第4話 透視魔法なんか使えたら、楽しそうだなー
リオの家。
昼下がりの光が差し込む部屋で、ベッドに寝転んだ暇そうなリオが鼻をほじりながらポヨンに話しかけた。
「なあ、ポヨン。お前の魔法なんだけどさ……」
「うーん、めんどくせえ話だったらゴメンだぜ」
「例えばだぜ……こう、ガッツ度上げて、透視魔法なんか使えたら、楽しそうだなー、なんて」
ボコッ!
ポヨンの舌が伸びてググっと曲がり、リオの顔面に炸裂する。ポヨンパンチだ。
「いってー、何すんだよ!? ポヨン」
「お前はバカか? この力はそんな理由じゃ発動しねえようにできてるんだよ!」
「どういうことだ?」
「これまで発動したのは、東の森の時と、こないだの募金の時だろ。つまりおめえが困ったときや、他人を助けようってときだ」
リオはこれまでのことを思い返す。確かにポヨンの言うとおりだ。
「この力はな、逆境に陥った時、使命感に燃えてるときに発動するんだ、覚えとけ!」
「あ、ああ……分かったけど、随分お前らしくないこと言うんだな」
「どういう意味……」
――その時、急にポヨンの脳に老人の声が響いた。
「ポヨン、お前にワシのすべての魔法を授けるが、決して自分の欲のために使うでないぞ……」
また一人、青年らしき声が重なる。
「負けないぞ! 逆境が僕を強くしてくれるんだ! 行こう、ポヨン!!」
脳に直接響く声に、ポヨンの顔が苦しそうに歪む。
「う、うぅ……今何かを思い出し……」
「だ、大丈夫か? ポヨン」
リオが心配そうに覗き込むが、さらに二人の女性の声が響く。
「……またお前はイヤらしい目で私たちを見てるのか?」
「もー、ポヨンのエッチ!」
ポヨンはビクッとし、そこで我に返った。
「はっ! 何だ、今の記憶……」
―――老人と青年、二人の女性の声……どこか懐かしい感じがする。
考え込むポヨンに、いつもと違う雰囲気を感じ取ったリオが、不安そうに尋ねる。
「お、おい! 大丈夫か? ポヨン」
自分の気持ちを悟られまいと、ポヨンは慌てて明るく振舞う。
「あ、ああ! 大丈夫。それより、透視魔法だったよな。確かに使えたらいいよなぁ」
透視魔法というワードに、さっきの深刻な空気がリオの頭からすっ飛ぶ。
「だろ? お前だったら誰を見るよ」
「そりゃ プラミアさんだろ」
「まあ、あの爆裂ボディな」
「リオ、おめえはキアラちゃんかよ?」
「かー! だーれがあんなオカメ女」
ガラッ!!
勢いよく扉が開くと、そこにはジト目のキアラが立っていた。氷のように冷たい声が狭い部屋の中に響く。
「オカメで悪かったわね」
「キ、キアラ……おめぇ、いつからそこに……?」
「透視魔法、使えたらいいよなぁ……からですけど?」
「い、いや……あれはただの冗談で……」
「だったら、あたしもその冗談、ギルドの女の子たちに披露してあげるわ」
「やめてー!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに集合した「潮風の旅団」の五人に、何やら不穏な空気が漂っていた。周りをキョロキョロと見回したバルゴが、ふと何かに気づいたように口を開く。
「なんか、ワシらを見る女の子たちの目が冷たいような気がするんじゃがのう?」
「親分の言う通りでげすねぇ……」
「あっしらって言うよりは、先輩を冷たい目で見ているような……」
男三人が一斉にリオの方を見る。
当の本人は座ったままシュンと項垂れ、その横ではキアラが膨れっ面でそっぽを向いている。
「知ーらない! それより今日はダンジョンよね」
「そうじゃ、久し振りじゃのう!」
「親分の言う通りでげす、早く行きやしょうぜ!」
バルゴたちが意気揚々と立ち上がる。リオもしょぼくれた顔のまま、のそのそと立ち上がった。
「おう、リオよ。いつまでも落ち込んでねえでシャキッとしやがれ!」
「そうだな、久し振りのダンジョンだからな。気合入れっか」
ようやく少し元気を取り戻したリオは、四人の後を追ってギルドを出ようとする。
その背中に、教官のファイナが大声で呼びかけた。
「リオくーん! 潜る準備はちゃんとしたのー!」
リオは問いに答える代わりに、振り返って調子よく手を振る。
「まったく、もう……」
ファイナはそんなリオを不安そうな目で見送った。
「あれは……『潮風の旅団』の五人ですか? ファイナ先生」
「ああ、サウリス先生。ええ、リオ君ってお調子者だから、ちょっと心配で……」
「なるほど……」
ギルドを出ていくリオたちの背中をじっと見つめるサウリスだが、先日の騒動を思い返し、何やら胸騒ぎを覚えるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
シャーク・G 港町ダンジョンの中。
薄暗い通路を「潮風の旅団」の五人が進んでいると、物陰から魔物が飛び出してきた。
ザンッ!!
