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第16話 ドルムの核を調べたら、旧式ゴーレム全員に嫌な可能性が出てきた

「ガルムさん、ドルムさんの核に反応があります」


「俺の勤務外で頼む」


昼前から嫌な報告だった。


俺は門脇の石造り倉庫の前で、腕を組んでいた。


昨日まで倉庫だった場所だ。


今日から俺の専用待機室らしい。


まだ中には入っていない。


入ったら負けな気がする。


居着いたことになる。


だが扉の横には、すでに俺用らしい大きな敷石が置かれていた。


横になっても割れないらしい。


嫌な気遣いだ。


ありがたいのがまた嫌だ。


その待機室の前に、ドルムが立っていた。


いや、立っていたというより、待機していた。


小柄な旧式ゴーレム。


命令術式を壊されたあとも、まだ命令待ちの癖が抜けていない。


動いていいのか。


止まっていいのか。


自分で決めるのが苦手なやつだ。


俺は分かる。


分かりたくないが、分かる。


「命令……待機」


ドルムが低く言った。


「待機は得意だが、命令待ちはやめろ」


俺はそう言った。


言ってから、少しだけ黙った。


自分に言っているみたいで、気分が悪い。


バルグが、待機室の横に立っていた。


立っているだけで壁みたいだ。


昨日からこいつの置き場所が問題になっている。


門の前に置くと門が半分使えない。


広場に置くと市場が半分使えない。


倉庫横に置くと、俺の待機室が日陰になる。


現在、すべて俺に悪い。


「ドルム、補助機系統」


バルグが言った。


「補助機」


俺は顔を上げた。


「また嫌な分類が来たな」


「神鉱守護兵、補助機系統。刻印は損耗。だが一致」


「損耗してるなら他人で押し通せないか」


「否定」


「そこは損耗しろ」


バルグの胸の青が一瞬だけ強くなった。


「今、何か残したな」


「無応答」


「無応答で逃げるな」


信用できない。


アルダが、古い羊皮紙と石板を持ってやってきた。


騎士団長というより、今日は資料係だ。


本人は真面目なので、資料係でも姿勢がいい。


「解析班からの報告だ」


「嫌なものを持ってくる時の顔をしている」


「実際、楽観できる内容ではない」


「もっと嫌な返事をするな」


アルダは石板を台の上に置いた。


そこには古代文字が刻まれている。


丸や線が絡み合ったような文字。


読みたくない。


読めない。


読めないものは読める者が読め。


それが社会の分担だ。


「ドルム殿の核に刻まれていた文字と、バルグ殿の外殻内側に残っていた刻印を照合した」


「いつの間にバルグの内側を調べた」


「本人の許可は取った」


バルグがうなずく。


また地面が少し揺れる。


「点検、受理」


「受理するな。整備士が喜ぶぞ」


リリアが小さく笑った。


「結果として、三つの系統が見えた」


アルダは石板を指で示した。


「主機。支援機。補助機」


「古代文明は名前の付け方が重い」


「ガルム殿が主機。バルグ殿が支援機。ドルム殿が補助機に近い」


「俺は主機を認めていない」


「認めるかどうかとは別に、古代文字はそう示している」


「古代文字に労働相談窓口はないのか」


「ない」


「使えない古代文明だ」


アルダはさらに石板の端を指でなぞった。


「そして、同じ箇所にもう一文ある」


「やめろ。端に重要情報を書くな」


「神鉱守護兵は、何かを守る兵ではない」


アルダの声が、そこで少し低くなった。


「何かを封じるために造られた」


空気が止まった。


いや、たぶん俺がそう感じただけだ。


リリアが息を止める。


バルグの青い核光が、一度だけ強くなった。


ドルムの核も、遅れて震えた。


封じるための兵。


守るためではなく。


閉じ込めるため。


その言葉は、石板の上に乗っているだけなのに、やけに重かった。


「……今のは、聞かなかったことにできるか」


「できません」


リリアが静かに言った。


「だよな」


俺は石板から目をそらした。


いや、目をそらしたのではない。


古代文字から視界を避難させただけだ。


「封印、か」


アルダが低くつぶやく。


「魔王軍が古代兵器に執着している理由も、それかもしれん」


「推測はその辺で止めろ。育つと大きくなる」


「既に大きい」


「嫌な育ち方だ」


リリアはドルムの前に膝をついた。


「ドルムさん。少し核を見てもいいですか」


ドルムは動かない。


「命令……待機」


「命令ではありません」


リリアの声は柔らかい。


「お願いです」


ドルムの青い核光が、小さく揺れた。


「お願い……」


「はい」


「命令では……ない」


俺は返事に困った。


困ったので、口を閉じた。


こういう時、何か言うとだいたい変な方向へ行く。


リリアが静かに浄化を始めた。


白い光が、ドルムの割れ目に触れる。


普通の治癒魔法とは違う。


前にも見た。


俺を磨いた時の、あの光だ。


汚れを落とすだけではない。


外から貼り付いた命令や、古い錆のようなものを、少しずつほどいていく光。


ドルムの核が、青く安定した。


その瞬間、俺の胸の奥でも、小さな石が転がったような感覚があった。


鳴ってはいない。


内部で小石が転がっただけだ。


俺はそう決めた。


「ガルムさん?」


リリアがこちらを見る。


「俺は関係ない。隣で小石が転がっただけだ」


「体内に小石があるんですか」


「あるかもしれないだろ。旧式だぞ」


「整備しましょうか」


