第6話 そうね、目標はプラミアさんのポヨンポヨン
シャーク・Gにも夏が来た。
いつもは涼を運んでくる潮風も、ここ最近は熱気を運んでくる。港では上半身裸の男たちが、背中に玉のような汗をかきながら、もくもくと働いている。冒険者ギルドにも、汗を拭いながら冒険者たちが出入りしており、エントランスにはむっとした汗のにおいが充満していた。この暑さの中、ダンジョンへ行っていたリオたち「潮風の旅団」も、暑い中をひいひい言いながらギルドに戻ってきた。
「ヒャー、ダンジョンの外はあっちぃなあ!」
愚痴を言うリオを先頭に、五人はまっすぐ受付へと向かう。いつものように受付のファイナが、ビキニアーマー姿でリオたちを迎える。
「おー、今日ばかりはファイナ先生のビキニアーマーがうらやましいぜ。涼しそうで」
「はい、ファイナ先生。今日の戦利品」
リオの軽口をスルーして、キアラがファイナに鞄から取り出した魔石を渡す。その数は30個以上はありそうだ。
「すごいじゃない! 最近調子いいわね、あなた達。もうEランク間近よ」
「「「「おおー」」」」
「潮風の旅団」は現在、最低ランクの一つ上のFランクだ。思わぬ誉め言葉に、五人の顔が一斉に明るくなる。
「でも、どうしてそんな調子いいの?」
「うーむ、ミルの探索のレベルも上がったし、ワシとリオの連携もうまくなったかのう」
「あたし達、魔法組も頑張ってるしね、ロロ」
「そうでにゃんす」
先日のミルの一件から、五人の絆は以前よりも強くなっていた。
熟練の冒険者でもあるファイナは、五人のやり取りから、その変化を敏感に感じ取る。
「うん、前よりもチーム力が上がったようね」
「お、たまには先生らしいこと言うじゃん、ファイナ先生」
「んもう! たまにはは余計よ、リオ君」
「へへ、メンゴメンゴ」
浮かれて調子に乗っているリオとファイナのやり取りを、お腹のポヨンは不満そうに聞いている。
「おい! おめえ達、肝心なこと忘れてんじゃねぇか!」
「お、そうだな。なんつっても俺とポヨンのガッツ力だよな」
「なーに? そのガッツ力って?」
「んじゃ、見せてやっか? なあ、リオ」
「お、いいな、それ」
回数は限られているが、要所要所でガッツ=ブーストを使い、これまでは相手にできなかった高ランク魔獣も倒せるようになった。もっとも、まだボス部屋を攻略できるレベルではないので、ガッツ=アタックは使っていない。
ファイナは他の職員に受付を任せると、一行についてギルド内の訓練場に移動する。
訓練場の中は、近接職と魔法使いの使用スペースが、床に描かれた線で区切られている。それぞれのスペースには、使い込まれた的が数体立っていた。
いつもは冒険者で賑わっているのだが、今日はこの暑さのためか数人しかいない。
リオは壁際に立てかけてある木剣を手に取ると、人型の的の前で剣を中段に構える。
さっきまでの軽い表情が消え、目をつぶって意識を集中させる。
大きく息を吸い込んだ。
「よし、行くぜリオ! ガッツ=ブーストだ!!」
カッとリオの目が見開いた。
「おっしゃ! 俺はやるぜ!!」
「そうだ、その調子だ!」
「俺はやるぜ! 絶対勝つ!!」
ポヨンの体が光を放つ。
「来たぜ! ガッツ=ブースト! からの、身体強化!!」
「うおおーー!!」
身体強化した両脚で床を蹴り、数メートル先へ一気に飛び込む。
的に近づいた瞬間、身体強化をかけた両腕で強烈な突きを放つ。
ズガーーン!