襲いかかってきた魔物を、リオが一刀で切り倒す。
「ドロップ品は無し、魔石だけか」
「まあ、そんなもんじゃろ。しかし、俺らの連係プレイもだいぶ上達したんじゃねえのか」
「親分の指導の賜物ですぜ」
「へへ、そうじゃろか?」
リーダーのリオは剣を収めると、後ろにいる魔法使いの二人を気遣う。
「ロロとキアラ、魔力は大丈夫か?」
「全然平気よ」
「あっしもでにゃんす」
ここまでは大したトラブルもなく、順調そのもの。
そのせいか、五人の間には少しばかり気の緩みが出ていた。
「お、ありゃあ、宝箱じゃのぅ!」
「親分の言う通りでげす。オイラが見てきやす」
通路の先に置かれた宝箱を見つけ、斥候のミルが興奮気味に近づいていく。
「おい、ワシにも見せてくれんかのう?」
「あっしにも!」
バルゴとロロの頭の中も、すでにお宝のことで一杯らしい。笑顔のまま宝箱へ向かって駆け出した。
そんな三人の不用意な行動に、キアラが慌てて声を上げる。
「ダメよ、みんな! 罠かも!!」
しかし、三人の目には宝箱しか映っていない。
ミルはろくに調べもせず、錠前に手をかけた。
カチッ! ブシューーー!!
「「「うわーー!!」」」
宝箱からいきなり緑色の毒霧が噴き出し、三人をすっぽりと包み込んだ。
「大変!」
思わず三人の方へ駆け出そうとするキアラの腕を、リオが咄嗟に掴む。
「危ねぇ! キアラ!」
キアラを抱き寄せたリオの目の前で、バルゴ、ミル、ロロがバタバタと倒れていく。
「ああ…、どうしよう? そうだ! 解毒ポーションよ! リオ!」
「わ、わりぃ、さっきからバッグの中を探してんだけど、体力回復ポーションしかねぇんだ……」
「ど、どうして?」
「これまで毒になんか当たったことがなかったろ……だから……」
初歩的なミスに呆れ顔のキアラだが、ここでリオを非難している時間はない。すでに泡を吹いて意識のなくなっている3人の顔が、徐々に緑色に変化していく。
「私が何とかする!」
「でもキアラ、キュアは苦手だって言ってたろ」
「少しでも時間を稼ぐから、手分けして皆を連れてダンジョンを出ましょう」
「そうだな、頼むぜ! キアラ」
「キュア!!」
キアラが両手をかざすと、眩い光が三人を包む。緑色だった顔が徐々に元の色へと戻っていく。
……が、意識を失ったままピクリとも動かない。
「やっぱり完全に解毒するのは無理。でも、時間は稼げたと思うわ」
しかし、苦手な解毒魔法を無理して使ったため、キアラの魔力も限界を迎えていた。ふらりと体が揺れ、そのまま膝から崩れ落ちる。
「今度は……私が……魔力……切れ……」
「キアラ!!」
慌てて抱きとめるリオ。
キアラはリオの腕をつかむと、上目遣いで顔を見つめた。
「頼んだ……わ……よ……」
それだけ言うと、キアラも意識を失ってしまった。
「わわわわ!! どうする、どうするよ! ポヨン!!」
「落ち着け、リオ! こんな時こそ……」
「「ガッツだ!!」」
「おう! やるぜ!! 俺は出来る、出来る!」
「そうだ、ガッツだ、ガッツ!!」
「俺は助ける、みんなを助けるんだ!」
ググーーとガッツゲージが上がっていく。
プシューー
ところが突然、ゲージは元のゼロまで戻ってしまった。
「お、おい! どうしたよ、リオ?」
「い、いやぁ……逆境とか使命とか聞いたからか、変にビビっちまって……なかなか集中できないっつうか……」
「なっ! ……いや、まず落ち着け、リオ」
「あ、ああ」
リオは倒れているバルゴたち三人を見る。
助けなければならない。それは分かっている。
だが、そう思えば思うほど焦りばかりが大きくなっていく。
「いいか、ここにいる仲間たちは、おめぇがなんとかしねぇとまずいことになる。わかるよな」
無言で頷くリオ。
「キアラちゃんを見てみろい。ここで魔物に襲われりゃひとたまりもねぇぜ」
リオは腕の中のキアラを見る。
「好きなんだろ? キアラちゃんのこと」
「……!」
幼馴染のキアラ。
普段はうるさいくせに頑張り屋で、なんだかんだ言いながら、いつも自分のことをフォローしてくれる。
そんなキアラを見ているうちに、リオの胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
「惚れた女ぁ助けなきゃ、男が廃るぜ! リオよぉ!!」
「ウオー―!! 俺が助ける! やってやる!!」
「そうだ、そうだ!」
「バルゴ! ロロ! ミル!! 俺がぜってー助けるんだ!」
「来たぜ来たぜー!!」
ガッツゲージが一気に跳ね上がる。
ポヨンの体がどんどん光を増し、力があふれ出してくる。
「キアラ! 行くなーー!!」
「ガッツだ! ガッツ! ドゥ!ガッツーー!!」
ビッカー!!