「やめろ。見つかったら困る」


何が困るのかは分からない。


だが困る気がした。


ドルムの核光が、ゆっくりと落ち着いていく。


赤い干渉の残りが薄くなり、青い光が戻る。


完全ではない。


だが、昨日よりはましだ。


「待機……」


ドルムがつぶやいた。


俺は身構えた。


また命令待ちに戻るのかと思った。


だが、ドルムはそこで止まった。


青い核光が、小さく揺れる。


「……では、ない」


そこまでだった。


次の言葉は出ない。


ただ、命令ではない言葉が出た。


短くて、欠けていて、頼りない。


それでも、出た。


リリアの手が止まる。


アルダも黙った。


バルグの青い核光が、少しだけ強くなる。


俺はしばらく黙った。


黙ったままだと、何か感動しているように見える。


それは困る。


「不具合だな」


俺は言った。


ドルムは、自分の胸の核を見下ろすように少しうつむいた。


命令されたわけではない。


それでも、言葉が出た。


その事実を、本人が一番処理できていないようだった。


「いい不具合ですね」


リリアが返した。


「いい不具合とは」


「今のは、ドルムさんの言葉です」


「言葉ならもっと分かりやすく出せ。俺が処理に困る」


ドルムの核が、小さくまたたいた。


返事かどうかは分からない。


分からないが、悪い感じではなかった。


アルダが、今度は別の羊皮紙を広げた。


「術式杭の破片から、座標断片が出た」


「話題の角度が急だな」


「この前、魔王軍が使った小型装置だ。破片を調べた」


仕事が早い。


早すぎる仕事は、別の仕事を呼ぶ。


「座標は、魔王軍領境付近の谷を示している」


「谷」


「旧式ゴーレムの廃棄場と見られる」


その言葉で、誰もすぐには動かなかった。


廃棄場。


旧式ゴーレム。


俺は、その二つの単語を頭の中で並べた。


並べたくなかった。


並べても何もいいことがない。


「魔王軍は旧式を廃棄するだけではなく、核や刻印のある個体を再調査している可能性がある」


アルダが続ける。


「今回の偵察部隊も、バルグ殿の回収を狙っていた。ならば、ほかにも同じような個体がいるかもしれん」


「かもしれんで予定を埋めるな」


「予定はもう埋まり始めている」


「最悪の報告だ」


リリアが静かに拳を握った。


ほんの少しだけ。


だが俺には見えた。


「旧式ゴーレムが……集められているんですか」


「まだ断定はできない」


アルダが答える。


「だが、座標と術式の種類から見て、可能性は高い」


ドルムが小さく言った。


「命令……待機……」


リリアが振り返る。


ドルムの核は、また少し揺れていた。


廃棄場という言葉に反応したのか。


命令術式の残りに引っ張られたのか。


それとも、ただ怖いのか。


ゴーレムが怖がるのかと聞かれたら、俺は知らんと答える。


だが、知らんと言って済ませるには、今の光は弱すぎた。


「待機でいい」


俺は言った。


「今はな」


ドルムがこちらを見た。


たぶん。


「待機……では、ない」


「無理に続けるな。壊れる」


俺はそう言ってから、また嫌な気分になった。


壊れる。


その言葉が、旧式には近すぎる。


リリアは何も言わなかった。


ただ、ドルムの外殻に手を置いていた。


バルグが俺の方を向く。


「廃棄場、対応」


「俺の方を見るな」


「旧式ゴーレム、反応多数の可能性」


「可能性をこちらへ押すな」


そこでリリアが口を開いた。


「確認だけでも、必要です」


アルダも頷く。


「救出作戦とまでは言わん。だが、調査は必要だ」


「言葉を軽くしても、中身が重い」


俺はそう返した。


バルグは黙っている。


ドルムも黙っている。


リリアも、アルダも、次の言葉を待っている。


見られているというより、沈黙で机を囲まれている。


会議の形を取るな。


俺はただの元門番だ。


主機でも管理者でもない。


まして旧式ゴーレム相談窓口ではない。


「……確認だけだ」


俺は言った。


「確認だけ。見るだけ。救出作戦とか、保護計画とか、そういう名前はつけるな」


リリアの顔が少し明るくなる。


「はい」


「はい、じゃない。まだ何も決まっていない」


「確認ですね」


「そうだ。確認だ」


バルグがうなずいた。


「確認を了解」


「そこで止めろ。受理するな」


「了解」


受理されなかった。


珍しい。


逆に怖い。


俺はアルダを見た。


「その座標、写しをくれ」


「分かった」


「俺の待機室には貼るなよ」


「なぜだ」


「寝る前に見たら休めない」


アルダは少しだけ目を伏せた。


「……そうだな」


真面目に返すな。


こっちが困る。


リリアがそっと言った。


「ガルムさん」


「なんだ」


「ありがとうございます」


「礼を言うな。まだ何もしていない」


「はい」


「信じるな」


リリアは小さく笑った。


ドルムの核が、ほんの少しだけ青く落ち着く。


バルグは門の横で、やはり大きすぎる影を落としていた。


俺はその影を見上げた。


支援機。


補助機。


主機。


封印。


廃棄場。


余計な肩書きと、危険な場所ばかりが増えていく。


俺は主機ではない。


そう言うつもりだった。


だが、バルグの青い核光と、ドルムの小さな核光が並んで見えた。


言葉が少し遅れた。


その遅れが、たぶん一番まずかった。


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