今は違う。今の高性能な魔法力プラントが多くの魔法力を作れば作るほど魔王や魔獣の力も桁違いに増大し、人間を滅ぼそうとする怒りも大きくなるって寸法さ。どうだ、よくできてるだろ? 世の中ってもんはよ」
俺たちを見下したように見るクォン・キマイラ。
「こういうのってなんて言うんだ? 自業自得? 因果応報? まあ、おまえらが受けている苦しみってのは自分たち自身の行いが原因ってことなんだよ。俺みたいな魔獣からすればざまあみろ、って感じだな。ハッハッハッハッハ!」
クォン・キマイラは最後にそう言って大きな笑い声を上げる。俺たちはこの事実に強い強い衝撃を受けてしばらく言葉が出ない。
魔王や魔獣が人間を襲うのは魔法のせい。しかも魔法力プラントがすべての元凶だったとは。人間の生活を豊かにして魔王たちとも戦いにも必要不可欠な魔法力プラントが元凶。これは本当に恐ろしい事実だ。
「……とにかく一秒でも早くアンドアネルに戻りましょう、バムントさん。この事実を早く宰相のロネア様に伝えなければ」
俺はやっとのことで頭を働かせて今するべきことをまとめる。
「ロネア様に頼んで魔王軍との戦いの前にアンドアネルや国中の魔法力プラントを停止させてもらいましょう!」
はっとしてうなずくバムントさんとノルノ。
「よし、急いでアンドアネルに戻ろう」
こうして俺たち三人はデルムト遺跡の地下施設を抜け出していったのだった。