床に固定してある人型の的の足部分が折れた。吹き飛んだ的はそのまま壁に激突し、音を立てて床に転がる。
「へー、凄いじゃない!」
「だろ、ファイナ先生」
ドヤ顔のリオと感心するファイナ。その二人とは対照的に、「潮風の旅団」の連中は壊れて転げ落ちた的を見て真っ青になっている。
「ちょっと、的壊しちゃって大丈夫なの?」
「わしゃ知らん」
「親分、ここは逃げた方がいいでげすよ」
ものすごい音に気付いた副ギルマスのサウリスが、キアラ達四人と入れ替わるように訓練室に入ってきた。
「お前たち、何をやってるんだ?」
「あ、サウリス先生」
ファイナが近づいてくるサウリスに気付いて振り返る。
「おい、リオ! きっと的を壊したこと怒られるぜ」
「だな、みんな! ズラかるぞ……て、あいつらもう逃げてやがる!」
「おう、俺らもずらかるぜ!!」
「あ、おい!」
サウリスの制止も聞かず、リオとポヨンはすたこらと逃げ出した。その後ろ姿を見送ったサウリスが、大きなため息をつく。
「ファイナ先生、あの的はリオ君が……?」
「ええ、凄い威力でしたよ、確か……ガッツとかなんとかって」
「ガッツ……」
(勇者の必殺技はタフネス=アタックだったはず……ガッツとはいったい……)
リオ・ポヨンコンビと勇者の関係を疑っているサウリスは、ファイナの答えを聞いて考えこんでしまう。
その様子を入り口に隠れて見つめる一つの影があった。
……スーシ職人のプラミアだ。
いつもの陽気な様子とは違う、鋭い眼差し。
プラミアは何も言わず、ファイナとサウリスの様子をじっと見つめ続けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
異常な暑さは翌日も続いていた。窓から入ってくる風も生ぬるい。
パンツ一丁でベッドに寝転んでいるリオと、だらけた様子のポヨン。
「あっちぃー、おいリオ、俺を水ン中に入れてくれよ」
「防具がヘタるから駄目だ」
「言ってなかったか? お前の防具、俺の体液でコーティングしてっから、大丈夫なんだって」
初めて聞いた衝撃の事実。
体液っていっても、いろいろあるだろうと、リオは急に不安になってしまう。
「体液って、バッチくないよな?」
「いっそのこと、もっとカッチョイイ防具に引っ越すのもいいな」
「いや、無視かよ! てか、引っ越しなんてできんのかよ?」
「そこはお前、ガッツで何とかなるだろ」
「おまえのそのガッツ信仰もぶれないよな」
なにやら色々と謎が多いスライムだが、この似た者同士のお気楽コンビにとっては、大した問題ではないらしい。
今はそんなことよりも、この暑さを何とかしたい。
「お、だったらリオよ、キアラちゃん誘って海に泳ぎに行こうぜ」
「まあ、防具が大丈夫なんだったらいいか」
「よーし、決まったな。仕方ねえから旅団の三バカにも声かけようぜ」
「お前な……そんなこと言うのやめろよな」
「はは、すまねえ。んじゃ、善は急げ、悪はもっと急げだ! 行くぜ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
さっそくキアラを誘ったのだが……
「男子四人にあたし一人なんて絶対いや!」
とのことで、他にも何人か声をかけたようだ。
強い日差しが照りつける砂浜で待っていると、キアラと三人の女子がやってきた。
「3人パーティーの『三日月の兎』のリーダー、ラビです」
「ロップだよ!」
「バニーよん」
ショートボブ、ツインテール、ゆるふわパーマの女子三人。
男子四人ぷらすスライムの目は、一瞬で釘付けになった。
「「「「うっひょー!!」」」」
「ふー、あんた達、鼻の下伸びすぎ」
やっぱりね……
予想通りの反応をする男子に、キアラのジト目が止まらない。
「ほらほら、あなた達。ちゃんと、準備体操するのよ」
「まあまあ、固いこと言うなよ。ファイナセンセ! あたし達大人も楽しもうぜ」
「んもう! プラミアさんったら!」
キアラは保護者としてファイナにも声をかけていた。
そして、近くで話を聞いていたプラミアも「思いっきり遊ぶぞー!」とついてきた。
ダイナマイトボディーに黒のビキニを着ているプラミア。
一方のファイナは、普段着ているビキニアーマーとは真逆の競泳水着風の水着を着ている。
「おー、目のやり場に困っちゃうプラミアさんと、普段と違う新鮮なファイナ先生か! ええの、ええのぉー!!」
「おまえ、言うことがますますおっさんになってるぞ」
さっきから黄色い体がピンク色に染まりっぱなしのポヨンをリオが諫める。
「まあ、気持ちは分かるけど……三日月のうさちゃんたちー!! あっそぼうよーー!!」
「こっち来なよー! リオー!!」
少年少女たちは海に向かって駆け出し、思い思いに水と戯れる。
大人女子二人は日よけのタープの下で荷物番だ。
ポヨンはリオに防具を脱いでもらって単独行動。
早速「三日月の兎」のリーダー、ラビに近づいて話しかける。
「なあなあ、ラビちゃん。面白いことやってあげるから、俺のこと着てみ」
「いいけど……」
話には聞いていたが、喋る変なスライムに、ラビの表情は若干引き気味だ。
そんなことにはお構いなしに、女子に着てもらったポヨンのテンションが、夏の気温以上に上昇する。
「よし、行くぜ!」
防具を着たラビが水の中に入ると、ポヨンが海面に顔をつけて水を思いっきり吸い込んだ。
腹いっぱいにためた水を一気に吐き出す。
その勢いで、ラビを乗せたままものすごいスピードで海面を進んでいく。
リオと初めて会った時にも見せた、ポヨンジェットだ。
ひとしきり前に進んだ次の瞬間……
「ポヨンジャーンプ!」
一気に飛び上がって、水面に着地する。
ザッパアーーーン!!
