第三章(3)
「驚いた。中はいまだに明かりが残っているんだな」
階段を一階ほど降りたところ。中はかなり広い造りになっているようだった。縦横に長く伸びる通路があり魔法による明かりが薄暗くだがまんべんなく中の様子を照らし出していた。
「いちおうもっと明るくしておくか。閃光魔法ルランツ」
ノルノの魔法によって急激に明るさを増す地下の通路。やはり通路はかなり長く続いているようだった。
「とりあえずこの階を探ってみるか」
俺たちはゆっくりと通路を進んでいく。左右には多くの扉が並んであった。いくつか崩れた扉から中を見てみると、それらはどれも普通の部屋のようだった。家具のようなものがありベッドのようなものもある。居住スペースが多いようだった。礼拝堂のような広い部屋もあり例の魔王像も立てられてあったが、そのほかにおかしなところはないようだった。
「この階には特に怪しいところはないようですね」
しばらく見て回って後、また下へと続く階段に戻ってきた俺たち。
「では、また下に行ってみようか」
次の階に降りる俺たち。調べた結果、ここも同じような感じだった。
「この階も異常なし、と」
俺は少し拍子抜けする。
「思ったより普通ですね。モンスターなんか全然出てこないし。あれ、おかしいなぁ?」
バムントさんは険しい表情を崩さない。
「いくら地下施設といっても上の部分はどこもこんなもんだ。人間というものはな、一番見られたくないものは一番奥底に隠すものなんだ。おそらく大変なのはこれからだろう」
「なるほど。そうですよね」
俺は再び気を引き締めて、まだまだ下の階へと潜っていく。
「むうっ?」
次の階に降りたとき。先頭のバムントさんが素早く剣を構えた。
「モンスターか!」
俺たち三人の前に姿を現したのは、
「生体パターンを認証中、生体パターンを認証中……」
「な、なんだぁ?」
モンスターではなかった。通路の宙に浮かぶ一つのビーチボールのような大きさと形のものだった。
「該当データなし、該当データなし。これより先は立ち入り禁止です。お引き取りください」
宙にぴたっと貼りついたかのように浮かぶそれは無機的な声でそう言った。
「こ、これはなんでしょうか。バムントさん」
「ふ~む」
顎に手をあてて考えるバムントさん。
「おそらく当時の邪教徒たちが作った警備ロボットのようなものだろうな。百年たった今でも動いているとは。恐れ入るな」
ノルノはにやりと笑って、
「警備ロボットか。面白くなってきたじゃないか。よっぽど見られては困るものがこの先にはあるらしいな」
俺はマイネストラスをロボットに向ける。
「そうだな。入るなと言われるとますます入りたくなってしまうよな」
「じゃあ、決まりだな」
俺たち三人は戦闘の準備を整える。
「これより先は立ち入り禁止です。お引き取りください」
俺たちに向かってひたすらそう繰り返す空飛ぶロボット。
「いくぞ!」
バムントさんは大剣を振りかざして警備ロボットに斬りかかった。
「ふんはっ!」
魔法力によって切れ味が数倍も増している大剣によってロボットはスイカのように真っ二つにされる、かのように思われたが。
――バチリ!
ロボットと剣の間にスタンガンのような青白い電気が広がり、バムントさんの一撃はロボットまで届かずに終わったのだった。
「なにぃ!」
すかさず二撃目をくわえるバムントさんだったが、今度のロボットは目にも止まらぬ速さで空中を移動して剣戟をかわしさったのだった。
「これより戦闘フェイズに移行。侵入者を排除します、侵入者を排除します」
ビービーとけたたましい警報音を鳴らし始めるロボット。すぐに俺たちに対して反撃もしてくる。
「電撃、アタッックモード」
ビリビリとした電気を全身に張り巡らせたロボットが猛スピードで体当たりをしてくる。
「うおっと。あぶねぇ!」
当たればスタンガンの比ではない威力だろう。なんとか避ける俺たち。そこへ。
「電雷魔法トルネッケン」
「魔法だとっ?」
ロボットの丸い表面から発せられた電撃が竜巻のように渦巻いて広くはない通路の中を支配する。
「しまったか!」
逃げ場はない。バチバチと静電気をはるかに強力にしたような青白い火花の嵐が前衛のバムントさんに迫る。
「くううう!」
魔法に耐性のある俺はとっさに前に出てマイネストラスを電気の渦に向かって横なぎにする。
「スペル・イクスティンクション!」
マイネストラスの刀身にからまると吸い込まれるようにして消えていく青白い火花。敵の攻撃魔法をある程度は消し去ってしまうことができる勇者の技だった。
「くはあっ」
この技によって俺たちは予想外にして強烈なロボットの魔法をわずかなダメージで切り抜けることができたのだった。
「すまない、トーイチ。助かった」
「いえ。それよりあのロボット、魔法まで使えるなんて。今でもそんなロボットはあるかどうか。当時の邪教徒たちのテクノロジーはすさまじいものだったようですね」
ノルノはロボットに杖を向けて、
「ロボットのくせに魔法とは生意気だな。わたしが本物の魔法を見せてやる!」
早口で呪文を唱える。
「最も偉大にして最も睦まかなる場の力よ。我が力を糧にその轟然たる流れの僅かをここに顕し給え。電雷魔法デルバッケン!」
ノルノの杖の先から発せられてロボットまで一瞬で伸びていく雷のように大きな電撃。
「電撃、バリアモード」
バチリバチリ。ロボットも魔法で電気の壁を作って防ぎにかかるが、
「ぬおりゃあああ!」
より威力を増すノルノの魔法が同じ電気の壁を貫いてロボットに直撃した。
「最大バリアモ……」
――ズガン!
