第三章(6)
「……ほほう。生きてんのか」
一通り攻撃を終えると翼を羽ばたかせて空中に浮かび上がるクォン・キマイラ。
「なんだ。やっぱりやるじゃねぇか、おまえら。簡単には死なねぇってか」
クォン・キマイラは上から俺たちの様子を楽しそうに見下ろす。
「そうこなくっちゃな。今からでも俺を降参させられたら魔王の秘密は教えてやるぜ。頑張ってみな」
俺たちは痛む体を無理にでも動かして集まる。すぐに守りの体勢を整えようとする。
「くっ。こいつ、攻撃も相当に手強いな……」
バムントさんは俺にそっと言ってくる。
「……トーイチ、どうする? やつはこの部屋からは出られないと言った。逃げることは不可能じゃないはずだぞ」
なるほど。逃げる、か。いい考えかもしれない。俺も命をかけてこんな訳の分からない化け物と戦うのは嫌だ。先ほどの攻撃で体もかなり痛む。苦しいし怖い。できることならば早くここから逃げ出したいと思う。しかし、しかし。
「……いや、逃げるのは駄目、きっと駄目なんです!」
俺は強く首を振る。
「おそらくこれは最後のチャンスなんです。今、逃げたら永遠に魔王の秘密は手に入らないような気がする。逃げてはいけない、絶対にっ。魔王の秘密、死んでも手に入れなければっ」
キキマ砦で死んでいった多くの兵士たちの姿が脳裏によみがえる。俺はバムントさんにお願いする。
「頼みます、バムントさん。俺と一緒に戦ってください!」
「……もちろんだ。俺はおまえの盾であり剣だからな」
バムントさんの表情からも迷いが消える。
「なら、前に出るのみだ。いくぞ、トーイチ。そうすれば光明も見えてくるかもしれんからな」
バムントさんは再び先頭に立ってクォン・キマイラに立ち向かっていく。
「おっ。逃げねぇのか。それだよ。いいじゃん、おまえら」
空中のクォン・キマイラはもう一度、炎の斧を出す。それを振りかぶってバムントさんに飛びかかる。
「もっと楽しもうぜぇ!」
「……悪いな、こっちは遊びじゃないんだ」
バムントさんの大剣が再び強く光る。
「うおおおおお!」
今まで聞いたことのない戦士の咆哮。
「グランド・グラディエイター!」
人間離れしたほどに分厚いバムントさんの全身の筋肉、それがさらに一回り大きくふくらんだかのように見えた。並みの戦士では持ち上げられないほど重い魔法の大剣を今まで以上の速さで振り回す。
「でえええりゃあああああ!」
怒号を発して猛然とクォン・キマイラに襲いかかるバムントさん。すさまじい気合いだ。
「う、うおっ……」
気合いだけではない。重く速い剣戟の嵐。クォン・キマイラも炎の斧で防御するのがやっと状況だ。両者の間で飛び散る火の粉。
「ぬおおおおお!」
「ちいっ。こいつ、マジで人間かよっ」
押されるクォン・キマイラ。そのなかでワシの翼が斬り飛ばされる。これですぐには宙に逃れられないはずだ。
「……すごい、バムントさん。よし、俺も行かないと!」
クォン・キマイラの横から俺も入っていく。
「エアロ・ブロードアロー!」
マイネストラスから放たれた衝撃波がクォン・キマイラに直撃する。
「げえっ!」
大きく体勢を崩すクォン・キマイラ。
「そこだ! クラッシング・クランチ!」
バムントさんは隙を見逃さない。ミキサーの中に叩き込まれたかのように全身を切り刻まれる不死の魔獣。
「ウゲアアアアァァァーッ」
断末魔の叫びととも体を消滅させる。
「次はどこに現れるっ?」
クォン・キマイラがこの部屋のどこかに復活してくるのはわかっている。とにかく俺たちにできるのは攻撃あるのみだ。相手は謎の魔獣だがバムントさんが言ったように前に向かっていれば何かが見えてくるかもしれない。
「……くうっ……い、痛ぇ……」
部屋の中央に立つ魔法力プラントを挟んで俺たちとは反対側に現れたらしいクォン・キマイラ。少し距離がある。追わなければ。そこへ。
「力、波、空間、時間。あらゆる事象は一と成り得ん、あらゆる系は一と成り得ん。収斂、そして破砕の連鎖」
間髪入れずにノルノの魔法。
「振動魔法イドルホーン!」
鼓膜を引っかくような音、空気を伝わって物質を粉々に粉砕してしまう振動がクォン・キマイラにまで届く。
「ぐぎあっ」
踏みつぶされたかのような声を発して体を痙攣させるクォン・キマイラ。角や尾や羽がバラバラにちぎれ飛ぶ。
「こ、このクソガキィィィ。おらあっ!」
クォン・キマイラは手にしていた巨大な炎の斧をノルノに向けて投げつける。
「ふんっ!」
ノルノの前まで戻ったバムントさん。飛んでくる斧を魔法の大剣ではじく。デバドルで作られた斧は部屋の壁に当たって大きく爆発する。
「えーいっ」
その間にクォン・キマイラまで近づいた俺は手負いの魔獣をマイネストラスで斬りつける。
「や、やべぇ!」
鋭い両手の爪で俺の攻撃を受け止めるクォン・キマイラ。幾度か斬りむすんだ後、バムントさんが来る前にまた部屋の後ろに下がって体勢を整えようとする。
「ハァハァ。おまえらの相手はおもしれぇけど、けっこう大変だな」
数秒も時間を与えるとすぐ元通りの体に回復する魔獣。時間、やつに時間を与えては駄目だ。
「ま、待ちやがれっ」
俺は必死に追う。ノルノも後方から魔法で援護してくれる。
「振動魔法イドルホーン!」
魔法力プラントの裏側付近にいたクォン・キマイラめがけて強力な魔法を放つ。物質をことごとく破壊する振動がプラントをかすめる。そのときだった。




