第3話 よっ! おあついねぇ、お二人さん!!
海洋領地シャーク・Gの夜。
下町にあるリオの家ではちょうど晩御飯の時間だった。エプロン姿の母親ノーラは 、土鍋からシャーク・Gの主食である米を茶碗によそいながらぼやく。
「まったく、何だって、そんなへんちくりんなものを拾ってきたかねぇ……」
「仕方ないだろ、勝手に引っ付いたんだよ、母ちゃん」
「なんでぇ、なんでぇ。もっと歓迎してくれんじゃねえのか?」
「いいから二人とも、早いとこ飯食っちまいな」
リオはご飯を一口食べてから、ポヨンの口にも入れてやる。自分で食べられないポヨンは、こうしてリオに食べさせてもらうのだ。
「おい、リオ。そっちの肉、もっとよこせよ」
「最後の唐揚げだぞ、誰がやるかってんだ!」
「んだと、てめえ! やんのか!」
二人のやり取りを、ノーラはくすっと笑いながら見守っていた。冒険者だった夫を亡くしてから、仕立て職人として女手一つでリオを育ててきた。ふと、壁に掛けられた夫の遺影へ視線を向ける。
「あんたが居なくなってから、静かだった我が家も、なんだか騒がしくなってきたわ……」
ほんの少しだけ、目元がしんみりする。
「ほらほら、母ちゃんの唐揚げ一個やるから、喧嘩なんかしてんじゃないよ、ったく」
「わー! お母ちゃん大好きー!」
「まったく、おめえは調子いいな。ポヨン」
ガラッ!
「おばちゃーん! リオ、居る?」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、幼馴染のキアラ=ハートレイ。「潮騒の旅団」の回復担当の魔法使い、ショートカットに大きな目が印象的なお転婆娘である。
「なんだよ、飯時に。相変わらず、ずうずうしいな」
「なによ! ほんとはうれしいくせに。ね、この子がスライムちゃん?」
キアラは人差し指でポヨンをつつく。
「おーカワイ子ちゃん、俺ぁポヨンってんだ、よろしくな!」
「よろしくね。うふふ、かーわいい」
「そ、そう…えへへ」
「ちぇ! こいつ、すっげえ下品だからな。気ぃ付けろよ、キアラ」
「なんでぇ、リオ? おめぇ妬いてんのか?」
「バ…」
バシッ!!
「バカな」と言おうとしたが、キアラに肩を思いっきり叩かれセリフが途切れる。
「って―な!!」
「何よ! あんた焼きもちなんてさ!!」
一方キアラはニヤニヤと満更でもない様子。
「妬いてねえー!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、冒険者ギルドには「潮風の旅団」の四人が集まっていた。
ちなみに、「潮風の旅団」とはリオをリーダーとする五人のパーティーだ。
パーティ名を決めるとき、男たちは「血風の旅団」にしようと大盛上がりだったのだが、「もっとかわいい名前にしなさいよ!」というキアラの猛反対により、今の何ともアンバランスな名前になったのだ。
バルゴとミル、キアラの三人が、リオを囲んでポヨンを見ている。
「この引っ付いてるのがスライム…変わっちょるのう」
「親分の言う通りでげすな」
興味津々のミルがポヨンに人差し指を伸ばしていく。
パクっ!
「わわ! 何するでげすかー?」
ミルの人差し指にかみついたポヨンだが、すぐに吐き出す。
「ぺっ! 男につつかれる趣味はねえよ!」
「おう! ミルに何しとんのじゃ!?」
「やんのか? こら!!」
「おいおい、こんなことで喧嘩すんなよ、ポヨンもバルゴも」
リオが間に入るも、二人ともまだ睨みあったままだ。
パンパン!
