第二話 アフターストーリー
真理は何故か俺の家に来ていた。
インターホンを押すが誰もいない。
こいつバカだろ。亡くなってすぐなんだから、俺の家族は葬祭場にいるだろ。
って、そもそもこいつは何をしに俺の家に来てんだよ。死んだ後も俺をパシる気か?
†
その日から、毎日、真理は俺の家を訪ねた。
「おばさーん! 久しぶり!」
「あれっ、真理ちゃんじゃない。こんなに可愛らしくなって……」
一週間後、ようやく母さんが応対してくれた。
皮肉なことに、こいつのおかげで、
死んでから初めて帰宅することができた。
「あの、拓也にお線香をあげてもいい?」
「ええ、きっとあの子も喜ぶわ」
母さんが目元を押さえていた。
いいや、喜んでねぇよ。
お前が線香なんて似合わねぇ。
むしろ、煙草の方がお似合いだろ。
和室に通された真理は、俺の仏壇の前で手を合わせた。
「拓也ぁ……拓也ぁ……」
彼女は仏壇の前で泣いていた。
お前のこんな姿……見たくなかった。
今さら何でだよ。生前、一度もそんな素振りなんて見せなかったじゃないか。
真理のことを心底嫌いでいれたら、
こんなに嫌な気持ちになることはなかったのに……
真理は涙を拭うと、母さんがいる台所へ向かった。
「おばさん……拓也の部屋にお邪魔していいかな?」
「ええ、まだ手を付けてないから……ゆっくりしていって」
おい、やめろっ! 母さん!
真理を部屋に入れないでくれ!
必死で通せんぼするが、真理の体は俺の霊体を虚しく貫通していった。
「うっ……なんか、生臭いんだけど……」
彼女は鼻を押さえた。
真理は、いつも閉め切っていたカーテンと窓を開け放った。
外からの陽光と涼風が吹き込むが、
それを感じられる体は俺には存在しなかった。
「ここが……拓也の部屋……」
真理は俺のベッドの上に倒れ込んだ。
ちょっ、こいつ何してんだよ……
真理は俺の枕に顔を埋めた。
「不思議……こうしていると……まだ、拓也がここにいるみたい……」
まぁ、間違っちゃいない。
「って……これ……」
俺の机の上にあった写真に真理が気づく。
ちょっ、恥ずいからマジで見ないでくれ!
「うわっ、懐かしい!」
六歳の時、真理と撮ったツーショット。
くっ……まずい……その裏には……
真理の目元を手で覆うが、当然、効果はない。
真理が、写真立てから数枚の写真を取り出す。
「げっ……何これ……」
真理の中学時代の水着写真。
学園祭で着ていたメイド服。
体操着……彼女の寝顔の隠し撮り……
「こいつ……マジでキモい……」
やめてくれぇ、それ以上はリアルにオーバーキルだよ。
中学までは真理と稀に遊ぶことはあった。
いつからだろう。俺たちが今の関係になったのは。
真理は舌打ちをして、写真をぐしゃぐしゃに丸めゴミ箱に捨てた。
うぎゃぁぁ!
俺のお宝が……
手を伸ばすが、秘蔵写真に触れることすら叶わなかった。
真理は六歳の頃のツーショット写真を写真立てに挟み、それを持って母さんの元へ向かった。
「おばさん……これ、もらってもいい?」
「ふふ、いいわよ。まったく、拓也もこんな可愛い娘を残して先に行くなんて、罪な男ねぇ」
「ちょっと、おばさん。私たちそんなんじゃないってば」
そうだ。俺はパシられていたんだぞ!
真理と一緒に抗議する。
真理は写真立てを脇に抱えて、帰宅した。
彼女の机の上に、俺との写真が置かれた。
俺には真理の気持ちはわからない。
今は、こんなに近くにいるのに、彼女の心が何ひとつ読めなかった。
†
「拓也、行ってくるね」
翌朝、真理は俺の写真に向かって、挨拶をした。
俺は写真立ての中にはいないってのに。
二十四時間、真理のそばにいるってことは、
入浴、着替え、寝顔は無料のサブスクのように見放題だ。
不思議なもので、生前あれだけあり余ってた欲求は、何一つ残ってはいなかった。
しかし、守護霊ってのは退屈だな。
俺はいつまで真理と一緒にいなくちゃいけないんだ?
漠然とした疑問が頭から離れなかった。