「なにこれ? おっもしろーい! ね、ポヨンちゃん、もっかいやって」
「お安い御用だよ、ラビちゃん♡」
見たことのないアトラクションに、元気娘のロップがすぐに興味を示した。
「あー! ラビだけずるーい! 私も、私も」
「おう! 順番にやってやるからな」
パシャパシャと近づいてくるロップを、ニヤニヤ顔のポヨンが迎える。
その様子を、男四人が指をくわえて見ている。
「「「「あんにゃろーー」」」」
四人の嫉妬の炎により、周囲の海水が熱湯に変わる。
ボコボコボコボコボコボコ……
あまりの熱さに耐えかねて、傍にいたキアラとバニーまで逃げ出す始末。
このあとは最後まで男四人で水と戯れるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
遊び疲れた一行は「海の家」で休憩中だ。
潮風が吹き抜ける店内で、焼きそばを堪能中のリオに向かって、ポヨンが興奮した様子で近づいてくる。
「おい、リオ! 明日っから、俺ぁキアラちゃんに着てもらうからな!」
「はぁーー? おめぇ、何言ってんだよ!!」
「今日女子たちに着てもらってわかったんでぃ! もう、男臭えのは嫌なんだよ、これは決定だ!!」
それを聞いたキアラは呆れ顔のまま、冷えた果実水をストローで吸い込む。
「男用の防具なんて着ないわよ。大体あたしは成長期だからね。すぐにポヨンなんて着られなくなっちゃうわよ」
「成長期って……?」
「そうね、目標はプラミアさんのポヨンポヨン」
男たちは、ドヤ顔でリオの質問に答えたキアラとプラミアを見比べる。
「ま、まあ……夢は大きい方がいいでにゃんすよね」
みんな一斉に温かい目になりうんうんと頷く。
「何よそれ?! アンチヒール!!」
「「「「いってーー!!」」」」
ヒールの反対に痛みを与えるアンチヒールに、男四人が飛び上がる。
ちょうどそこへ焼きイカに齧りついたプラミアが、ファイナと一緒にやってきた。
「お前ら、何してんだ?」
「あ、私の目標のプラミアさん」
「お前も何言ってんだ? キアラ」
不思議な顔のまま、プラミアが前の席に座る。その手には焼きイカの他に、冷たいエールも握られている。
プラミアの隣に座ったファイナは、生クリームたっぷりのクレープを幸せそうに齧っている。
「ところで、リオ君、こんなところで聞くのもなんだけど」
「なんすか? ファイナ先生」
「うん。こないだ見せてもらったガッツ何とかって、ポヨンちゃんを着ることによって発動するの?」
「うん、なんかそういう設定みたい」
その言葉に、一瞬だけプラミアの目が鋭くなる。
しかし、すぐにいつもの表情に戻り、何事もなかったように焼きイカに齧り付く。
「それは他の人が着ても発動するものなのか? だったらあたしも一回着てみたいけど」
「プラミアさんのポヨンポヨンじゃ入らないって」
「先輩、んじゃ、あっしが着てみるでにゃんすよ」
「いや、これはリオとの契約だから、他の人が着てもダメだったぜ、確か」
「そうなんでにゃんすか……残念でにゃんす」
ポヨンが思い出したように言う。
「一回着たら、俺か相手が死ぬまでは一蓮托生……みたいな設定だったよな」
「ポヨン、おまえ、そんな大事なこと忘れんなよ」
「仕方ねえだろ、俺が記憶を取り戻したのってつい最近なんだからよ!」
「えっ?! 何、その驚愕の事実!」
おいおい、聞いてないよ!
リオの顔には、そう書いてある。
しかし、今日で味をしめたポヨンにとっては、そんな大事な話よりも女子に着てもらうことの方が重要らしい。
「それより、リオ! おめえなんでキアラちゃんより先に俺を見つけたんだよ!」
「はあー? 急に何言ってんだよ」
「キアラちゃんが先に見つけていたら、今頃二人で仲良く……くーーポヨン一生の不覚だぜ!」
しつこいポヨンに、さすがにリオもうんざりした顔になる。
「お前、いい加減にしねえと今晩飯抜きだぜ」
「メンゴメンゴ! 愛してるぜ! リオ♡」
「ったく、調子いいんだからよ」
ひとしきり休憩も終わって、もう少し遊ぼうと、ぽつぽつとみんなが立ち上がり始める。
「ね、ご飯も食べ終わったし、もうひと泳ぎしてこない?」
「お、いいな、キアラ」
「じゃ、俺はお姉さま方二人にサンオイルでも……」
「おめぇも来るんだよ! ポヨン!!」
「あ、あぁーー! 俺のヌルヌルが……」
未練たらたらのポヨンを、リオが強引に連れていく。
そんな二人の様子を、プラミアは黙ったままじっと見つめていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回のガッツスライム・ポヨンは第7話
【舐めんな、ゴブ公! 嚙みつきだぁーー!】
「潮風の旅団」に最大のピンチが訪れる!
次回も「ガッツだ、ガッツ! ドゥガッツ!!」