呆れ顔で手を叩くキアラ。
「はい、もう終わりよ。二人とも」
「「キアラちゃ~~ん」」
どうやら二人ともキアラには弱いらしい。
「しっかし、ロロのやつ。今日は遅ぇな……せっかく『潮風の旅団』の活動日だってのに」
「そういえば遅いわね」
しびれを切らしたリオが立ち上がる。
「俺、ロロんち行って、聞いてくらぁ!」
「あ、リオ! もう……せっかちなんだから」
◇◇◇◇◇◇◇◇
港町中央広場――
中央には街のシンボルの勇者パーティー3人の像立ち、街を見下ろしている。木々が風に揺れ、屋台の匂いが漂うこの広場は、市民の憩いの場だ。リオはロロの母親から、ロロがここで募金活動をしていると聞いてやってきたのだ。
「しっかし、ロロの奴。何だって募金なんか……?」
「小遣い稼ぎじゃねぇのか?」
「そりゃ、募金泥棒じゃねえか……って、おっ!いたいた」
リオは勇者像の前で募金活動をしているロロを見つける。
ロロは「潮風の旅団」の遠隔攻撃担当の魔法使い。大きなトンガリ帽子からクルクルの赤毛がはみ出し、小さな体にローブを着ている。
ロロの隣には修道服を着た女性とおさげ髪の少女、他にも子供たちが数人。リオとポヨンはその集団に近づいていく。
「「「募金お願いしまーーす!」」」
「よお! ロロ」
「せ、先輩! どうしてここが分かったでにゃんすか?」
「どうしてって、おめぇの親に聞いたんだよ。おめぇこそ、何だって募金なんか?」
すると、修道服姿の女性がリオとロロの間に入る。
「それは、私から説明しますわ」
「えっと……あなたは?」
「私はこの街の教会のシスター・レーラです。隣のこの子は妹のミーサ」
レーラの話では、領主からの教会運営費が今月から急に減額されたらしい。孤児院の子たちを連れて募金活動をしているのは、その不足分を補うためだ。
「そんなことが……でも、ロロはなんで?」
「いや、あっしはその……」
しどろもどろのロロは恥ずかしそうにミーサをチラチラと見ている。代わりにミーサがしっかりとした口調で答える。
「ロロ君は、前から孤児院の掃除とか、色々手伝ってくれてたんです。事情を知って募金活動も手伝ってくれて……私たち、本当に感謝しているんです」
ミーサの誉め言葉にロロの顔が赤く染まる。
「なんでぇ、おめぇ。この女の子が好きなのかよ!?」
ポヨンの直球に、ロロの顔はさらに赤くなり、赤毛と区別がつかないくらいだ。
「おめぇはホントにデリカシーがねえスライムだよな」
「こういうのはバシッと言った方がいいんだよ!」
「スライムに恋愛を語られてもなぁ」
リオとポヨンの掛け合いに、ロロたちはキョトンだ。
「あ、あのーリオさん? いまお腹がしゃべったように見えたのですが…?」
「失礼、綺麗なお嬢さん。私はポヨン、見ての通りスペシャルなスライムです」
「は…はあ」
「事情は聞きました。是非、私にもお手伝いさせてください。美しいレーラ姫」
苦笑いするしかないレーラ。
「ドン引きされてんじゃねえか、カッコつけんなよ! バカスラ!」
「うっせぇ! アホリオ!」
なんやかんやあったが、結局「潮風の旅団」全員で募金を手伝うことになり、リオはロロと一緒に再び冒険者ギルドへ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「でも、おかしいわよね。急にお金が減らされるなんて?」
「そう言えばそうでにゃんすね」
冒険者ギルドで事情を聞いた三人は募金活動を手伝うことにしたのだが、キアラは納得のいかない表情だ。
「あたし、ギルマスに相談してくるから、みんなは先に募金に行ってて」
「「「おう!」」」
キアラは受付のファイナに許可を取ったあと、キアラはギルマス室へ向かい、孤児院の事情を説明する。
「ギルマス生活200年、そんなことがあったとは……」
タウレンもサウリスも神妙な顔だ。
「しかし、儂の知っている御領主はそんなことをする人物とは思えんぞい……」
「ギルマス、これは何か裏があるのではないですか? ちょっと調べてみます」
「ふむ、頼んだぞい」
◇◇◇◇◇◇◇◇
町の広場ではレーラたちが募金活動を続けていた。子供たちの必死さに心を動かされた市民が、ぽつぽつと募金箱にお金を入れていく。そんな善意の人たちとは真逆の、ガラの悪い五人の冒険者が近づいてくる。
「おい、あの役人『教会の連中がうるせぇから、ちょっと脅してビビらせてこい』って言ってよな」
「ああ、ついでにガキ共が集めた金も巻き上げて、俺たちの懐に入れちまおうぜ」
近づいてくる五人に気付いたレーラは、恐怖で顔をひきつらせながらも、勇気を振り絞って声をかける。
「な、なんですか? あなたたちは?」
「へっへへ。おめぇら、随分と稼いでるようじゃねぇか」
「俺ら貧しい冒険者に、愛の募金をおねがいしまーす!」
「ガハハハハ」
気丈にもレーラが男たちに反論する。
「こんなことをして許されると思っているのですか?」
「そいつは領主に聞いてみるんだな」
その時、つかつかと前に出てきたミーサが、男の脛を蹴り上げる。
「いってー! 何しやがんだ、このガキャ!」
男に蹴られて吹っ飛ぶミーサ。
すぐにレーラが駆け寄り助けを呼ぶが、周囲の大人たちは気まずそうにその場から立ち去っていく。