ポヨンの体が眩い光を放つ。
「来たー! すっげえ魔力だ、リオ! 身体強化だ!!」
「よしきた! ポヨン!!」
言うが早いか、リオはバルゴ を背中に背負い、ミルとキアラを両方の脇に抱える。
「ロロはどうする?」
「俺も身体強化されている。ロロの小せえ体なら、俺がくわえても大丈夫だ!」
そういうと、ポヨンはロロのローブの背中部分を口にくわえる。
「ひゃあ! ひこうへ!!(さあ! いこうぜ!!)」
四人を運んでいるとは思えないほどの速さで、リオはダンジョンの出口へ向かって走り出した。
「ギャギャギャギャーー!!」
出口まであと一息のところで、2体のゴブリンが道を塞ぐ。
「邪魔だっ! リオキーーック!!」
ドカッ! ドカッ!
身体強化された蹴りが二体のゴブリンに炸裂する。 ゴブリンを一気に蹴り倒すと、リオはそのまま止まることなく出口へ駆け抜けた。
「誰か! 助けてくれーー!!」
ようやくダンジョンを飛び出したリオの姿を見て、入口にいたギルド職員たちが慌てて駆け寄ってくる。四人が次々と医務室へ運ばれていく。
「間に合った……」
それを見届けたリオはようやく安堵の表情を浮かべ、その場にへたり込むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
意識を取り戻した四人はなんとか冒険者ギルドまで戻ってきた。心身共に疲れ果てた「潮風の旅団」を待ち受けていたのは、ダンジョンの職員から事情を聞いた怒れる大人たちだった。
「ギルマス生活200年、今日ほど呆れたことはないぞい。よよよ……」
「もう! ホント怒るわよ、あんた達。事前の準備はダンジョンの常識!」
「ファイナ先生のいう通りだ。お前ら一ヵ月のダンジョン禁止と、ギルドのトイレ掃除だな」
「「「「ええーー!!」」」」
トイレ掃除と聞いて、男どもは一斉に猛抗議する。
「そりゃないんじゃないかのぅ…… サウリス先生」
「親分の言う通りでげす……」
「そーだよ! そーだよ! ソースだよ!!」
一方のキアラはリオに怒りの矛先を向ける。
「ソースじゃないわよ、リオ! 元はと言えば、あんたが一番悪いんでしょ!」
「すんまそん……」
リオは肩を落とし、小さくなって謝るしかない。
そんな中、斥候として責任を感じていたミルが、バルゴの前におずおずと小さな宝石を差し出してきた。
「こりゃぁ、どうしたんじゃ? ミルよ」
「へへ、親分…… あの宝箱に入ってた宝石のうち、一個だけ掴めたんで……」
「お前も抜け目がないのう」
「これで、みんなスーシでも食ってほしいでげす」
スーシというワードを聞いた途端、ガッツ力を使って腹ペコペコのポヨンの顔がパッと明るくなる。
「感心じゃねえか? バルゴ の腰ぎんちゃく」
「腰ぎんちゃくでげすか……」
腰ぎんちゃくに少し落ち込むミルなどお構いなしに、ポヨンが捲し立てる。
「ずっとロロのくっせー着物くわえて、口ン中が気持ち悪くてよ」
「そんな臭いんでにゃんすか? ショック……でにゃんす」
「口直しに、プラミアさんのいい匂いのするスーシを早く持ってきてくれよ」
「ふふ、心配しなくてもちゃんと持ってきたよ」
そこへ、宝石を手にしたプラミアが満面の笑みでやってくる。その手には山盛りになったスーシが乗った大皿があった。
「雑魚スーシ100貫だ」
「おー! さっすがプラミアさん、分かってるぜ!」
「お前だけ食うんじゃねえからな!」
「わーってるよ! リオ、駆け付けにスーシ三個だ!!」
「へいへい」
リオはスーシをつまむと、ポヨンの口へ次々と入れてやる。
「もぐ……もぐ……しかし、リオよ。次は絶対、男の臭え服はくわえねえからな!」
「冗談!! こんなこと二度とやらないでよね! リーダー!!」
今日はキアラに怒られっぱなしのリオが、不貞腐れて減らず口を叩く。
「ったく、助けなきゃよかったぜ…… こんなオカメ」
「へー」
ジト目でリオを見つめ、なにやらニヤニヤ笑っているキアラ。
「『死ぬなーー!!』って言ってたのは誰ですかねー?」
「おめぇ、なんでそれを……」
「ふっふーん、なんででしょうかねぇー?」
リオの顔がみるみる赤くなる。
「もしかして、あの気絶したフリして聞いてたなーー!!」
「さあ、どうでしょうかねぇー?」
「教えろって! キアラ!」
逃げるキアラを、顔を真っ赤にしたリオが追いかける。
――今日も今日とて、どこまでもキアラに振り回されるリオなのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回のガッツスライム・ポヨンは第5話
【おめぇ、語尾にはちゃんと「げす」をつけろよな!】
バルゴの腰ぎんちゃく、ミルの大ピンチにポヨンはどうする!?
次回も「ガッツだ、ガッツ! ドゥガッツ!!」