派手に爆発して自身の部品を周囲にまき散らすロボット。床に転がってまったく動きもせず声も出さなくなった。ノルノの魔法が完全にロボットの魔法を上回ったのだった。
「どうだポンコツめ! これが魔法使い様の魔法というものだ。本物は違うんだよ、ふははは!」
上機嫌で高笑いをばらまくノルノ。バムントさんは苦笑して、
「ノルノ。良くやったと言いたいところだが、あまり騒ぐんじゃない。また別のロボットがやって来たぞ」
「げげっ?」
警報を鳴らしながら同じロボットが今度は二体ほど現れた。
「侵入者を排除します、侵入者を排除します」
「……手強いがしかたない。戦うしかないな」
俺たちは再び電気を操るロボットと戦闘に入る。相手の体当たりをどうにかかわしながら俺は言う。
「敵の攻撃パターンはそれほど多くないようです。俺が前で魔法を防ぐので二人はその隙に反撃してください!」
「いいアイディアだ。よし、了解した」
先ほどと同様に魔法を中心に攻撃を仕掛けてくるロボット。
「電雷魔法トルネッケン」
「スペル・イクスティンクション!」
俺が相手の魔法を消してバムントさんが斬り込んでいく。
「ぬんっ。魔法の直後だとさすがに速くは動けんようだな」
完全にロボットを両断するバムントさん。ノルノも、
「ポンコツロボットが何体出てこようと同じだ。くらえ、デルバッケン!」
強引に魔法力の強さでロボットを圧倒する。壊れて爆発する二体のロボット。
「やった。今度はあっという間だったぜ!」
初めこそはびっくりしたがコンビネーションさえしっかり取れれば苦戦する敵ではないようだった。俺たちは武器を構えて少し待っていたが敵の増援はもう来ないようだった。
「終わったか。では、先に進むとするか」
俺たちはいよいよ怪しくなってきた地下施設を奥深くへと入り込んでいく。上の階と違いこの辺りはもう居住スペースではないようだった。
「これは、いったい何の機械だ?」
部屋の多くは広くて中にはかなり大がかりな設備が施されていた。動いてはないようだったがテレビでしか見たことないような特殊な機械が設置されていた。おそらくスーパーコンピューターのようなもの、電子顕微鏡のようなもの、ボンベやチューブや計器などが複雑に合わさったもの。はっきりとした用途は分からないが見た感じだけなら現代の日本で使われていてもまったく違和感のないような機械ばかりだった。どれも電気の代わりに魔法力で動くのだと思われる。
「工場? いや、何かの研究所のようですね」
「そのようだな。問題はいったい何の研究をしていたのか、だな」
ノルノはバムントさんに言う。
「さっきみたいな警備ロボットを作ってたんじゃないのか?」
「それならばわざわざこんな地下深くですることもないだろう。堂々と地上の便利な場所でやった方がいいに決まっている。ロボットなんて特にやましいことじゃないんだからな」
「あ、それはそうか」
納得するノルノ。先に進んでいくと、
「これより先は立ち入り禁止です。お引き取りください」
「おっと。またこいつらか」
その後も俺たちは何度か警備ロボットの相手をしながらさらに地下へと潜っていく。ずっと同じような研究施設や工場のような場所が続く中で、
「あれ、今度の階段はやけに長いな」
いつもより格段に長い階段。俺たちはおよそ五分は歩いたところでようやく下の階にたどり着いた。




