第三章(2)
「グオオオオオ!」
「むっ。またジャファンクスか!」
「やはり、この辺は強力なモンスターが多いですね」
「わたしの魔法をくらえ、ジャファンクス!」
俺たち三人は度重なるモンスターの襲来を退けながら旅を続けていた。
「やっと着いたぜ」
アンドアネルから南へ馬車をとばすこと三日。あまり人が住まないような乾燥地帯、砂漠の入り口。そんな場所に今、俺たちはいた。
「ここが、デルムト遺跡……」
俺たちの目前に広がる崩れてがれきとなった柱や建物の跡。遺跡と呼ぶには少し新しすぎるかもしれない。ここは今から百年ほど前に滅びた街、デルムトであった。
「よし、行くか」
いつものようにバムントさんが先頭となって俺たちは遺跡に向かっていく。以前は街を囲っていたであろう城壁はもはや半分ぐらいしか残っていないが、いちおう正門の辺りから俺たちは遺跡の中に入っていく。廃墟と化した街。まだ使えるような建物も少しは残っているようだったが、盗賊のたぐいでもこの遺跡に住みつくことはないだろう。理由は時折俺たちの足下に転がっていた。
「……これが魔王像か」
街のいたるところに歴代の魔王を形取った石像を見ることができた。このデルムトは魔王を崇拝する人間が作った邪教の街だったのだ。世の中とは不思議なもので人間の敵である魔王でさせ信仰の対象にしてしまう人たちがいた。そういう邪教徒たちが集まって作った街がデルムトだった。
「しかし、皮肉なことにこの街は魔王軍の手によって滅ぼされてしまったんだよな」
百年前、魔獣たちの群れによって集中的に襲われたデルムトはなすすべなく壊滅させられたらしい。それによって邪教徒たちはほとんどいなくなってしまい、今となってはこの廃墟をただ残すだけとなっている。
「とにかく謎の多い場所だ」
当時、このデルムトには強力な魔法使いたちが多くいたらしく政府としても対策に手を焼いていたことが古い記録に残っている。邪教徒たちが集まって何をしていたのか。なぜ魔王軍に襲われてしまったのか。詳しいことは依然として分かっていない。しかし、遺跡周辺にうろつく魔獣はもとより、今でも邪教の魔法使いたちが作った危険なものがこの街の中には現存しているらしく、余程の命知らずでないかぎりこの遺跡に近づく者はいなかった。
「確か資料によるとこの辺りだったと思うけど」
俺たちは危険と承知でこのデルムトにやって来ていた。それはこの街の中でももっとも謎に包まれた場所を調べるためだった。しばらく行くと俺たちの目の前に現れるひときわ大きな建物の跡。その中心辺りにはぽっかりと大きな穴が開いていて、下へと続く広い階段の姿が見えた。
「ここだな。邪教徒たちの作った地下施設というのは」
以前、政府の調査によるとデルムトの邪教徒たちはこの地下施設で何かを極秘裏に行っていたらしい。それは非人道的な儀式だとか新しい魔法の実験だとも言われているが、結局のところは何も分かっていない。なぜならこの地下施設の一番奥まで進んで帰ってきた者はほとんどいなかったからだ。とにかく危険な場所なのは間違いなかった。
「……本当に行くのか、トーイチ」
いつも元気なノルノも不安そうに言ってくる。俺はいまさら引き返すつもりはない。
「ああ、もちろんだ。俺はここに魔王の秘密を解く手がかりが必ずあると信じているからな。でも、危険なのは明白だ。ノルノはここで待っていてもいいんだぞ」
ノルノは怒ったように強い口調で、
「違う! わたしの言っているのはそういうことじゃない。おまえだって知っているはずじゃないか!」
俺の目をまっすぐに見るノルノ。
「ここは先代の勇者が死んだ場所なんだぞ!」
「…………」
俺は無言でノルノを見返す。彼女の言うとおりだった。このデルムト遺跡は今から三十年前に俺の一代前である勇者ピエトロ・テルケが最後に訪れた場所だった。当時の勇者ピエトロはロネア様と二人でパーティを組んでいたらしい。当然、二人もこの地下施設の中には入っていったことだろう。
しかし、アンドアネルに戻ってきたのはロネア様ただ一人だけだった。
ロネア様の言葉では勇者はちょうどこの辺りで死んでしまったらしい。ロネア様は詳しい話はしないようだった。ロネア様も心に深い傷を負ったに違いない。何も語らないのは当然のことだった。
「そうだな。もしかしたらこの中にはロネア様たちでも倒せなかったモンスターがいるのかもしれない。勇者にとって致命的な何かがあるのかもしれない」
俺は神妙に答える。
「しかし、魔王の正体を必死になって探っていた先代勇者も危険と知りながらこのデルムト地下施設に入っていったんだ。ここにはきっと何かがあるはずだ。ロンセリアの危機である今こそ俺もこの先に行かなきゃならないんだ」
「……そうか、おまえの決意は固いようだな」
やあやってノルノはうなずく。
「いいだろう。この天才魔法使いノルノちゃんも最後までおまえの手助けをしてやる。ありがたく思えよ」
「ああ!」
ノルノの頭をなでる俺。バムントさんも、
「トーイチ、俺がそばに付いているかぎりおまえは絶対に死ぬことはない。安心していろ」
「ありがとうございます、バムントさん!」
「うむ。では中に入るぞ」
俺たち三人は不気味に口を開ける穴の中に入り、階段を慎重に降りていったのだった。