「おい! ありゃあ、まずいのう!」
「親分の言う通りでげす!」
「急ぐでにゃんす!!」
ちょうどリオたち四人も広場に駆けつけたところだ。
「ミーサちゃん!!」
ロロがミーサのところへ駆け寄り抱き上げる。
「女子供いじめとは、冒険者の風上にも置けねぇ奴らじゃのう」
「そうだ! 親分の言う通りでげす」
「おい、リオ。あいつら、この間ギルドで絡んできた奴らだぜ」
「ああ、そうだな」
ポヨンは以前ギルドで足を引っかけてきた男たちのことをしっかり覚えていた。
「おもしれぇ、防具脱げ、リオ! 一人は俺がやる」
防具を脱いで地面に置くと、ポヨンがピョンピョン飛び跳ねウォーミングアップを始める。リオも五人のチンピラ冒険者の方へ向き直る。
「ケツの青いガキどもが、俺らにかなうと思ってんのか?」
「ケツの臭え、おめえらには負ける気がせんのう! 行くぞ、ミル!!」
「おうでげす!」
リオたち四人とポヨンが一斉に突っ込む。
「ポヨンジャーンプ!! からの噛みつきでえ!」
「イテテテテ!」
ポヨンがジャンプで躍り出て、男の鼻に噛みつく。
「離せ、離せよ!!」
「ぺっ!」
鼻を離して地面に降り立つポヨンに、男が殴りかかってくる。
「この、雑魚スライムがー!」
「ポヨンパーンチ!!」
ポヨの長い舌が勢いよく飛び出し、男を殴り倒す。まさかの攻撃に油断したチンピラは脳震盪を起こしてその場に倒れ込む。
残りの四人のチンピラも、主にバルゴの活躍で地面に転がった。
「やったな! リオ!!」
「おう、こんなもんよ!」
ホッとするリオたちだったが、そこに一際体の大きな冒険者がやってくる。
「俺の弟分どもをこんなにしちまったのはお前らか?」
「あ、兄貴!!」
「ぐるぁーー!!」
いきなりバルゴとミルに襲いかかる兄貴と呼ばれた男。その強烈なパンチにバルゴとミロが吹っ飛ぶ。
「へへ、ゴンドーさんはな、C級冒険者なんだ。おめえら雑魚が何人かかっても倒せねぇぜ!」
「C級冒険者……」
ロロの表情が恐怖で曇る。しかし、すでに防具を着たリオとポヨンはひるまない。
「リオ! わかってんな!!」
「ああ、ガッツだろ! 俺は負けねえ!! 絶対勝つ!!」
急に叫び出したリオに、ゴンドーがバカにしたように笑いだす。
「おいおい、ガキが! 何言ってんだぁ?」
「うるせー! おめえは絶対許さねえぞ!!」
「来た来た来た!」
「仲間たちも、ここにいる子供たちも、俺が皆を助けるんだー!」
ガッツゲージがぐんぐん上昇し、ポヨンの体が光を放ち始める。
「俺が最強だーー!!」
「ガッツだ、ガッツ! ドゥ!ガッツでぃ!!」
ビッカーー!!
「身体強化だ!! 行くぜ、リオ!」
リオは身体強化した足で、あっという間にゴンドーの前に躍り出る。しかしゴンドーもさすがC級冒険者、直ちに反応してパンチを繰り出す。
バシッ!
そのパンチを右手で掴み、リオは渾身の左ストレートを叩き込む。
「リオパーンチ!」
吹っ飛んだゴンドーに追い打ちの蹴りが炸裂する。
「アーンド、リオキーーク!」
「うぎゃーー!」
ゴンドーが吹き飛び、その様子を見て青ざめたチンピラ五人は、ゴンドーを担いで這う這うの体で逃げ出していった。
事態が収束した頃、ちょうどキアラが駆けつける。
「ちょっと、あんた達。何やってんのよもう! ヒール×4っと」
「へへ、あんがとな。キアラ」
苦笑いしながら、立ち上がる男たち。するとロロのもとへミーサが近づいてくる。
「ありがとね、ロロ君。見直しちゃった…チュッ」
ロロの頬に軽くキスをするミーサ、真っ赤になるロロ。
「よっ! おあついねぇ、お二人さん!!」
「「「「ハハハハハ」」」」
そんな二人を、周りのみんなは温かく見守るのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに着くや否や、ギルマス室に呼ばれたリオたち五人にサウリスが事情を説明する。どうやら孤児院担当の役人が費用を着服していたとのこと。募金活動で横領が発覚することを恐れた役人が、チンピラ冒険者を使って黙らせようとしたのだ。サウリスの訴えにより、不足分はちゃんと孤児院へ入金されるそうだ。
また、チンピラ冒険者5人とC級冒険者ゴンドーは厳重注意を受け、次回問題を起こしたらギルド資格剥奪になるとのことだ。
「いやー、これで一件落着ってわけだ。良かったな、ロロ」
「先輩…これもみんなのお陰でにゃんす。ありがとう、みんな」
「よし! めでてえな! これからみんなでスーシ食いに行こうぜ!! ギルマスの奢りで」
「「「「あざっす!」」」」
「よよよ……ギルマス生活200年、最近たかられてばかりじゃぞい」
部屋から出ていく五人とタウレン。サウリスはその中のリオをじっと見つめていた。
「F級冒険者のリオがC級冒険者を倒しただと……いったい何が起こったんだ?」
今回の一件で、サウリスの疑惑はさらに深まっていくのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回のガッツスライム・ポヨンは第4話
【透視魔法なんか使えたら、楽しそうだなー】
ダンジョンでのピンチがリオとポヨンを襲う。
次回も「ガッツだ、ガッツ! ドゥガッツ!!」




